六話 強くなったようです
俺は木っ端微塵になった的を、ただただ見つめていた。
的は恐らく魔法で作られていたのだろう。破壊されたそれは淡い光になり、しばらくして消失した。
俺はその光景をみて思った。
このペン。前よりも強力になってね?
確かに、前回使ったときには既に、木を貫通するほどの威力はあっが、今回のは明らかにそれより上だ。
火球を当てても完全に壊れないような的だ。間接的にこの赤ペンは彼女の魔法より高威力ということになる。
「えーと、これは」
「…………」
横を見ると、よほど予想外だったのだろう。女子二人は茫然としていた。特に勝負を挑んできたほうなんか、生きてるのか疑わしいほどだ。
うん、分かる。俺もよく分からないから。
「えっと……ハルトさん、これは一体?」
シルフィーが話しかけてきた。どうやら、放心状態から復帰したようだ。
「俺にもよくわからない。そもそも、これは魔法なのか?」
「ど、どうなんですかね」
シルフィーは困ったように返事をした。
すると、ようやく復活したもう片方の彼女が、間髪入れずに話しかけてきた。
「ええ、これは間違いなく魔法よ! だって、あの的は物理干渉は受け付けないもの!」
「そ、そうか」
彼女が息を荒くして力説する。
そうなのか。あぶないあぶない。もし拳銃なんて使えば、即バレてたじゃねーか。
ところで、なんでお前ははそんな興奮してるんだ。
「凄いわ! あんなに高威力の魔法を見たのなんて初めて。
確かに、1番隊の人達になれば、これ以上の威力の魔法が放てる人もいるけど、詠唱も何もなしに発動するなんて!」
「そ、そんな凄いの……?」
「凄いなんてもんじゃないわ! あなた天才よ」
ダメだ。さっきまで自分を変態扱いしてた人に言われても、違和感しか感じない。
こいつ、相手が実力者なら何しても認めるのかな?
「いや、見た目とは裏腹にこんな実力者だったなんて、あなたを見くびってたわ! なんで、今日の今日までここに入らなかったのよ!」
「そんなこと言われてもなぁ……」
今日ここへ初めて来たのだから仕方ない。
「ねえ、あなた。名前はなんていうの?」
そういわれて俺は漸く気付いた。そういや、お互い名前をまだ聞いてなかったな。
「俺は陽人。分かってると思うけど、今日から17番隊に入った。よろしく」
「ハルトね。私の名前はリーチェ、よろしく」
俺は握手をしようと左手を差し出した。
…………あれ? 握り返してこない。
「なに? なんで、変質者かもしれない人の手を握らないといけないのよ」
「お前、まだそのこと引きずってたのかよ!?」
とりあえず、さっきの出来事で興が覚めたのか、彼女の熱弁はやっとのことで止まった。
なので、俺はひとつ疑問に思っていたことを聞いてみた。
「ところで、さっき1番隊とか言ってたけど、ここに隊はいくつあるのんだ? あと、なんか振り分けに決まりがあるとか」
「へっ? 小学校の社会科で習わなかったの?」
「……いや、俺ってばバカだから忘れちゃって」
……ということにしておこう。こっちの世界の教育なんて知らないし。
異世界から来たといえば、説明してもらえるかもしれないが、教えていいのかも不明だ。
あとでギルドマスターに聞いておこう。
「なーんだ、魔法が強いだけの脳なしか」
「いきなり毒舌かよ」
「しょうがないわね。教えてあげる」
そういうと、彼女は鼻高々といった感じで解説し始めた。
…………小学校の学習内容なんだよね?
「じゃあ、説明するわ。
まず、このギルドには全部で20の部隊があるわ。それでいて、各部隊は大体の役割が決められているの。
まず、1~3番隊。この3つの部隊は最高難度の魔物を任される。勿論、危険性も高まるけど、それだけ収入もいいし、実力者も多くなる。
次に、4~9番隊。彼らは自警団のいない地方へ飛ばされたり、危険度の高い街の防衛につく。4、5辺りは上位の部隊と合同の任務を行うこともあるけどね」
「ふーん」
情報量が多すぎて、実は途中から聞いちゃいない。
自分から聞いといてあれだが……
あと彼女、基本的に早口みたいで、理解する前に次々話される。きっとせっかちな性格なんだな。
「次に10~16番隊ね。彼らは自警団の少ない街へ赴いて、補助的に働くわ。といっても決して弱い魔物しか出ないなんてことはないし、勿論高位の魔物がでる可能性もある。」
「へー」
「ねえ、さっきから聞いてる?」
「うん、聞いてる聞いてる」
聞くは聞くでも『聞き流す』だけど。
「じゃあ次は18~20番隊」
「あれ?俺らの17番隊は?」
「あとで話すから」
そういうと、彼女は解説を再開した。
それにしても、なぜ17番隊だけ飛ばしたのだろうか。もしかして、特殊な部隊なのだろうか。例えば、全員が俺みたいに異世界の人とか。
なんてことを、妄想をしていたら、18~20番隊の解説を聞きのがしてしまった。
どうしよう、頼めばもう一度言ってもらえるかな?
よし、言ってみよう。と思った矢先、
「ねえ、本当に聞いてる? 間違っても2回は説明しないからね」
「ハイ、キイテマスヨ……?」
釘を刺されてしまった。多分、これじゃ頼んでも無理だな。
あとでシルフィーにでも聞くか。
「で、お待たせしました、我らが17番隊!」
金髪の彼女が無い胸を張って言う。
「17番隊はなんといってもエリート!」
「……エリート?」
「……になるかもしれない未来の卵達で構成された部隊」
「うん」
なるほど。つまり、俺たちはエリートになる素質を持った集まりなんだな。
あれ、エリート?
「なあ、それって俺も含まれんの?」
「当たり前じゃない。あなた17番隊の新入りでしょ?」
どういうことだ。俺なんか魔法のひとつも使えやしないのに、なんであの爺さんはここへと俺を入れたんだ?
「どうしたのよ?」
「ああ、いや。少し考え事を」
「へぇ、馬鹿も馬鹿なりに何か考えてるのね」
本当に一々発言に棘がある。俺はイラつく気持ちをグッとこらえる。
しばらくすると、彼女は鼻を高くして解説を再開させた。ほんとプライド高そうだな、こいつ。
「じゃあ、今から17番隊の一番の特徴を言うわね」
「エリートの卵が集まるんでしょ?」
「それだけじゃない。この17番隊は
1~16番隊、全ての仕事を引き受けることができる」
「…………は?」
「つまり、やろうと思えば1番隊がやっているような
高位の魔物との戦闘も許されるの。
ただし、ギルドマスターの許可が必要だけどね」
つまりあれか?
エリートの卵だから色んな経験を積ませて、超一流の討伐隊にしよう。てことか?
「あのー……そろそろ、夕食の時間だと思うんですけど……」
不意にシルフィーがオドオドとしながら、話に割って入ってきた。
そういや、ここに来てから、まだ何も口にしてなかったな。
そんなことを考えたときだった。
突如として、辺りを轟音が貫いた。
断続的に聞こえてくるそれは、どうやらこの建物内から聞こえてきていた。