254話 暁
神王国西部では、ちょっとばかり名の知れた傭兵団がある。
一皮むけば盗賊と変わらないようなゴロツキが多い傭兵という中にあって、統制の確かさと規律の正しさで一線を画し、あちこちの町の裏町や下町に深く根を張り、有望な孤児や貧民をスカウトし、育て上げることでも知られる傭兵団。
ヴォルトゥザラ王国と神王国が接する地域において、小競り合いが頻発する中で、必ずと言っていいほど戦場に現れる歴戦の集団であり、時には戦いの趨勢を決めるほどの重要な戦力と目される、戦闘の専門家たち。
その名を「暁の始まり」と呼ぶ。
元々の創設経緯を辿れば、神王国が領土を拡大する中で、今の神王国西部に触手が伸びてきた時、自分たちの村や故郷を守る自衛のために集まった集団が母体となっている。
紆余曲折を経て傭兵団となり、旭日の勢いのあった神王国側に立って人脈を作っていき、流民や貧民の受け皿となることで政治的にも一目置かれるようになった経緯がある。
また、初代の団長が非常に高い経営的なセンスを持っていたらしく、戦乱の時代に大きく稼いだ金を元手に、酒場や娼館を始めとする幾つかの商売に参入。他所の傭兵団であれば平和な時には乞食と変わらない状況まで落ちぶれることもある中、暁の始まりは平時でも団員を飢えさせない程度の安定を確保している。
戦いの中で輝く戦闘集団。貧しい者たちからはある種の憧れとなる存在であり、またある種の権力者からすれば便利であると同時にとても目障りである存在。
町の薄暗い中に居場所があり、日向と日陰の狭間を埋める。まさに朝と夜の間にある暁そのものの彼らだが、中には眩しいばかりの光を放つ者も居る。
有名なところでいえば、大戦の中にあって獅子奮迅の活躍をし、神王国のみならず南大陸中に二つ名を知らしめ、神王国王都防衛線では吟遊詩人に謳われるほどの功績をあげ、浮浪孤児から一躍立身出世を果たした立志伝中の魔法使いシイツ=ビートウィン。
モルテールン家従士長にして、“覗き屋”の異名を持つ歴戦の勇者である。
他にも、数々の戦場で常に先頭に立ってきた、現団長にして“赤銅”の二つ名を冠するパイロン。一振りで三人を倒したという逸話を持つ剛腕、“斧鬼”ステイン。元貴族でありながら傭兵になり、洗練された戦いぶりから“貴公子”の愛称で呼ばれるアンドリュー=モートン等々、一目も二目も置かれる猛者が大勢所属している。
暁の始まりとは、貧民たちにとってのヒーロー集団なのだ。
現役を引退した者の中にも、有名人は多い。“常宵”の異名を持ち、今は酒場を預かるバモットもその一人。
かつては戦場を駆け回って勇名を馳せていたが、引退後は裏路地の、知る人ぞ知る暁の始まり直営店で働くマスターである。
荒っぽい連中が常連の店。生半可な人間では客にすらなれない物騒な店に、今日も今日とて客が来る。
「久しいなシイツ」
強面の酒場のマスターが、来客の顔を見るなり破顔した。
ずいぶん久しぶりにみる懐かしい輩だったからだ。
“覗き屋“シイツ。バモットにしてみれば、酒場の大将に収まる前からの同僚であり、戦友である。
「おうよ。ご無沙汰だ」
昔はそれこそ毎日のように入り浸っていた酒場。シイツは極自然にカウンターに向かい、バモットの前で椅子に腰かける。
「もっと頻繁に顔を見せろ。前に来たのは何年前だ?」
何も言わずとも、シイツの前にはジョッキが置かれる。勿論、中身は水やお茶ではない。ただ酔えれば良いと言わんばかりの安いエール。酸っぱい割に味気なく、ちょっとお洒落なお店なら店に置くことすらない粗悪品。
しかし、それをごくごくと数口嚥下するシイツは、懐かしい味に頬を緩める。不味いし、悪酔いする酒ではあるが、若い頃から慣れ親しんだ故郷の味ともいえるものだ。
「十年ぐらい前じゃねえか? うちの大将と一緒に、豚男爵をぶん殴りに行った時だろ」
軽くジョッキの半分ほどを飲んだところで、炙った腸詰が出てくる。昔馴染みだから出来る阿吽の呼吸だ。
パキリと小気味いい音をさせながら、シイツは懐かしさついでに昔を思い出す。今でこそ従士長でございと、偉そうにふんぞり返っていられるが、ほんの十年ほど前はモルテールン家も貧しく、カセロールと組んで傭兵稼業のようなことをしていた。
何のために傭兵団を辞めたんだと、笑われていたのもその頃だろうか。情報収集を兼ねて、店に顔を出していたのも大体その時期だったはずと、懐かしさは膨らむ。
「そんなに前だったか。あの豚野郎はもう死んだぞ? 今は息子が跡を継いでる」
「マジか。少しは皆の暮らしもよくなったか?」
シイツの言う豚男爵とは、神王国西部にささやかながら領地を持つ領地貴族のこと。ヴォルトゥザラ王国とも通じていて、神王国に対しては面従腹背。それ故に色々とトラブルを起こしていたところで小競り合いが起き、大事にしたく無いからとカセロールが雇われて首を狙いに行った。過去の仕事の一つではあるが、シイツにしてみればあの当時よくあった仕事の一つだ。
大体、強いものにはペコペコしておきながら、裏で良からぬことをする人間というのは、弱い人間には徹底的に強圧的になるもの。その男爵領の領民は、皆が皆、可哀そうなほど痩せていて、重税に喘いでいた。こんな貴族はけしからんと、カセロールと共に義憤に駆られた、若かりし(?)頃の微笑ましい思い出である。
「全然駄目だな。息子も親父にそっくりの体してやがってよ。俺ら下々から絞るだけ絞って、自分だけぶくぶく肥えやがって」
「親子そろって碌でもねえな」
「どこの貴族様も同じだ。俺らからどれだけ絞るかってことに血道をあげてやがる」
暁の人間は、基本的には貴族嫌いだ。
元々が自衛のための自警団崩れがルーツだけに、権力や武力を背景に無理を押し通そうとしてくる奴らが大嫌いな人間の集まりである。
雇い主が貴族であることが多いため、客としては一応付き合いはあるものの、常に平民側の立場にあるのが暁のスタンス。
だからこそ、カセロールと意気投合し、一緒に一旗揚げると言い出したシイツは傭兵団を辞めねばならなかったのだ。
貴族は嫌い。
しかし、物事には何事も例外が有る。シイツを通じ、モルテールン家などの幾つかの家とは相当に良好な関係を築いている。
いっそ、西部の方もモルテールン家に治めてもらいたいと冗談で言う程度には、モルテールン家に対して信用していた。これはバモットだけでなく、暁の人間の大半に共通している感覚だ。
シイツが居ることもそうだし、当主が傭兵仲間に片足突っ込んでいる変わり者というのもあるのだろう。半分ぐらいは身内感覚である。
「本業の景気はどうだ?」
安酒のジョッキを空にして、今度はいい酒を寄越せと注文したシイツが、古巣の景気について尋ねる。
暁の始まりの景気の良さとは、即ち神王国西部の騒乱を意味するわけで、景気が上々というのは困りものなのだが、かといって仕事が無いのも困りものという、傭兵団ならではの懐事情。勿論、シイツはその辺もよく知っている。
「良くねえな。どっかの誰かさんところが、ヴォルトゥザラの中をかき回してくれたもんだから、こちとら戦のいの字も無え。余計なことをしてくれたよ」
どっかの誰かさんといえば銀髪のお菓子狂のことなのだが、そもそもモルテールン家はヴォルトゥザラ王国に対して備えるのがお家のお役目。謀略だろうと何だろうと、敵国の中をかき乱して混乱させるのは国益に適うのだ。非難されるいわれは全くない。
勿論、酒場の人間もそこら辺は承知している。バモットの言葉は、シイツに対する揶揄いを多分に含んだ言葉だ。半笑いなのがその証拠だろう。
「あっちが揉めてりゃ、欲深いのがちょっかい掛けるだろう」
それ故、シイツは少しばかり自慢げに、酒を飲む。
隣国が乱れているというなら、神王国としては理想的な状況。そして、ルーラー辺境伯を筆頭に、神王国の西部閥の人間としては攻め時でもある。
特にここ最近は東部や南部の景気が良い。南部は経済的に絶好調であるし、東部に至っては隣国の大貴族を潰して領土を拡張している。西部閥としても、負けじと張り切ってもおかしくない状況だ。
「いや、それがこっちもこっちで色々と揉めてんだよ。ほれ、王太子の嫁さんが北の方からだろ?」
「ああ」
神王国で北の守りといえばエンツェンスベルガー辺境伯家。彼の家を中心として北部閥を形成し、公国を挟んで大国と対峙している。
そのエンツェンスベルガー家の最近のビッグニュースといえば、直系の息女であるオリガ嬢が、王太子に嫁いで次期王妃となったことだろう。何事もなく順調に代替わりがあれば、次代のエンツェンスベルガー家は相当に影響力を拡大する。
政治的には一歩も二歩も抜きんでた偉業であり、北部はこれで将来も明るいとお祝いムードなのだ。
しかし、それが西部と何の関係があるのか。
「うちらの所の貴族様は、北の連中と王太子妃の席を争奪戦してたらしいからな。負けた報復が有るってんで、内輪の引き締めに走ってる」
「ああ、負け犬から勝ち馬に乗り換えようって連中が出るか」
南も東も独自に影響力を高めている。本来であれば、西部閥を纏めるルーラー伯辺りが音頭を取って、混乱する隣国から領土なり権益なりを力でもぎ取っても良い。しかし、伯は国内での影響力を直接的に取りに行く方針を選んでしまった。
結果、王太子妃を巡る政争にどっぷりとつかり、おまけに北部閥に負けたのだ。
ルーラー伯やその周囲に与えた衝撃は大きい。
軍事的には東部、経済的には南部、政治的には北部の伸張が著しい中、良い所が無い西部閥。地理的に中央寄りや北部寄りの人間が派閥を変えようと蠢くには十分すぎる状況だし、他所の陰謀家からすれば実に美味しい攻めどころでもある。
ルーラー伯としては、自分の影響下にある連中を引き締め、余計な蠢動を防ぐために力を注がざるを得ない。
「分からんでもないが、ことが王宮のことだろ? そっちに忙しくて、西部は静かなもんよ」
「静かなら良いじゃねえか」
お偉いさん方がどういう思惑でいるにせよ、戦争も紛争も内戦もないのなら、良いことだ。
傭兵団としては仕事が無いので厄介だが、西部に住む領民としては心穏やかに日常を送れる、理想的な状況である。
しかし、物事はそう単純なものではないとバモットは肩をすくめる。
「上の連中が王都に目を向けて足元お留守にすりゃ、その下の連中が悪さするだろうが。最近じゃ、うちの酒場にも酒を集りに来る連中が居る。奢らねえと、誰かしらがしょっ引かれるからどうしようもねえ」
「変わらねえな」
辺境伯を始めとする支配層の上部が、王都の政争とその敗北から影響力を落とし、それを取り返そうと必死になっている状況。政争の影響を軽減するなら、やはり王都で活動するのが一番だ。
辺境伯の手駒の内、優秀な者こそ王都に派遣される。優秀な軍人、有能な官吏、卓越した諜報員、真面目な兵士。そんなのがこぞって西部から王都に引き抜かれるわけだ。
では、残り物だらけの西部はどうなるか。
怠惰な軍人、無能な役人が責任ある立場に就き、防諜も取り締まりもザルになり、不真面目な兵士が横行するようになる。
結果、仕事をサボる者、賄賂を取って不正を行うもの、法を犯すものが増えた。
然るべき筋に訴えたところで、怠慢、収賄、無能が揃っている中、まともに捜査がされるわけもなく。良民はじっと大人しく、トラブルに巻き込まれないようにこそこそするようになる。
夜は出歩かなくなるし、女性は家に閉じこもる。子供は隠されるし、金を外で使うことすら控えるようになる。
これで景気が良くなれば奇跡だ。
金回りが悪くなっている実感は、酒場の店主であるバモットも肌で感じること。シイツにしてみれば、お偉い人間の怠惰や無能で、下々の人間が苦労するというのも見覚えがある。他ならぬシイツ自身が、不景気と不公平と戦乱によって孤児になった人間だからだ。
変わらない。懐かしき故郷の様子を聞き、皮肉気味の冷笑を隠さないシイツの言葉に、バモットは肩をすくめる。
「まあな。お前さんはどうだ。活躍してるみたいだが」
不景気な話をしても酒がまずくなると、景気のよさそうなシイツに水が向けられる。
経済的な面でいうのなら、神王国では間違いなく今最も伸びている家の中枢にいる人間なのだ。景気のいい話の一つや二つは有るだろうと、バモットはシイツに尋ねた。
「おうとも。今うちは右肩上がりでよ。俺も大将に重宝してもらってるし、坊ともうまくやれている。男爵様の右腕を自称してる」
わははと自慢げなシイツ。
普通こういった酒場の自慢話は話半分、いや一割程度に割り引いて聞いておかねばならない。もしも真面目に酒場の話を全て信じれば、神王国には稀代の英雄が万単位で誕生し、モテまくる絶世の好男子が溢れていることになる。そんな都合のいい世界などあるわけもない。
しかしことシイツの自慢に関しては、掛け値なしに事実だ。
モルテールン男爵カセロールにとってシイツ従士長は無二の親友であると同時に、代えがたい腹心中の腹心である。
その証拠に、ペイスですら全ての存在を知らされていない、モルテールン家の裏の部分も、部下の中ではシイツとコアントローだけは知っているのだ。
右腕というならシイツ。左腕というならコアントロー。頭脳というならペイスが、カセロールを支えている人材である。
「噂は聞いてる。最近は南の方がバカみたいに景気が良いってな。羨ましい話だ」
「俺のおかげだな」
「言ってろ」
軽妙な軽口に、笑いが漏れる。
場末の酒場では自慢話こそが華であり、謙遜や謙譲は場にそぐわない。徹底的に自慢し、そして周りから貶される。これが酒場の呼吸というものだ。
「ああ、そうそう。そういえば、俺に子供が出来てな。嫁と一緒に毎日大変だぜ」
「何!? お前結婚してたのか」
ついでとばかりに、シイツがこぼした言葉に、マスターは驚く。
てっきり冗談の類かとも思ったが、シイツの口調はそうではなさそうだ。つまり、本当にシイツに子供が出来たという話なのだろう。
色街の常連だったシイツのこと、貴方の子よと、どこの馬の骨とも知らないガキを連れて押しかけてくる女ならあり得ないでもないが、シイツが言うからには本当に認知している子供ということ。
青天の霹靂。まさに驚天動地の報せであろう。
結婚する奴は頭がイカレてると言い張り、独身を目いっぱい謳歌していた覗き屋シイツともあろう人間が、所帯をこさえて子供まで育てている。
明日空から槍が降ってくると言われた方が、まだ信じられる話だろう。
「驚くようなことか?」
「だってよ、覗き屋シイツっていやあ、酒場二階の常連じゃねえか。よく嫁に来てくれたな。嫁さんはどんな女よ? 年は幾つだ? 子供は男か女か? こっち戻ってくる気はねえか?」
あのシイツのゴシップ。これはもう、暁の連中からすれば絶対に聞き逃せない話だ。それこそ根掘り葉掘り、毛細根の一つまでほじくり出す勢いで、質問の嵐だ。
いつの間にか周りにも人が集まってきて、オイマジか、嘘だろ、どこで攫ってきた、ついにボケたかジジイ、などと失礼極まりないヤジが飛ぶ。
「嫁さんは十四の美人だ」
「糞野郎、死ね」
結婚に年齢制限のない神王国ではあるが、一応成人後の女性を娶るということになっている。つまり、結婚可能年齢は大よそ十三歳程度から。適齢期は女性の場合十代後半ぐらい。二十歳も過ぎれば、大方の女性は結婚済みというのが当たり前。
シイツは既に四十を超えたおっさん。嫁を貰うにしても、旦那と死に別れた寡婦であるとか、そういう話であろうと想像するのが普通だ。
若い奥さんを貰うというのは、酒場の男連中からすれば実に羨ましい話。若ければ若いほどいいなどという人種からしてみれば、成人間際の十三、四といえば垂涎の条件だ。
そして、悲しいことにそういう若い女性を好む男性の数は、そこそこ多いと言える。
つまり、十四の美人、などという女性は、結婚相手を探そうと思えば幾らでも探せるわけで、男側からすれば競争率の高い相手ということになるのだ。
四十も越えたおっさんが、競争率激高の女性を嫁にとったとなれば、これはもう嫉妬を通り越して犯罪的である。
許せねえ、シバキ倒せ、ぶっ殺せ、とこれまた物騒なヤジが飛び交いだす。こういう雰囲気に慣れっこのシイツとしては、面白え、掛かってこいやと応戦する。
マスターが、シイツを殺すなら俺が先だから静かにしろ、と客を収めたところで、シイツも席に座りなおした。
「娘が無事に嫁に行くまでは死なねえよ。あっちで、出来れば婿を探してやりてえな」
人も、変われば変わるものである。
娘が生まれたことで、本当にいいお父さんになってしまったらしく、娘の婿を取って、後継ぎとして鍛えてやると言い出した。
「覗き屋シイツの娘婿か。スゲエ字面だわ。この話、俺が他所でいっても、仲間内じゃ絶対信じてもらえねえだろうよ」
「かもしれねえ。俺も今の幸せは出来すぎだと思ってるからな」
シイツが結婚し、相手は十代の美人で、娘が生まれていて、婿探しをしている。
どれ一つとっても、仲間内でいえば酔い過ぎを指摘される事案だ。
呵々大笑するシイツからしてみれば、仲間がそう受け取るのも理解できるだけに、ただ面白い。
「けっ」
常宵バモットが、苦々しそうな顔をしながら、コップをシイツの前に置き、どこからか持ってきたワインを開栓して注ぐ。乱暴な注ぎ方であるが、こぼれないように気を使っていることだけは分かる。
「何だよ、こりゃ」
シイツは気づいた。出された酒が、常宵の異名を持つ酒好きが秘蔵していた、銘酒であることに。
「俺の奢りだよ。諸々幸せにやってるんなら、目出度い祝い酒だな」
「お前からの奢りたあ、ありがたいね。明日あたり戦争でも起きるんじゃねえか?」
無類の酒好きが、人に大切に取っていたとっておきを奢る。これは早々あることではない。
「ぐだぐだ抜かしてると下げちまうぞ」
「まてまて。奢り酒は飲み干すのが俺らの流儀だろう」
「お前さんがうちのことを忘れてないようで何よりだ」
同じ酒好き仲間として、覗き屋は杯を掲げて無言で飲む。高い酒を一気飲みという、実に勿体ない飲み方ではあるが、暁の始まりの人間としては、これが最上級の礼を尽くした飲み方である。
「ぷはぁ、うめえ」
「たりめーだ。奢った酒に文句言うようなら頭に一発入れてらあ」
相も変わらず仏頂面のバモットではあるが、若干口元がニヤつきかけているのはご愛敬。
何のかんのと言っても、昔馴染みが所帯を持って幸せにやっているというなら喜ばしいことなのだ。
「こうしてここで飲むのも久しぶりだが……ところで、一つ面白い話があるんだがよ」
「何だ?」
そんな心温まるハートフルなやり取りの中、ふとシイツが真面目な顔で話し出す。
ここからが、彼の来た理由であり、ここにいる事情である。
「暁の連中、全員うちに来ないか?」
シイツの提案は、再び酒場を喧騒に包んだ。
メリークリスマス!!