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三話 帰れないようです

 兵士は固まったまま、視線を俺の左手から動かそうとしない。どうやら、彼はケータイが変化して出来た謎の書物に釘付けのようだ。


「あの、これがどうかしたんですか」

「お前、それをどうやって手にいれた」

「どうやってと言われましても」


 知らない間に手にいれてた。なんて、素直にいっても信じてはもらえないだろう。そもそも、これは一体何なんだ?


「事情がかわった。お前をキャラバンへと連れていく」

「な、何なんですか?さっきからギルドやらキャラバンって」


 彼が自分の質問に答えることはなく、後ろ手に手錠をかけてきた。


 しばらくして、彼はぶつぶつと独り言を始めた。いや、会話の内容を聞く限り、電話だろうか?

 だがしかし、彼の耳元には何もない。もしかして、ここは自分達がいる世界より文明が進んでいるのか?


 よし、俺が元の世界に帰れたら不思議な体験談として、ネット掲示板にでも上げてやろう。


 そんなしょうもないことを考えていると、いつの間にか二人はある建物の前に立っていた。


「派遣ギルドおよび上級魔属討伐隊……?」


 なんだこの中二病感あふれる建物は。俺の中で一気に現実味が薄れたぞ。

「さあ、立ち止まるな。中へ入るぞ」


 外観がレンガ作りであるのに反して、中には謎の道具が大量に置かれていた。一体なにに使う道具なのだろう。


 しばらくしてから俺は1つの部屋へ通された。どうやらここはお偉いさんの部屋らしく、中には立派な白髭を蓄えた爺さんが座っていた。


「ギルドマスター殿。街中での不審者を捕らえて参りました」

「ご苦労だった。もう通常任務に戻ってよいぞ」

「はっ!」


 兵士が部屋を去ると、ギルドマスターなる人が俺に話しかけてきた。


「見たところ、お主はここらの者でないな?」

「ええ、まあ」

 ここら辺どころかこの世界でさえないが。

「ところでお主、これが何か分かるか?」

「あ! 俺がさっきまで持ってた本!」


 目の前に出されたのは、さっきまで俺が持っていた謎の黒い本と同じものだった。


「お前さんには、これが本質的にどういうものか分かっておるか?」

「いや、俺には全く……」


「これは此処、キャラバンに所属するものだけが所持を許される会員証みたいなものじゃよ」

「あれ、そんなものをなんで俺が?」

「それは分からんが、ともかく今言えることは……



 お主、この世界の者でないな?」

「今更ですか?」

「いやぁ、確証がなかったもんでのう」


 彼はふぉふぉふぉっ、と独特の笑い声を上げる。このおっさん、ふざけてんのか?

 だが、どうやらふざけていた訳ではなかったらしく、彼はこう付け加えた。


「この世界で、この紋章を知らん者なんておらんよ」

「そんなに有名なんですか」

「有名なんてもんじゃない。知らなければ、恥さらしもいいところじゃ」


そこで、彼は一呼吸置いたあと、再び問いかけてきた。


「さてと……然もすると、お主はどうやってこの世界へ来た?」


 声のトーンが低くなった。恐らく本気の質問だ。変なことを言えば比喩でなくクビが跳ぶかもしれない。

 俺はとりあえず死にたくはないので、当たり障りのないよう返答した。


「何故ここへ来てしまったのか自分でも分からないんです」

「その言葉に偽りはないな?」

「はい」


 俺がそういうと、急に視界が白一色になった。急な出来事に困惑していると、彼が言った。


「ふむ、嘘は言っとらん様じゃな?」

「な、なんの話です?」

「今使ったのは、真実の魔法。嘘をついていれば、お主は死んでいたじゃろうな。

 嘘をついていなくても、副作用みたいなもんで視界が白く霞むが」

「ちょ、ちょっと待って」


 彼は魔法、確かに魔法と言ったよな?

 この世界にはそんなものがあるのか。しかも、かなりおっかない。


「……あの、魔法って」

「なるほど、そちらの世界には魔法はないのか。これは失敬」


 彼はおもむろに立ち上がり、俺の手錠を解いた。


「ここは魔法によって成り立っている世界。そして、このキャラバン隊は魔物と呼ばれる脅威と闘う部隊」


 自分の左手に例の書物が置かれる。


「ここへきた原因が分からない以上、恐らくしばらくはこの世界に居座ることになるじゃろう。

 そのときまで、ここにいると良い」

「それは、つまり……?」

「お主はわしらがある程度、面倒をみる。

 つまり、この瞬間からお主はわしらの仲間じゃ」


 よく分からないが、俺はここでしばらく過ごすことになるみたいだ。寝泊まりする場所も無かったので正直ありがたい。


 断る理由のない俺は、彼の言葉にすぐさま快諾した。



 こうして、俺はこの世界と本格的に交わることとなった。

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