040話 砂糖作り(その2)
「ただいま戻りました」
少年の涼やかで可愛らしい声が屋敷に届く。
辺境伯領からの凱旋の報告である。
「おかえりなさい、ペイストリーさん」
「ただいま、リコリス」
いつもならば、この手の出迎えに真っ先に駆けつけるのは母親であった。しかし今回は、その任を将来の義娘に譲ったらしい。
多少の不安もあったのだろう。少女は、無事に戻ってきた自分の婚約者を、笑顔で迎えた。
「御屋敷の外は色々と、騒がしいみたいですね」
「まあ、“御土産”も多いですから。リコリスにも、御父君から手紙やプレゼントを預かって来ました」
「お父様から手紙ですか。早速読ませてもらっても?」
「ええ構いませんとも。そういうと思ってここに持ってきています。はいどうぞ。他にも、夏の衣装も預かって来ましたし、渡す物もいっぱいあります。シイツあたりが仕分けしているはずですから、読み終わったら執務室に来てくれますか?」
「分かりました」
ドナシェルは、辺境伯としての立場故に娘を余所に預ける選択をしたが、情が薄いわけではない。大事な娘を気にかけていて、今回の援軍からの凱旋に際し、娘への贈り物をかなりの量でカセロール達に預けた。
衣装、装飾品、食材などなど。うち幾ばくかは、預かっている騎士爵家への礼でもある。
手紙を人目の無い所で読むため、リコリスは自室として与えられている部屋に戻る。それを見送ったペイスは、一足先に執務室に向かった。
これから戦後処理もあるのだと思えば、多少面倒くささもあったが、大事なお仕事でもある。
次期領主が部屋に入ったことで、ざわついていた執務室が一瞬静かになった。部屋の中にはシイツを始め、従士が揃っている。ニコロだけは貴重な内務系なので、護衛も兼ねてカセロールについて事後処理中であるため、この場に居ない。
「坊、遅いですぜ」
「これでも、出来るだけ急いできたのですが」
「いちゃついてりゃ、時間なんてすぐに経ちますからね。待たされる方の身にもなって貰いたいもんです。身の置き場がねえです」
「なら、シイツ達も早く良い女性を見つけることです。それより、話は何処まで進んでいますか?」
執務室に入って早々、主従の掛け合いから話は始まった。
主題は、戦後の処理についてだ。
「坊も知っての通り、今回の戦も小競り合いで終わりやした。しかし、ルトルート軍は兵を完全には引かなかったそうですぜ」
「といいますと?」
ペイスの質問に答えたのは、シイツに次いで重鎮であるコアントロー。マルクの父親である。
「自領内に兵を後退させたのち、周辺諸領から増援を募っている様子……って話ですよ、若様」
「全く、懲りませんねぇ。フバーレク辺境伯が小競り合いに嫌気がさすのも分かるというものです」
「それについては同感ですが、状況を確認した限り、先方もあとひと月は動けないとの見方が有力でしょう。ついでに、ここに居る皆も同意見です」
「僕もその意見は肯定です。そのひと月の間に、お互いが体勢を整える、とみて間違いないでしょう」
こういった小競り合いが、代を重ねるほどに続けられてきたのがフバーレク辺境伯家とルトルート辺境伯家の因縁というもの。
ペイスが呆れるのも無理はないが、当人たちは至って真剣である。
「ところで坊、大将が辺境伯の所に居残った理由は聞いていますかい?」
「交渉の為と聞いています」
「交渉?」
「うちの財布に手を突っ込みやがったルンスバッジ男爵家に、痛い目を見せてやると息巻いていました。休戦したわけではないので、まだ戦争は終わっていない、というのがその建前で」
「なるほど、未だに戦時であるという名目と、手柄を立てた実績で、毟れるだけ毟った上で、請求書を回そうって腹ですかい」
「戦時の物資調達を理由にうちの山羊を買い叩いたのです。うちが男爵向けの物資や家畜を同じように買い叩いて、そのツケを回されたとしても、それでチャラでしょうね。まあ自業自得ってことで」
「どうせなら、倍返しぐらいで穏便にしておいてもらえると、他の場での交渉には助かるんですがねぇ」
やられたらやり返しておくのは、一家の当主としては当たり前のこと。
無茶な要求にはきっちり釘を刺しておかねば、要求は常にエスカレートしていくのが交渉の常。
その場の会議は、細かい状況確認が済んだ後、決裁事項は領主が戻ってから行うということでまとまった。
領主が戻ってくるまで、それなりに時間があるだろうとの思惑があったからだ。
しかし、流石に交渉人としてもカセロールは練達であるようで、交渉がまとまったという連絡が来たのは、ペイスが戻って間もないうちだった。会議が終わってすぐであったことに、呆れるよりほかは無い。
父親の行動力に付き合えるのは息子を筆頭とした長い付き合いの面々。
辺境伯領に父親と共にとんぼ返りする羽目になったペイスの役目は、交渉妥結後の大量の“荷物”を運ぶ魔力タンク役であった。
「どうにも、運搬人の下働きになった気分ですね」
「仕方がないだろう。お前が他人の魔法を転写出来るとバレるわけにもいかん。それに、私が大量の荷物を運べることを普段は隠している、と思われる方が、何かと便利なカードになる」
諸々の“荷物“と共に、ペイスとカセロールがモルテールン領ザースデンに帰って来た時、村中が大騒ぎになる。
特に、腹心シイツは、親子そろって遠慮の欠片も無い無茶っぷりに、心の底から呆れた。
なにせ、量も大量の上に、運んできた物が物である。
「大将、こりゃ何です?」
「辺境伯家に、件の男爵家が用意してもらっていた物資だな。うちが“適正価格”で引き取った。戦争とは金が掛かるものだな」
「幾らなんでも、やりすぎでしょう……」
シイツの目の前にあったもの。
百匹ほどの山羊の群れ。そして、五頭の立派な“軍馬”であった。
軍馬とは、戦場でも乗り手の命令を素直に聞くよう調教された馬を総称して指す言葉。大きな音に驚かないように、火を怖がらないように、或いは夜間も警戒できるように調教された馬であり、その値段はかなり高い。一頭で家一軒分が最低価格と言えばその高さも分かろうというもの。
生まれ持った気質によっても質が左右され、調教にも大変に手間のかかる事から、それ相応のレベルの軍馬を調達しようと思えば大金が要るし、そもそも金だけ積んだところで手に入るものでも無い。
名馬の産地として名高いフバーレク辺境伯領でも、各貴族家が順番待ちに並んでいるような状況だ。
「仔馬のころから、例の男爵家が前金の手付を払っていたらしい。歴史ある旧家というのはコネも多いらしいし、見栄を大事にするらしいからな。それにしても、良い馬が手に入って良かった。こんな粒ぞろいの良馬が手に入る機会はそうそう無い。出荷前の最終調整中との事だったが、毛並みや体格も良いし、さぞ、手間暇をかけて育てられていたのだろう」
「大将、あんたって人は……」
「先に買い物かごの中を荒らしたのは向こうだし、戦時だったからな。戦場に駆けつけるのに馬が必要だったから止む無く、という建前もある。第一、うちはやり返しただけだ。ちなみに、この馬や山羊を欲しがったのはペイスだし、交渉をまとめたのもうちの息子だ。直接辺境伯閣下と交渉をまとめていたらしい。私は細かい数字を交渉したに過ぎんよ」
「そんな話は俺は聞いていませんがね。まったく頭の痛いこって……で、やんちゃの犯人は何処に逃げたんでしょうね」
逃げ足の速さには定評のある悪戯坊主。
父親がシイツと話し始めた時には、既に荷物を下働きに持たせて、屋敷の裏手に駆けている。
「おおかた、遊び場にでも逃げたのだろう」
「後で説教ですかね」
シイツとカセロールは、共に溜息をつくのだった。
その頃の屋敷の裏手。
シイツやカセロールが今後に頭を痛めている時には、既にペイス達がごそごそちょこまかと動いていた。
その場に居るのは、次期領主を筆頭に、いつもの悪餓鬼メンバーである。
「へえ、これが搾汁機ってやつか。結構大きいんだな」
「出来るだけ小さめのものを見繕ったのですが、中々立派でしょ?」
「ペイスはこれの使い方は分かるのか?」
「無論です。構造も単純ですし、見れば仕組みは分かります。ここの部分にサトウモロコシの茎を入れて、この部分を回せば良いのです。回せば回すほど板が下がって、押し付けるようにして絞る仕組みです」
「回すのに力が要りそうだな」
「この部分に横棒を刺して固定し、持ち手にするようです。長い棒を用意すれば、楽になるでしょう」
ペイスが辺境伯からかっぱらってきた搾汁機は、垂直式、或いはネジ式と呼ばれる圧搾方法を採るシンプルなもの。元々はたらいの中の葡萄を足で踏んでいた搾汁法から発展したもので、足で踏む代わりにネジを回すようにして棒を下げ、棒に固定された板面で圧力をかけて中身を絞るような仕組みになっている。最も古くからある、信頼と実績の搾汁法である。
たらいの上に、らせん状の溝がついた頑丈な棒が伸びる様は、見慣れないものにとっては面白い形にも映る。
「早速試してみようぜ」
「もう試作のモロコシも残りが少ないので、試す余裕は無いです。他のもので試してみてからでも良いですが……葡萄では上手くいっているのは確認できていますから、いきなり本番といきましょう」
「よっしゃ!!」
ペイスの試作した梃子式と違い、ネジ式は何より占有するスペースを小さく出来るのが良い。
子供たちが一生懸命に棒を回せば、それに合わせるようにしてジョワリと汁が染み出てくる。
「えいしょ、うんしょ、せりゃ!!」
「うるせえぞマルク。静かに回せよ」
「気合いだよ、気合。でりゃぁ!!」
賑やかに搾汁過程が行われ、用意していた盥にはかなりの量の搾汁が溜まる。それでも最後のひと搾りと、ふぬぬと歯を食いしばって押し続ける少年少女。
「もう駄目だ、限界」
「俺もだ~」
これ以上は動かせないという所まで絞り切った所で、マルクとルミの体力も尽きた。
踏ん張るようにして力を入れ続けたものだから、手はヒリヒリ、足はガクガク、汗でベタベタの上、既にヘロヘロになっている。
そして一人、ペイスだけはニコニコしていた。
「二人ともご苦労様です。やはり実績のあるものは違いますね。搾りの効率が段違いです」
「そうかい、そりゃよかったな」
「ところでマルク」
「ん?」
地面に仰向けに転がり、息を荒げていたマルクは、気だるげに答える。かなり疲れているので、会話するのも億劫なのだ。
「絞った汁を入れる容器を忘れていました。小さい樽を用意していたはずなので、納屋の辺りから探してきてください」
「ううぇ、今からか? もう少し休ませてからにしてくれよ」
「そうは言っても、タライをユッタが使う前に返さないといけませんからね」
ペイスが気にしているのは、ルミの母親である。
衣類、野菜、農機具に調理器具。これらを洗うときにはタライが要る。流し洗いのような勿体ない水の使い方が出来ないので、溜めた水を丁寧に使うのだ。
そして、水の限られたモルテールン領では、井戸を使う順番と時間も決められていて、その時になってもタライが無いと非常に迷惑を掛ける羽目になる。
その時怒られるのは、悪童三人揃って怒られるのが常である。
「出来るだけ、急いで持ってきてくれると嬉しいです」
「人使い荒いぞ、ちくしょう」
ぶつくさ文句を言いながらでも、マルクは納屋に向かって歩き出す。流石に走るほどに元気が余っているわけでも無いから、その足取りは普段よりは重たそうにしている。
親友の少年を見送ったペイスは、さて、と搾汁機に向き直る。
そこで、まなじりを上げる光景を目にする。
「ルミ、つまみ食いは許しません!!」
「うひゃ!! してねえよ。ちょっとだけ味見しようなんて思ってない!!」
こっそりとタライに近づいていたルミに、ペイスが釘を刺した。
ビクリと驚いたルミは、慌てて言い訳をする。
「全く、その食い意地を治しなさいといつも言われているでしょうに」
「味見は大事だぜ? もしかしたら失敗してるかも知れねえし」
「やっぱりつまみ食いしようとしていたんですね。」
「あ、しまった」
バツの悪そうな顔をしているルミ。一見すると反省していそうな雰囲気の少女っぽさがあるが、ペイスは知っている。この顔をしている時のルミは、全く反省などしていないということを。
「ほら、あれだ。側近たるもの毒見をしないわけにはいかないし」
「ルミは、僕が自分で作ったものまで、毒扱いしたいと?」
「あ~じゃああれだ、前に俺は味見し損ねてるし」
「あれはルミが悪いのです」
「うぅ~」
ルミが必死に言い訳をしている間に、マルクが樽を持って戻って来る。
「ペイス、樽持ってきた。後ついでに、シイツおじちゃんから伝言」
「シイツから? 何でしょう」
「奥様がお呼びだそうだ。部屋に来いって奥様が言っていたらしいぞ」
「なんだか、そこはかとなく嫌な予感がしますねぇ……仕方ありません。この搾汁を樽に移して置いてください。その後は納屋のいつもの場所に置いておくように。日差しの中に放置するわけにはいきませんし、大事な実験です。あとで、不純物を沈殿させて、不純物の除去過程を試してみたいのです」
砂糖を作るのは手間がかかるもの。単に汁を煮詰めるだけでも甘い糖液らしきものは出来るが、砂糖にはならない。細かい繊維であったり、モロコシの皮であったりといった、諸々の不純物を除去しなければ結晶化が阻害されるのだ。
シロップとして使うなら使いでもあるが、砂糖を作りたいならまだまだ手間がかかる。
「マルクも、ルミも、味見とか言ってつまみ食いしようとしちゃ駄目ですからね。ジュースですからつまみ飲みでしょうか?」
「うっ、しねえよ」
「そうそう、しないしない」
口ではやらないと言いつつ、マルクもルミも、さっと目を逸らす。
ここで念入りに釘を刺しておかねばならないと、ペイスはくれぐれもと言い置いて屋敷に戻った。
屋敷に戻ったペイスは、まずシイツ達に顔を見せた後、母親の部屋に向かう。
一応は余所のお嬢様を預かっている訳で、むやみやたらと女性陣の部屋に近づかない配慮がされているのだが、呼ばれたから仕方ないのだ、という形式である。
母親の部屋の前に着いた所で、ペイスは扉をノックする。流石に執務室と違って、ノックと同時に入る様な真似はしない。
「母様、ペイストリーです。お呼びと伺いましたが」
「あら早かったわねペイスちゃん。入って頂戴」
部屋の中は飾り気が少ない。生活に余裕が出てきたのが極々最近であるし、新しい館そのものも出来たばかりで、まだ物が少ないのだ。
殺風景ともいえる部屋に唯一目立つのが、衣装棚である。人の背丈よりも高い箱の中に、吊るすようにして幾つかの衣装が並べてある。ちなみに吊るすためのハンガーは、ペイスやジョゼフィーネを始めとする子供たちの手作りである。
部屋に入った所で、ペイスは人口密度の高さに驚く。
母、姉、そしてリコリスと侍女キャエラ。現在モルテールン家に居る女性陣の大半が集まっている状況なのだ。部屋数だけは無駄に余っている屋敷の中で、普段ここまで人が集まるのは食堂か執務室ぐらいである。
「リコリスもここに居たんですね。お手紙は読み終わりましたか?」
「ペイスさん」
婚約者の来訪に、ぱっと顔を輝かせるリコリス。そしてその様子を、にまにまにやにやと、とても良い笑顔で見つめる母親と姉。
ペイスは意図してその野次馬根性丸出しな二人を意識から外す。
「実は、手紙の内容のことでご相談をさせていただいていたのです」
「相談?」
「夏の終わりに王都のお姉さまの所に行く用事があるらしいのですが、その時の衣装をどうしたものかと悩んでいたのです。お父様から送って頂いた衣装だと、少し主旨とは外れそうで」
女性にとって、催し物での衣装の良し悪しは非常に重要である。良し悪しの内容としては、形式に則っていること、礼式の通りであること、他人の真似でないこと、自身をより美しく魅せること、高貴さや裕福さを示すことなどが求められる。
男性であれば、礼式と形式に則った服であれば、少々デザインが他人と似通っていても許容される。軍礼服なら尚更。
だが、女性の場合は流行を踏まえた上で他人と被らないセンスが求められる。
とりわけ、より選択肢を豊富に持てるはずの高位貴族の令嬢が、他人と同じような衣装であれば笑われてしまう。服装選びに悩むのは、貴族女性の常である。
アニエスもまた、困ったといった顔になってペイスに向き合う。
「それで、お土産の衣装や我が家の服を全てここに集めてみたわけだけど、やっぱりどうにもしっくりいかないのよ」
元々、モルテールン家にある女性用の服は、騎士爵家令嬢や騎士爵家夫人の服である。最も仕立てが良い物で、男爵家令嬢の服だ。辺境伯家令嬢の服とは、使う生地から裁縫の仕方から、全てが違う。
「最終的には、新しい衣装を仕立てるしかない、という話になったのだけれど……」
「けれど?」
「うちの領内には専門職の仕立て屋なんてないし、お土産の服を見せて貰ったかぎりでは、同じ水準の服をうちの家で用意するのは難しそうなの。布の仕入れは預かったお金があるそうなのだけれど、無い物は買えないわよね」
「それは仕方がないですね」
元々が開拓民ばかりでスタートしているからして、何かにつけて職人と呼べる類の人間は不足してきた。それは服飾職人についても同じで、モルテールン領内で服を仕立てるのはかなり難しい。
礼服などでは、数日から半月を掛けて大きな町に出て、そこで仕立てを頼むこともあるのだ。
「そこでペイスちゃんにお願いなのだけれど、カセロールと一緒に町まで行って、リコリスちゃんのサイズで服の仕立てを注文してきて欲しいの。大まかな仕立てさえしてくれれば、細かい調整ぐらいならうちで出来るから」
「僕がですか? 父上だけでも十分では?」
「あら、それは駄目よ。リコリスちゃんも女の子ですから、身体のサイズを男の人に知られたくは無いでしょうから」
「僕も男ですよ?」
「婚約者だから良いのよ。ね、リコリスちゃん」
アニエスの言葉に、リコリスは顔を真っ赤にして恥ずかしげにキャエラの後ろに隠れた。小さく「ペイスさんだけなら良いです」と聞こえた気がしたのだが、聞き取れたのはキャエラ女史ぐらいであった。
責任をもって預かっている以上、他人の領地にリコリス本人を連れ回すことはよっぽどのことが無いと出来ない。そして、モルテールン領内では仕立ては出来ない。であるなら、誰かが他領の街に出向いて、サイズを伝えて仕立てて貰うしかない。そこまでは誰でも分かる。
更には、その任は婚約者の役目である、と言われれば、ペイスとしても否定する材料が無かった。
侍女のキャエラに任せれば良いのではないか、という正論は、速攻で母と姉に却下されたのは余談である。
戦後の処理で大忙しのモルテールン騎士爵とペイスの二人。折角なのでと王都の有名店に仕立てを頼みに出向くことになった。ついでとばかりに、色々と買い出しやら公爵家への挨拶やら戦後の報告やらをすることになり、二日ほど王都に泊まる。
短期滞在を終え、所用を無事済ませ、リコリスの衣装の仕立ての注文も完璧に終ったと安堵していた矢先。
ペイストリーが倒れるという事件が起きた。
明日も続けて更新!!
出来ると良いな…