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おかしな転生  作者: 古流 望
第40章 ドラゴンたちには焼きたてを

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539話 勝敗

 神王国王都、王城の執務室。

 国王が日夜政務を行う場所であり、立ち入っていいのはごく限られた少数だ。

 そのうち一人。

 ジーベルト侯爵が、部屋に取次ぎを経て入ってくる。


 「陛下」

 「ちょっとまて。もうすぐ読み終わる」

 「はっ」


 国王カリソンが目を通していたのは、竜騎士の育成計画とその進捗について。

 かなり順調に進んでいることが伺える報告であり、近々龍に乗った騎士がお披露目の飛行を行う予定とあった。

 更に、空を飛んで移動できることを活かし、大龍の成長にあわせて数人ないしは数十人を一気に運ぶ為の訓練も行いたいと要望が付いていた。

 大龍で空を飛ぶ。何とも羨ましいことだと、カリソンは報告内容を珍しく何度か読み直していたのだ。

 ちなみに、今回で四度目である。


 「それで?」


 自分が空を飛ぶときを虎視眈々と狙いつつ、政務をとるカリソン王だが、公私混同はしない程度の分別は有る。

 ジーベルト侯爵が持ってきた仕事は何であるか、報告を聞く態勢をとる。


 「先だってモルテールン卿より奏上の有りましたる王家直轄地の売買に伴う件につきまして、先日全ての処理が完了致しました。進捗捗々しい様は陛下の御威光の賜物であるかと思いまする」

 「相変わらず仰々しいことだが、見せろ」

 「はっ」


 国務尚書は、国務に関わる書を(たっと)ぶという意味である。

 自分で書いたものを陛下に見せる権限。他人の書いた文章を国王に届ける権限を有する。

 内政に関しては国王の欲する情報を一手に握っているので、何かにつけて頼られることも多い職務だ。


 今回、ジーベルト侯爵が持ってきたのは、禁則地となっていた土地の販売について。

 モルテールン家から、細かく権利を分けたうえで証券化して販売してはどうかとの提案があった。

 ジーベルト侯爵としても、自分が一枚噛めるというのが美味しいと思い、国王の許可を取り付けて、実務を担当していたのだ。

 売りに出した結果がまとまった為、国王に報告を挙げている。


 「購入者は……十三人か」

 「はい。大口はレーテシュ家。競売の結果、十三人がそれぞれ落札しております」

 「……ん? モルテールンの名が無いな」

 「はい。妙なことではありますが、どうやら競売の際にレーテシュ家が全て被せた模様です」

 「やれやれだな」


 細かくなった権利は、一口づつを競売という形式で売りに出した。証券市場が存在しないので、個別取引にならざるを得ず、それならば過去に行ったノウハウのある競売でということになったのだ。

 結果として、百口に分けられたものを半分近くレーテシュ家が購入。

 ジーベルト侯爵は三口を買えた。

 気になるのは、一口当たりの買値が、とてもばらついていることである。安く買えた人間と、高く買っている人間の価格差が二十倍ほどある。

 安く買った人間はともかく、高く買っているのは全てレーテシュ家が買ったものであった。


 「それで……」

 「ん? なんだ、まだあるのか?」

 「この販売が終わった後。当家や他の落札者の元に、レーテシュ家の使いが訪ねております」

 「ほほう」


 競売が終わった後。

 禁則地などというものの権利を、転売してやろうとした利に敏いものが居た。特に、安くで買えた人間は、高く買った相手に売りつけるつもり満々だった。

 一番高く買っていたのは、レーテシュ家。即ち、競売後も、レーテシュ家は動いていたということだ。


 「お前のところはどうした? 売ったのか?」

 「……提示された金額が破格でございましたので、断るに忍びなく」

 「それは良かったな。儲けたじゃないか」


 カリソンは、ケラケラと笑った。

 元よりこうなることを想定しては居たが、レーテシュ家は是が非でも禁則地が欲しかったらしい。

 何ならジーベルト侯爵から買った金額だけで、本来の相場に充当できそうなほど。

 百分の三に、十割の値段を付けるなど、レーテシュ伯は何を考えていたのかと笑ったのだ。


 「当家としてはありがたい話でありました。それで、競売後に改めて確認しましたところ、小口に分けた百口、全てをレーテシュ家が買い集めておりました」

 「なに!?」


 ジーベルト侯爵が報告したかった本題は、これである。

 わざわざ小口に分けたはずの権利を、レーテシュ伯は唸るほどの金を使い、信じられないほどの大金を注ぎ込んで一本化していた。

 禁則地の権利は、晴れてレーテシュ家の独占である。


 「……わざわざ権利を分けた甲斐も無かったな」

 「左様です。しかしながら、分けたお陰で国庫は大きく潤いました」

 「まあ、俺の所が一番儲かったというなら、何も言うまいよ。負担ばかりの土地をレーテシュ伯が手に入れてどうするのかは知らんが、王家が損をしたという話でも無い」

 「はい」


 今回、禁則地がぼったくり価格で売れたことは、王家としてはプラスである。

 危険だから立ち入り禁止としているのはそのまま。土地の権利だけをレーテシュ伯が高値で買い取ったというのなら、誰も損をしない話。いや、レーテシュ家だけが大金を払って大損したというだけの話だ。


 「レーテシュ家がここまで金を使い、モルテールン家が防ごうとしていた動き。気にはなるな」

 「御意」

 「調べられるか?」

 「ご命令とあれば。何でしたら、モルテールン家の嫡子を召喚し、御下問致すべきかと存じますが」

 「ふむ……そうだな。確かに、直接聞いた方が早いか」


 一体全体、何を思ってこんな大金を動かすような事態になったのか。

 真実を知るのは、恐らくペイストリーだろう。

 あの銀髪の男はよくよく騒動に愛されているらしいと、カリソンは笑った。


 「それと」

 「まだ有るか?」

 「当該の結果について、教えて欲しいという要望がモルテールン家よりありましたが、いかが取り計らいましょう」

 「ふむ……」


 競売の結果だけは、公平性の為にも公表することになっている。

 しかし、そこから先。最終的な権利者が現在誰であるのかは、王の匙加減で教えないことも出来る。

 ペイストリーに対して、教えるのかどうか。


 「そうだな、教えても構わんだろう」

 「御意」

 「ただし……そうだな。聞きたいのなら直接聞きに来いと伝えよ。たまにはカセロールやペイストリーの顔も見ておきたい」

 「拝命致しました。左様取り計らいまする」

 「うむ、あとは委細任せる」

 「はっ」


 ジーベルト侯爵は、早速とばかりに与えられた仕事を熟そうと動くのだった。



◇◇◇◇◇


 レーテシュ伯が動いた結果は、すぐにもモルテールン家に届いた。

 というより、ペイストリーが王都に直接出向き、直接聞いて来た。何とも不本意な結果であったことは、即座に家中で共有される。


 「流石はレーテシュ伯。南部一の大富豪のことだけはある」

 「信じらんねえ。あの額をポンと出せる奴がいたとは」


 証券化した土地の価格は、元の土地を一括で買うより高くなっている。

 スーパーで米を一キロの小袋で十個買うのと、十キロ一袋を買うのと。まとめて買った方がお得になるようなものだ。小口に分けた時、一口あたりはお買い求めしやすい値段になるが、全体を見れば割高になる。

 今回の禁則地の売買は、モルテールン家とレーテシュ家が絡む。

 どちらもお金持ちの家であり、目ざとい人間はこれらに転売してやろうと企んだわけだ。

 転売ヤーが生まれれば、それだけ買占めが難しくなる。足元を見て吹っかけてくる奴が増えるからだ。


 「権利を分散させて、介入をけん制する策がパーになりましたね」


 レーテシュ家が払った総額は、百万レットを越える。金貨をして百万枚を超えるとなれば、ちょっとした騎士爵領ぐらいなら二つ三つは丸ごと買える金額である。

 まさか、ここまで金を投じてくるというのは、ペイスにしても想定外のこと。

 そもそも、小口にして買いやすくすることで総額を釣り上げ、転売ヤーもどきや利権に敏い連中をおびき寄せ、レーテシュ家が土地を押さえることを、数の力と金の力で防ごうとしたのがペイスの策。

 まさか、真っ向勝負で大金でぶん殴ってくるとは思わなかった。

 山しかない田舎の田んぼを、何千億も払って手に入れる様な話である。はっきり、金貨の殴り合いではモルテールン家と言えどレーテシュ家には勝てなかった。


 「はっきり、完敗ですね」

 「まあ、そうなるかね。それにしても、レーテシュ伯爵家ってのは、本当に金持ってるな。信じられねえよ」

 「僕だってそうです。何と言いますか、策を講じて防壁をせっせとこさえていた城に、大龍連れて踏みつぶしに来られた気分です。小手先の知恵を、とんでもない力業一本で突破されたような、どうあっても勝てない敗北感を覚えます」

 「坊でも防げなかったんなら、もうどうしようもねえな」


 元より、政治力も経済力もレーテシュ伯爵家は抜きんでている。そこを相手に買い物で争おうとするなら、真っ向勝負で勝ち目が有るはずが無いのだ。

 それでも何とか行けるかもしれないと思えたのは、ペイスの知恵と策略である。

 何とか同じ土俵であれこれ出来ていたのは、レーテシュ家が同じ土俵で戦ってくれていたから。

 そもそも土俵ごとひっくり返されれば、これはもうペイスであっても勝てっこない。


 「どうするんです?」


 モルテールン家は、経済競争で負けた。

 それはもう、完膚なきまでの敗北である。

 レーテシュ家に買われないように画策した、その上を越えて買い占めたのだ。次に起きるのは、フェンリルの発見。

 そして、何故フェンリルを隠そうとしたのかと勘繰れば、そこから有用な使い道があると判明するだろう。

 そこまでであれば、モルテールン家としても引き下がっていた。問題は、有用な効能を持つ魔獣がいて、それが“作られた”ものだと気づかれた時。

 モルテールン家の持つ独占秘匿技術が、レーテシュ家に対して明るみになる。

 外交的にも、経済的にも、政治的にも、かなりの失点だろう。

 対策を取らねばならない。

 ここから更に、逆転の一手は有るのか。


 「仕方ありません。最終手段です」


 ペイスは、はぁとため息をついた。


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― 新着の感想 ―
さすがペイストリー、問題事を大きくする天才だなあ 今後も大亀や大龍やフェンリルや魔獣が見つかるたびに全部独占するつもりなのかな
単行本の表紙を見ると、結果は分かってるようなもんだけど(^_^;)。
また、レーテシュのお姉さんが泣きを見るのか?
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