026話 おまけ(増量)
ペイストリーの転写の魔法は富を生んだ。
そのことを如実に表しているのが、モルテールン領に新しく建てられた一棟の屋敷である。
基礎からしっかりと固められ、中庭の井戸を囲むようにして建つ石造りの壁。煉瓦交じりの仕切りで作られた部屋数は三十を超える、中々の邸宅。
豪邸とまではいかぬまでも、貴族の家としてはそこそこの格式が見て取れる家。
新しく建てられた、領主館である。冬の間の突貫工事を経て、先ごろ完成したばかり。
その中の一室。
あえて以前と同じソファー。同じ執務机。領主お気に入りの椅子を持ちこんで、扉もしっかりと分厚いものが付けられた、新しい執務室。
部屋の中には二人の男が居た。誰有ろう、カセロールとシイツの、モルテールン領ツートップである。
「布製品売却益が経費差し引いてマルで八シロット四分の三、大麦酒がバツで二レットとび十一ロブニ、小麦粉がマルで一四シロット二十五ロブニ……」
淡々と、従士長たるシイツの口から数字が告げられていく。告げられているのは、前年度の収支の詳細。マルは黒字を意味し、バツは赤字を意味する。数年前なら、マルの数字は皆無であったが、今年はどうであるか。
数字を羊皮紙に書き写しつつ、おかしなところが無いかをチェックしていくのは領主たるカセロールの役目。
「っと。で、さっきの臨時支出とを合算して、トータルがマルの四ロブニと八分の三ってのが、去年の収支だな。おめでとうさん。ついにうちの経営は通年黒字を達成した。単年度だが」
「ようやく……ようやくここまで来たか」
お気に入りの椅子に深く腰掛けるカセロール。
軽く首を上げるようにして背もたれにもたれかかり、やや仰向けの姿勢のまま目を瞑る。そのまま思い出すのは、苦労の連続であった二十年。
身内や部下たちを養うために、身銭を切って、果ては傭兵まがいの事までしていた過去。
「やっぱり、坊の協力はでけえよな」
「違いない。我が息子は神の遣わした申し子であろうよ」
「そこまでは言わねえよ。何だよその親馬鹿は」
モルテールン領の収支改善の要因は幾つかある。
特産品としてのビルベリーなる果物の生産と、ベリージャム等の副次産品の販売。豆作と麦増産による食糧購入額の減少。豆木などの薪代替品による、薪購入費用の減少。井戸の周りに植えた有用作物の利用などなど。
その大半は、ペイストリー発案、カセロール実行の二人三脚で成果を出してきたもの。
「最初この土地に来た時はどうなるかと思っていたが、ここまで来てみれば何とかなるもんなんだよなぁ」
「お前たちのおかげだ。よく私について来てくれた。感謝している」
「何を今更。俺が大将に賭けたのは、大昔だろう?」
お互い旧知の仲。それでも互いに力量を認め合い、支え合ってきただけに領地経営の黒字化という偉業に対する感慨は大きい。
「さて、残る報告事項は二つなんだが? 良い方と悪い方のどっちから聞く?」
「良い方から聞こう。この気持ちの良い高揚感は、出来るだけ長く続く方が良い」
「そういうと思った。良い方の報告だが、新しく作ろうって言っていた新村の件だ。デココの腕が存外に良かったのか、四十人を超える入植希望者が集まった。大半は近場からの半難民だな。夫を殺された寡婦だの、成人前の孤児だのも居る。盗賊に襲われた時、私財をまとめて逃げられたところまでは良いが、そこから先は農地も壊されて路頭に迷っていた連中。デココの奴が、当座の金を自分から借りるのなら、住む家と耕す土地を用意すると言って連れて来たらしい」
「良いじゃないか。昔なら人の増えることに負担も感じていたが、今は増えれば増えるほどに儲かる。多いに越したことは無いだろうな」
盗賊撃退の後、最も問題になったのは難民対策だった。
モルテールン領で閉鎖した二村の復興や、急激に人数が膨れた本村の整理等は自分達がやらねばならぬことであり、村人自身にも自覚がある事。対し、余所から食い詰めて流れてくる連中に関しては問題が複雑になる。
下手に追い返せば難民の彼らが盗賊になりかねず、かといって復興中の村に余計な騒動の種を受け入れる余裕は無い。また、復興なら必要な物資は最初から目算が付くも、難民のように、何時来るか、何人来るかも分からないのであれば事前の準備もしようが無い。
そこで、難民が発生してから対処するのではなく、いっそのこと受け皿を最初に用意して積極的に呼んでしまおう、という大胆な目論見の下、難民村とも呼べる新しい村を作ることに相成った次第である。ここら辺の建前と実利をきっちり揃える所が、カセロールが名領主と言われる所以でもある。
お隣のサルグレット男爵領により近い所に縄張りをし、家を商人に用意させたうえで難民を受け入れる。上手くこの村の経営が成り立つかは、領主の腕次第と言うわけだ。
「まあ、人手も増えたし、何とかなるでしょうよ」
シイツの言う増えた人手とは、ペイスの婚約者になったリコリス嬢の誘拐事件の際、協力してもらった連中たちの事である。就職先を求めていた連中の中から、腕っぷしの強そうなものや、頭の回転の良さそうなものを選抜した上で、五人を従士として新たに雇い入れたのだ。
「そいつらは今どうしてる?」
「グラスが、仕事を仕込んでいるところだな。馬に乗れない奴も居たから、そこら辺から教えているらしい。まあひと月もすれば使えるようになるだろう」
「グラサージュが先輩ねぇ。私も年を取るわけだよ」
つい先日まで、モルテールン領は専任従士が三名の体制だった。そのうちの一人がグラサージュであり、愛称でグラスと呼ばれる。カセロール達が開拓を始めた頃は未成年であり、その印象が未だに残る人間からすれば、月日が流れる偉大さを感じずにはいられない。
従士になれば、有事の際は騎乗を許される。それ故、馬を扱える事は従士としてかなり重要な技能と目されている。
現代的な感覚で言えば普通自動車の運転免許に近い。社員になれば社用車の運転をする可能性が有るので、免許は有る方がよい、というような感覚と近しい。
モルテールン領のような小所帯では、一人の従士が大抵の事をこなせると言う万能性が求められるため、馬も教えて損は無い。
「また、馬も仕入れなければな。辺境伯家に太い縁も出来たし、そこは大丈夫だろうが……で、悪い知らせというのは?」
「これはとっておきだぞ」
「なんだ?」
カセロールは、椅子に体重を掛ける。軽く軋むような音をさせて、椅子は領主を受け止める。
その様を、親友たるシイツは見つつも、ニヤケ顔で報告をする。
「坊がまた新しい事を始めたらしい。で、新村に“子ども達だけで”出かけたと報告があった」
「あの悪がき共。少しは大人しくしておれんのか!!」
盗賊や傭兵に襲われたのは記憶に新しく、不逞の輩に攫われた経験者が二名に、大怪我を負わされた少女が一人。そんな、大人に心配しか持って来ないような子ども達だけで、まだどういう連中が居るかも分かっていない新村に行くなど、悪い知らせと言わずに何というのか。
万が一にも彼らに怪我でもされれば、旧領民と新村民との間に溝が出来るやもしれない。子供の怪我と言うだけで、盗賊を想起させることもあり得るだろう。捨て置いて良い問題では無かった。
がたりと椅子を鳴らしてカセロールは立ち上がる。
「シイツ、行くぞ」
「お伴しやすよ」
お互いに二十年来の友。何処に行くのか、などと野暮なことは聞かない。聞かずとも分かる。
カセロールはシイツの肩に手を置き、魔法で新村に飛ぶのだった。
◆◆◆◆◆
「ルンルン~♪」
小鳥の囀り。或いは子犬の甘え声のような、幼い鼻歌が流れる。
「ご機嫌だなペイス」
「そりゃぁもう。夢に一歩近づくわけですからね」
モルテールン領の本村であるザースデンから、直線距離にしておよそ四㎞。子供の足で歩くなら、二時間弱の場所に新しく出来た村がある。名前を受け入れ先と呼ぶ。
村の中心には、相当に深くまで掘り下げた井戸が一つ。その周りに、質素な木造りの家々が二十軒ほど立ち並んでいた。
本村と大きく違うのは、このル・ミロッテ周りには緩やかな上りの傾斜があること。そのまま山脈まで傾斜が続き、最後は山頂に続くわけだ。
「それで、この荷物は何なんだよ」
公爵家から届けられた荷物は、ペイスの傍に今もって積み上げられている。ペイスが父親から転写した【瞬間移動】で運んだのだ。大人が数人がかりでやっとこさ運べる馬車四台分の大荷物。それを誰の手も借りずに運べるのだから、魔法の利便性は大したものである。
「森を作ると言ったでしょう?」
「ああ。で?」
「これは、苗木です。公爵は顔が広いですから、僕が欲しい木の苗木をあるだけ送って貰ったんですよ」
「へぇ~」
ホクホク顔の少年が、箱のふたを開ける。そこには確かに小さな木が、土くれと共に入れてあった。土まで入っているのだから、道理で重たいわけだとルミとマルクは呆れた。
「これは、何て木なんだ?」
「ハリエンジュ。ニセアカシアとも言います。ここら辺では見かけないと思いますが、デココに調べて貰っていたんですよ」
行商人デココは、モルテールン領と他の領地を行き来する行商人である。その彼が、他領の植生や特産品。或いは気候風土について調べていたのは商売上の理由から。ペイスはそこに目を付け、情報料を支払う代わりに、もっと詳しい話を調べて貰うように依頼していたのだ。
とりわけ、ペイスが是が非でも欲しいと願っていたのがこのハリエンジュであり、よく似た木を見かけたという報告がデココから届いた時から、手に入れる機会を虎視眈々と狙っていたのだ。
「んで、この木は食えるんだよな。美味いのか?」
男勝り。ボーイッシュと言う言葉が似合う少女が、興味津々で食い気を露わにする。成人前の少女ルミニートにとっては、美味いものこそ何より大事。自身が怪我を負った際に見舞いで貰ったボンカパイの味が忘れられないのだ。あれほど美味いものを、好きなだけ食べられるような領地にしたいというペイスの夢を、心の底から応援している熱烈な支持者でもある。
「この木は食べられませんよ。いや、食べられないことは無いのでしょうが、美味しいとは言い難いです」
「あん? じゃあ何でそんな物を?」
「ふふふ、それはこの木が、うちのような痩せた土地でも育ちやすい上に、蜜源になるからです」
「蜜源?」
「ハチミツが採れるってことですよ」
「「おおぉ!!」」
ハチミツ。砂糖の希少な世界にあって、庶民も口に出来る甘味の代表格。
菓子の歴史は人類の歴史と共にあり、最も古くから使われていた原材料でもある蜂蜜の歴史も古い。地球の歴史であれば、古代エジプトの時代から人々は蜂蜜を食べていたし、蜂蜜なしにスイーツの歴史は語れないほどに重要な製菓原料である。
蜂蜜を人の手で効率的に集めようと試みた人類は、自然とミツバチを養う養蜂技術を磨くことになった。ペイスとしても、いずれはニセアカシアの蜂蜜生産をしたいと目論んではいるが、それはあくまで、上手く木々を育てられてからの話だ。
ペイスの狙いは、まずは土地の荒れた場所でも育つ木を手に入れること。モルテールン領では木材資源・薪木燃料の輸入に大きな負担を抱えており、年間の支出のうちほぼ三割がこれである。
故に、ここで自給できる木材資源を確保できれば、領地がより一層豊かになることは明らかだった。蜂蜜も将来採れることになるというのは、まだペイスとその幼馴染二人しか知らない。
「でも、うちで木を育てるのには、問題もあるんですよねぇ」
「俺も分かるぜ。土と水だよな」
「さすがルミですね」
「へへへ、爺ちゃんに聞いたことがあんだよ」
モルテールン領の木材資源の無さは、入植当初から大きな問題だった。領主のカセロールとしても、この問題を解決するべく多くの試行錯誤を繰り返してきた経緯がある。だがその全てが、大きな二つの問題に阻まれて大した成果も出せずに終わっている。
その大きな問題の一つ。土地が痩せていることは、今回の件では大丈夫だと青銀髪の少年は確信する。ハリエンジュは、薪炭材として極めて優秀な性質を持つ。育ちが早い割に固く、多少の湿り気を気にしないほどに火付きが良い。そして最も大きな特徴として、痩せ地でも育つという特徴がある。
豆作での試行や実践を踏まえ、同じような特性があるこの木であれば、まず間違いなく育つという自信があった。
しかし、もう一つの問題が、如何なる名領主であってもさじを投げ、モルテールン領を難治たらしめてきた問題である。
すなわち、降水量の少なさだ。
植物が育つのには、水と光が必須である。山脈に囲まれた土地であるが故に雨が少なく、目立った河川も無いモルテールン領では、木を育てようとしても、ある程度の規模まで増えたところで、水不足になり枯れる羽目になる。まばらに生えるならばまだしも、群生しないのはこれが大きな原因となっている。
天候だけは、どんなに名君や名宰相であっても御するのは不可能。また、無い物を増やすのも不可能である。
「僕としては、発想を変えるべきだと思ったのですよ」
「よくわかんねぇよ」
「まあ、少ない雨を増やそうとか考えるのは無意味ですし、雨の豊かな土地の真似をするのも無理。使える水の量を増やせないのなら、逆に、少ない雨なりのやりくりの方法を考えるべきだと」
傍で聞いていたマルクは、無知ゆえにそのままペイスの言葉を受け取った。無いことをねだっても仕方がないのだという考えは、兄弟の多いマルクには自然なことだったからだ。
貧乏人が金持ちの真似をするのは無理だし、どうやれば金が儲かるかを悩むよりかは、少ないなりの収入で豊かな生活が出来る方法を考えよう、とペイスが言っているのだと理解する。
「具体的には何をやるんだ?」
「貯水池を作ります。それも、春先の少ない雨でも一年もつぐらいの大規模なものを」
水が蒸発する量は、おおよそ表面積に比例する。対し、水の量は体積に比例する。理屈から言えば、相対的に蒸発量を抑えたければ表面積が増える割合以上に、量と体積の割合を増やせばいい。
コップとバスタブでは冷めやすさが違うように、同じ量でもより表面積の大きい方がよく蒸発する。洗濯物を丸めて乾かすより、広げて乾かす方が良く乾くのはこの理屈だ。
逆に言えば、より沢山の量の水を出来る限りまとめて溜めておけば、春先の雨を一年保たせることができる。理論上は。
入植以降、当主たるカセロールと従士長シイツの二人も、無論この方法を検討した。溜池を作り、春先に降る限られた雨を、可能な限り長持ちさせようとした。
しかし、その為に必要な労力を計算した時に、諦めざるを得なかったのだ。
二ケ月程度の水を湛える貯水池を作るだけでも、人足五十人規模で、二年以上掛かるだろうという試算が出たためである。通年で保たせるようにしようとするなら、二百人以上が三年は掛けて作業し、ダムの如き大がかりなものを作らねばならない。どれほどの大金が掛かるか分かったものではなく、無い袖は振れない以上この計画はもっと領地経営が軌道に乗ってからという事になったのだ。
無論、今とて状況が変わっているわけではない。人件費がべらぼうに安くなったわけでもないわけで、次期領主たる少年も、問題点はよく理解していた。
しかし、ペイスには労力の問題を一挙解決する秘策があった。より正しくいうなら、つい先日、解決方法を入手した。
彼は、新村から若干離れた場所まで移動すると、斜面に向かって気合を入れた。
「それでは早速……【掘削】!!」
魔力の奔流が、一般人である幼馴染二人に見えるほどの迸り。すわ地震か、と思うほどに辺りは足元から揺れている。
――ボゴッ!!
斜面がいびつに歪む。ペイスの目の前の地面のみが大きく凹み、凹みの外側には小山のような盛り土が出来ていた。
「スッゲエェ!!!」
「うぉぉ、何だこれ~~!!」
一瞬にして、文字通り風景と地形を変えてしまった御業。驚くなと言う方に無理がある。魔法というのは誰がどう見ても明らかではあるが、マルクとルミの二人が知るペイストリーの魔法とは、何がしかの絵を転写するもの。こんな、地形を変えるような真似が出来るとは、想像もしていなかった。
驚愕を露わにする少年少女とは対照的に、驚天動地をやらかした当の本人は、うつむいていた。
立ったまま首だけを前に倒すような恰好。傍から見れば、目鼻が隠れて陰気にも見える。更にはそのまま、怪しげな声まで聞こえてきた。
「ふふ、ふふふ、ふふふふふ」
あ、やばい。
そう幼馴染二人は気付いた。
「あははははは!! いける。使えますよ。予想以上にこれは使える魔法です。あはははは」
ガバっと動き出したかと思えば、そのままペイスは両手を広げてくるくる回りながら穴の方に走り出した。狂ったような笑い声も、その姿だけを見れば愛くるしいのは母譲りの顔立ち故のお得感だろうか。
ペイストリーが使ったのは、彼の持つオリジナルの魔法では無い。リコリス嬢救出の際、敵が使った魔法をちゃっかり転写していたのだ。実際に触れ、かつ自分の目で確かめねば転写が出来ないという制約があったにせよ、転んでもただでは起きないのがしたたかさである。
少年は、調子に乗る。
自分自身の有り余るほどの魔力に物を言わせ、次から次に【掘削】の魔法を使っていく。その度に出来る大穴は、人が手で掘れば何十人かが数日は掛けて掘らねばならぬほどの大きさであり、続けざまにそんな大穴をあけていけば、あっという間に地形は変わる。穴の中に更に穴を掘る様な事までやりだし、もはや【瞬間移動】無しには外に出られないほどに巨大な穴が完成する。
「ふぅ、こんなものでしょう」
「すげえ、一人でこんなでけえ穴を掘り切っちまった。しかも底や壁はきっちり固めてあるし……」
山の斜面に出来た、一つの村が丸ごとすっぽり収まりそうなほどの広い穴。おまけに、その幅と同じほどの深さまである巨大さは、まさかこれが一時間も経たずに出来たとは信じられないものだ。巧妙に水脈を避けている所などから、この手の計画が前々から準備されてきていたことを如実に表していた。
壁面や底面にはそれ相応の補強までなされ、既に構造物と呼べるレベルの異常さである。
「さて、それではこの周りにぐるりと苗木を植えて行きますか。もう少しすれば雨も降るでしょうし、そうなれば水も溜まる。木が育てば、それ自身が貯水の役目もするわけで、相乗効果も生まれます。それまでは井戸から水を汲んで掛けてやれば良いので……」
話の途中で、不自然に会話を途絶えさせたペイス。
それをいぶかしげにしたルミとマルクではあったが、すぐ傍に、見慣れた人間が来たことでその理由が分かった。
その人間とは、ペイスの父、カセロールである。彼は目の前にある光景に唖然としていた。
「こっ……こっ……」
「あ、父様」
カセロールの驚いた顔を見て、ペイスは流石にバツが悪くなってきた。いささか調子に乗りすぎてしまったことを自覚する。
そこで、如何にも可愛い子供のフリをしつつも、愛くるしく見えるであろう笑顔で誤魔化す。ご丁寧に、ポーズまで決めて。
「ちょっとやりすぎてしまいました。てへっ」
「この馬鹿もんが!!」
自分に無断で地形を変えられるような真似を、領主として許せるわけが無い。
カセロールは、問答無用で子供たちにげんこつを落とす。
「何で俺まで……」
「痛ぇ……」
巻き添えの被害者二人は、主犯のペイスと揃って、痛みに涙するのだった。