五話 尋問されるようです
「どうしてこうなったし」
ただいま俺は、なんと両腕を紐で縛られている。さらに、少女二人の前で土下座させられている。
よく分からないが、寝て起きたらこうなっていたんだ。
本当にどうしてこうなった。
「さあ、なんであの部屋にいたのか吐きなさい!」
金髪の長いサイドテールをした少女が語気を荒げて言う。
知らない子だけど、恐らくこの子も17番隊だろう。
「なぜって、そりゃ睡眠をとるためだよ。寝てんの見りゃ分かるだろ」
「私はなんであの部屋で寝てたのか聞いてるの!」
「だって、あの部屋17番隊の部屋でしょ?」
俺はそういって彼女の後ろ、正しくは後ろに隠れているシルフィーを見る。
彼女は小さく頷いているように見える。口に出してくれたらいいのに。
ていうか、なんで涙目になってるの?
「ふぅん?
じゃあ、17番隊に何のよう? 部外者は立ち入り禁止の筈だけど。ていうか、そもそもあそこは女子の部屋なんだけど」
なにそれ、初耳。
後ろのシルフィーがヘコヘコと頭を下げているが、言い逃してたことを謝罪してるのだろう。でも、先ずはこの人をなんとかして。
「えーっと、女子の部屋に入ってしまったのは、そのことを知らなかったからというか、不慮の事故というか」
「へー。まだ、しらを切るつもり? この変態ドすけべ野郎!」
「変態ドすけべ!?」
事情も聞かずに変態呼ばわりとは。
すると、不意に俺に近づいてきてた彼女は突然襟元を掴んできた。あの、顔がちかいです。
「さあ、吐きなさい。あんた、女子の部屋に忍び込んでセクラハしようとしてたんでしょ」
「堂々と眠ってる時点で、忍び込めてないんですが」
「じゃあ、部屋の匂いでも嗅いで興奮してたんでしょ」
「だから、熟睡してたじゃん。興奮してたら寝れない」
さっきから、多分に妄想が含まれた疑惑をかけられる。
ほんとにしつこく聞かれるので、ちらりと目線でシルフィーに助けを求める。すると、彼女は察したのか戸惑いながらも、そろそろと近寄ってきた。
「あの、この人17番隊の新入りで……」
「んなこと、話聞いてりゃ分かるわよ」
「でさ、部屋を間違えたのは私がきちんと説明してなかったからで……」
おお! よかった。ちゃんと擁護してくれてるみたい。
「あいつ、17番隊の部屋って分かってて入ってきたのよね? じゃあ、女子部屋なこともわかってるはずじゃない?」
「あ、確かに」
寝返られた。
「ちょっと、本当に誤解だってば!」
「じゃあ、証拠見せてよ」
「ぐぬぬ、その場の状況とかさ」
「ふぅん?」
本当にこれ押し問答だな。解決の糸口が見えない。
しばらく押し黙っていると、呆れて見かねたのか彼女が言ってきた。
「わかったわよ。とりあえず、今回のことは水に流してあげる。
俺はこれを聴いて少しほっとした。が、それも束の間。
「ただし、『魔法』で私に勝てたらね!」
彼女の口元がニヤリと曲がる。
どうやら、俺をどうやってでも変質者へ仕立てあげたいようだ。
突然、俺を縛る紐を引っ張りはじめた彼女は、建物内の廊下を縫うように進み、ある広場へ連れてきた。
「ここは?」
「見てわかんない?」
綺麗な芝生が生えた広場。それにしか見えない。ベンチの他には何も見当たらない、丘のような広場。
室内のはずなのに不思議な空間だ。
「えーと、ここは」
何も答えられない俺に呆れてか、彼女は大きな溜め息をついた。
「ここは魔法専用の練習場。ここにいる人ならみんな知ってる。もはや常識」
彼女が右手をかざすと、地面から透けるようにして、円形の的が出てきた。
アーチェリーのように縞模様で円形の的で、中心から順番に10点、9点と下がっていく。
ただ、ひとつ違いを述べるなら的が中に浮いている、ということか。
「じゃあ、私が先攻ね」
分厚い本を左手に乗せ右手を標的物へ向ける。
距離は25メートル、的は100㎝弱ほどか。
何やらぶつぶつと唱えはじめた彼女の右手に、徐々に力が溜まっていくのが分かった。
数秒後、呪文を唱え終えた彼女の掌から勢いよく火球を放たれる。
さすが勝負を挑んでくるだけのことはある。それは、的のど真ん中を意図も容易く貫いていったのだ。
「さあ、次はあなたの番よ?」
彼女が自分の本を手渡してきた。
とりあえず、本の中身を確認してみる。
……なるほど。分からん。
文字はあの黒い本とは違って日本語なので読めるのだが、内容や図の示す意味がさっぱり意味不明だ。
困った俺は、ちらりを横をみる。
シルフィーが不安そうに此方を見てくる。女の子にそんな見つめられたら、男として頑張らない訳にはいかないじゃん。
とりあえず、この本は俺には用無しだ。
金髪少女にそれを返してから、俺は考えた。
さて、まずは魔法について俺の考えをまとめよう。
この世界の魔法は恐らく、詠唱みたいなものが必要なものがある。
しかし、俺にはそれに関しての知識は0だ。はっきり言って全くない。
とりあえず拳銃でもいい。誤魔化しが効くものでこの場を切り抜けるしかない。
その時ふと思い出した。
あの赤ペン、使えるんじゃね?
路上で油を食ってたときにズボンのポケットに入れてから入れっぱなしだったようで、それはすぐに見つかった。
俺はそれを取り出してみる。
赤色の紡錘型をしたそれは、金色の模様がついて、とてもじゃないが元がそこら辺の安物ボールペンだという風には見えなかった。
「ねえ、なにそれ。それって貴方の魔装具?」
「分からん」
彼女が尋ねてきたが、答えはしない。そもそも魔装具が何物なのか知らないし。
俺はペンの先端を的へと向ける。
そして、狙いを定めた俺は思い切ってペンのボタンを押した。
勢いよく放たれた光線は的の中心を捉え、それはものの見事に爆発四散した。