第8話
森の中、小さな子供が1人、
ドラゴンの卵を落とさないように
両手で抱えながらえっちらおっちら進んでいる。
「ふう、さすがに重いな・・・」
卵から怒気がただよう。
「え? じょ、じょうだん、じょうだん」
突然の事に驚き、慌てて言い訳をする。
すると、スッと怒気がなくなる。
(も、もう自我があるの!?)
背中にうっすらと冷や汗をかく。
小川に沿って行きとは逆、
下流に向かって進んでいくと
座るのにちょうど良い石を見つけたので
腰掛けて休む。
卵は膝の上に乗せる。
(どんな子が生まれてくるのかな?
名前の感じからするとメスかな?
重いって言ったら怒ったし。)
「楽しみだなぁ」
ニコニコと卵を見つめる。
さて、そろそろ休憩を終わりにしようと
立ち上がった時、奴らは現れた。
ガサガサと茂みがなる音がした。
振り返ると10匹のゴブリンがいた。
この森に入ってから初の魔物との遭遇だった。
「ギギギ」
「ゲ、ゲゲゲゲ」
「グゲ、グゲ」
ゴブリンは僕と卵を交互に見つめ
盛り上がっている。
恐らく、子供、卵付きで喜んでいるのだろう。
「「「グギギギー!」」」
ゴブリン10匹が一斉に襲いかかってくる。
相手は子供1人、完全に油断している。
じゃあ、剣でパパッと倒すか。
・・・・・・。
両手塞がってた!
よし、魔法を使おう
「落とし穴」
ゴブリン達の足元に魔法陣が出現。
ゴブリン達は下品な笑いを浮かべ、
そのまま10匹の醜いゴブリンは
落とし穴へ消えていった。
ゴブリン達のわめき声が聞こえる。
穴の深さは10メートルほど。
登っては来れないだろうが
関係ない動物が落とし穴にはまったら
かわいそうなので元に戻しておく。
ゴブリン達のわめき声が消る。
小川の流れる水音が心地よい。
「落とし穴」
「落とし穴」
「落とし穴」
・・・・・・・・・
その後、森の入り口まで
出会ったゴブリンを落とし穴にはめ、
埋める作業を15回やった。
ーーーーーーーーーーー
「ただいまー!」
家に帰った時には空が
綺麗な赤色に染まっていた。
「あ、ユート様、おかえりなさい。
無事に帰ってきてよかったです」
「マリアお姉ちゃん、ただいま。
おひるごはんおいしかったよ。
ありがとう。」
「ユート様、その白い石は
どうしたんですか?」
「白い石?ドラゴンの卵のこと?」
「!!」
玄関で固まってしまった
マリアお姉ちゃんの横を通り過ぎ
リビングへ向かう。
「お母さん、お父さん、ただいまー。」
「おかえりなさい、ユート」
「おかえり、ユート。ところで
その腕に抱えているものはなんだい?」
「ドラゴンの卵だよ。
大きいドラゴンさんにもらったよ」
「「・・・」」
そのまま両親は黙り込んでしまう。
「? どーしたの?」
「・・・うん。まずは何があったか
お父さんとお母さんに話してくれるかな」
「うん!」
そして、僕は両親に森であった出来事を話した。
「そうか、西の森にドラゴンが・・・」
お父さんが頭を抱えている。
お母さんは最初は驚いていたけれど
今はいつもの優しい雰囲気に戻っている。
「親のドラゴンは死んでいるんだよね?」
「そーだよ、お父さん、こんどいっしょに行く?」
「じゃあ、お願いしようかな」
「わかった!」
「それよりユート、きちんと育てられる?」
とお母さん。
「うん、ドラゴンさんと約束したもん。
ちゃんと育てるよ。」
「ならいいわ。
長老ならドラゴンの卵について
何か知っっているかもしれないわ」
「! じゃあ、行ってくるね」
僕は卵を抱えて長老の家へ向かった。
ーーーーーーーーーー
「ホッホッホ、そんなんでは当たらぬぞ」
「くっ!」
長老の家に行ったら
長老とクロエが模擬戦をしていた。
クロエは攻撃をしているが
それをおじいちゃんは涼しい顔で避けている。
あ、おじいちゃんがこっちを見た。
手を振ってきたので振りかえす。
それを見たクロエもこちらを見る。
あ、ばか、よそ見なんかしたら・・・
「ホッホッホ、余裕じゃのう、クロエ」
はっ、とおじいちゃんを見るクロエ。
姿がぶれるおじいちゃん。
宙を舞うクロエ。
何が起こったのかわからなかった。
本当に60超えているのか?
「ホッホッホ、まだまだ要修行じゃのう
いらっしゃい、ユート、
今日はどうしたのかのう」
「えっと、ドラゴンの卵をもらったから
育て方を教えて欲しいの」
「え! ドラゴンの卵!」
床で伸びていたクロエが跳ね起きて
こちらに駆け寄ってくる。
「うわー、これがドラゴンの卵?」
「うん、そうだよ」
「すごい、すごい、ほんものだー!」
はしゃぐクロエ。
珍しい、クロエはしっかり者なので
こういった姿を見たのは初めてだ。
「それで、育て方じゃったかのう?
卵は温めておく必要があるのう。
それから、魔力も与えなければ
孵らないのう。生まれたら
肉をあげれば良いと思うぞ。」
「わかった。おじいちゃん、ありがとう」
「ホッホッホ、どういたしまして」
「私、マルコとアルマにも教えてくる」
家に帰り、毛布で巣のようなものを作り
その上に卵をのせた。
翌日から卵が孵るまで
僕、アルマ、マルコ、クロエの
4人で卵の観察会が開かれた。
ゴブリン
体長1メートルぐらい。
体の色は緑色。
集落をつくり、そこで生活している。
雄と雌のゴブリンがいる。
雑食、人間も食べる。
繁殖力が高く、すぐ増える。
放っておくと集落が大きくなり
近隣の町や村に被害が出る。
そのため定期的に狩られている。
集団で群れると厄介だが、頭が悪く、弱いので
初心者冒険者の重要な収入源になっている。