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おかしな転生  作者: 古流 望
第36章 お宝探しは南国の味
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446話 衝撃の情報

 神王国王都。

 貴族街の端に、こじんまりとした邸宅が有る。

 モルテールン子爵邸だ。

 庶民からすれば豪邸と言えるのかもしれないが、国軍大隊長の任にあり、広大な領地を有する子爵閣下とは思えぬ大きさ。ちょっとばかし裕福な商家であればここ以上に大きな家屋敷を構えることが出来るだろう。

 部屋数も一桁。応接室なども、五、六人も入れば窮屈に感じる程度のもの。はっきり、身分と実力には見合わない、しょぼいと言ってしまって良い邸宅だ。


 それでも、防諜対策だけは王城以上に厳重にされている。

 特に、モルテールン子爵の執務室は、龍が襲ってきても大丈夫と豪語するほどの防備と、隣国の諜報員が束になっても敵わないと言わしめる防諜が為されていた。現代の核シェルターが裸足で逃げるレベルの部屋である。

 単なる一子爵家として、またこじんまりとした邸宅の中の設備として、これは過剰だろうか。いや、そうでもない。

 どれだけ防諜しても、し足りないというのが、モルテールン子爵カセロールの本音だった。

 モルテールン家にはそれだけ抱えている秘密が質も量もあるという意味でもあるが、それだけ防備しておかねばならない不確定要素があるという意味でもある。

 不確定要素。つまりは、ペイスである。

 彼の息子は、いつ何時どでかい機密の爆弾を持ち込むか分からない。ある日突然、世界を逆さまにひっくり返すような驚天動地の事件を持ち込むことも、想定しておかねばならないほど。

 大龍の卵などという伝説にも存在しないブツを持ち込んだ時は、本気で息子を監禁した方が世の為でないかと考えたほどである。

 案外、お菓子作りだけさせておけば監禁も喜びそうなだけに、愛息ペイストリーは質が悪い。


 屋敷の執務室。

 今、件の次期領主が居る。にこにことした、笑顔で。

 何とも、不気味さと不安さを感じさせるでは無いか。


 「父様、ご無沙汰しております」


 軽く挨拶する息子に、カセロールは笑顔を向ける。

 カセロールの心中はともかく、息子が可愛いのは事実。

 訪ねてきてくれた息子には、愛情を持って接するのが出来た父親というものだ。


 「よく来たなペイス。急ぎの用事が有ると聞いて、時間を取っておいたぞ」

 「ありがとうございます」


 慇懃に頭を下げるペイス。


 「母様はどうされました? 屋敷の中では見かけないようですけど」


 急に訪ねてきたからか、ペイスは母親に挨拶できなかった。

 父親にだけ挨拶して、母親には顔も見せずに帰る、などということをやらかせば、間違いなく母は拗ねる。

 アニエスの居場所を尋ねたペイスに、夫はこともなげに言う。


 「グメツーナ伯爵夫人に招待されて、お茶会だ」

 「グメツーナ……、農務尚書ですか?」


 なかなかの大物の家に呼ばれたものである。

 モルテールン家が国家の重鎮として重きをなしてきているという証左なのだろうか。


 「ああ。内務閥の中でも農政関係者は、伝統的に軍部に友好的だ。そこの夫人から是非にと誘われれば、国軍大隊長の妻としては断る訳にもいかん」

 「そうですね」


 農業政策と軍事は、時折国内政治で同じ方向を向く。

 食料は軍人も消費するものであるし、戦乱が起きれば農地にも影響が出る。開墾や開拓で農地を増やそうと思えば、護衛としての武力は必要不可欠だ。

 軍の中でも重責を担い、時に国軍全体の方針にも口を出すモルテールン子爵家としては、不仲になっていいことなど何もない相手である。

 むしろ、積極的に仲良くなっておくべき相手だ。


 「母様に挨拶できなかったのは仕方ありません。父様からよろしくお伝えください」

 「分かった」

 「それにしても、母様はよく出かけるのですか?」


 ペイスの問いに、父親は頷く。


 「どうにも、最近はアニエスも忙しくてな」

 「軍と領、どちらの影響で?」

 「どちらもだ。私が軍人として国軍を掌握していくに従い増える誘いも、領地が豊かになるにつれて増える誘いも。どちらも影響は大きい。更に言えば、お前の件もある」

 「僕の?」

 「龍の守り人を産んだ母だぞ。子育てについて話を聞きたい者は多いと思わんか?」

 「ああ、確かに」


 あははとペイスは笑う。

 自分が社会において異常と言われる存在なのは今更のことではあるが、世に広く認められた功績の方は一般にも分かりやすく“凄い”のだ。

 異常なことは特別扱いで棚上げに出来ても、凄いことであれば真似事ぐらいは出来るかもしれないと考えるのも人の性というもの。

 例えばスポーツ選手がいて、生まれつき二メートル越えの恵まれた体のことなら真似しようとは思わないだろうが、優れた成績を残したというだけならば、もしかしたら真似出来るかもしれないと考える。

 どうやればそんな凄い成績を残せるのかと、聞いてみたい親は居るに違いない。


 あの龍の守り人、国王陛下の覚え目出度きペイストリーの、生みの親にして育ての母が語る。彼の天才児はこうやって育った。

 などと謳えば、教育熱心な親は押し寄せること間違いない。


 「あとは、不本意ながら、お菓子だ」

 「おお!!」

 「何故喜ぶ」

 「お菓子の話なので、つい反射的に……」


 無意識に身を乗り出していたペイスが、バツが悪そうにテヘペロと姿勢を戻す。


 「はぁ。モルテールン印のお菓子は、他のお菓子とは一線を画す。これは、事実として王家も認めている。だからこそ、アニエスを招待するのだ」

 「手土産に持ってくるから、ですか?」

 「そうだ。特に、中立的立ち位置の高位貴族からの招待は、これが理由だな」

 「ほうほう」


 モルテールン印のお菓子は、レパートリーも豊富。

 年々ペイスが商品ラインナップを増やしているので、今では王都において「お菓子はモルテールン」という評判が出来ているという。

 当然、手に入れようとする者は多い。

 しかし、モルテールン印のスイーツは、そもそも供給量が需要に追い付いていないし、高級ブランド化戦略を取っていることもあって、中々手に入らない。

 予約も基本的には受け付けないし、並んで手に入れるにしても確実性に乏しいのだ。

 これが、モルテールンと敵対する派閥の人間ならば、別に構わない。あんな菓子など要らんというポーズを取れるからだ。

 また、モルテールン家と親密な家ならば、わざわざ並んで買わずとも別枠で取引出来る。例えばボンビーノ家のジョゼフィーネなどは定期便でのペイスのお菓子を強請(ゆす)っているし、ペイスとしても実の姉には特別扱いもしよう。

 つまり、困るのは中立の人間。

 お菓子は欲しいし、手に入れれば自慢も出来る。だが、店に並んでまで必死に手に入れようとするのはプライドが邪魔をする。

 だから、アニエスを呼びたがるのだ。

 彼女が来てくれれば、手土産はお菓子一択。

 アニエスとしてもお菓子目当てと分かっているから、気楽に参加できる。


 「本当に、母様もお忙しいのですね」

 「ああ、毎日何かしらの用事が詰まっている。過労で倒れやしないかと、不安になるほどだ」

 「お察しします」

 「そんなわけだ。私もあまり長くは時間も取れん。前置きはさておき、用件を聞こうか」


 親子の心温まる(?)交流も悪くはないが、ペイスがただ単に遊びに来たわけもなく。

 本題を聞く心構えが出来たと、カセロールはペイスに本題を尋ねる。


 「父様。父様のお力で、王宮の方に時間の都合を付けて貰えないでしょうか」

 「時間の都合? 面会の申し込みであれば通常の手続きで可能だが、相手は誰だ」

 「はい、出来ればミロー伯にお願いが有ります」


 ミロー伯爵。

 神王国の外務官として、外務尚書の片腕とも呼ばれる人物である。

 モルテールン家を含め、南部貴族と中央との折衝役をこなすこともあり、ペイストリーとも面識が有る人物だ。

 性格としては社交的であり、話し上手で聞き上手。外交官として各貴族の間を飛び回っている王宮貴族の一人。


 「ミロー伯? 一体何の為にだ?」

 「国外渡航の許可を取りたいのです。直接陛下に奏上するよりは、専門家を間に挟みたいと思いまして」


 国外渡航許可。

 外交において、勝手に国の外に出向くのはご法度である。

 そんなことを欠片も気にしないで隣国の貴族に喧嘩を吹っかけに行く異端児も居たりもするのだが、穏便かつ友好的に国外を訪れようとするのなら、貴族としては国の許可を取る必要がある。

 パスポートもビザも無い時代、外国に行ける人間というのは、限られるというのが常識だ。

 また、ペイスのような危険人物。もとい有能な人物が、連絡もなく国内から居なくなるという事態は、国としても避けたい。諸外国にしても、モルテールン家の御曹司が、何処にいるのかも分からないとなれば気もそぞろになるだろうし、余計な揉め事を誘発しかねないのだ。


 「……可能かどうかの是非はひとまず置いておいて、何故そんなものを欲しがる」

 「実は、先日レーテシュ伯の所に呼ばれまして」


 ペイスは、レーテシュ伯の所で出会った人のことを父親に話す。

 眉目秀麗な外国人のことを。

 彼らが聖国よりも更に遠方から来ていることや、風待ちをしている事情。良い風が吹くようになれば、自分たちの故郷へ帰ろうとしていることなど。

 彼らの土地には恐らく神王国では価値が高いであろう物がゴロゴロしているはずであり、国内では手に入らないものも入手できるはずだと、ペイスは力説した。


 「分かった。許可が出るかどうかまでは確約できんが、先方に会ってもらえるようには取り計らおう」

 「ありがとうございます」


 結局、カセロールは息子の為に折れた。

 渋々ながら王宮に連絡を取り、数日後ミロー伯との面会を申し込んだ。

 面接の許可が下りてからは、すぐだった。

 申し込んだ当日に面会する時間を設けてもらい、王宮の一室に呼ばれる。勿論、ペイスが出向いた。


 「お忙しい中、お時間を頂戴しましてありがとうございます」


 王都のミロー伯爵邸で慇懃に挨拶する少年と、迎える屋敷の主。


 「なんのなんの。ペイストリー殿とゆっくり話せる機会など、他の貴族が羨ましがりますよ。ははは」


 二人の会談は、軽い雑談から始まる。

 最近の貴族の噂話であったり、王宮の様子であったりをミロー伯が面白おかしく話し、ペイスは軽く領地のことや魔の森の開拓状況を話す。

 お互いに情報交換をしあい、貴族らしくギブアンドテイクの関係を確認し合ったところで、ペイスはいよいよ自分の要望を伝える。

 国外への、渡航許可を取り付けて欲しいという内容である。

 結果として、拍子抜けするぐらい簡単にミロー伯は頷いた。


 「分かりました。他ならぬモルテールン家の頼みですからな。引き受けましょう」


 ミロー伯は、鷹揚に頷きながら、依頼を請け負った。

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― 新着の感想 ―
外務閥だろうに驚くほど素直で鷹揚だなミロー伯。 まあペイスが国に居なきゃやりたい放題なんてのは流石に穿ちすぎかな?
[気になる点] 収納の魔法は習得していないのでしょうか? [一言] 一気読みしました。おもしろいです。
[一言] テレポートって、どれぐらいの距離まで行けるんだろう?
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