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おかしな転生  作者: 古流 望
24章 綿あめの恋模様
224/541

224話 高度人材育成計画第一期

 モルテールン領執務室。

 学校が長期休暇の間、ペイスは領主代行としての仕事に邁進していた。

 目下の仕事は、新人達の教育と配属について。元々人手不足が常態化していたモルテールン家では、人材のやりくりというのは優先度がかなり高いのだ。

 勿論、どの部署も人材を切実に欲している。昼夜問わず見回りをし、養蜂関係の仕事まで担当しているガラガン達や、領内の全ての金勘定を任され、予算とその執行に責任を持たされているニコロ達や、消化しても積み上がる一方の建築需要を満たすべく奔走し、領内のインフラ関係の一切を背負わされているグラサージュ達など。

 仕事などは升で量って樽で勘定するぐらい有り余っている。どの部署も、自分たちのところに一人でも多く人をくれと要望しているわけだ。どこに誰を配属するか。これはもうトップの判断にゆだねるしかない重要な仕事である。


 「シイツの補佐に一人、既存の部署に一名から二名の増員、治安維持の専任に三人の増員……ふむ、一人余りますか?」

 「いや、その一人も外務の仕事を教えるんで、教育に回しやすぜ。製菓の販売部門が手薄って話なんで」


 モルテールン家のトップはカセロールであるが、国軍を預かる身として王都から離れられない現状、領政のトップはペイスである。故に人材配属の最終決定もペイスに委ねられているのだが、変な配属をしないように目を光らせるのは従士長の務めだ。モルテールン家の俊英は、少しでも目を離すと何をやらかすか分からない。良い方に転べば目もくらむような大金を産みだす一方、悪い方に転べばお家の取り潰し、いや、国家転覆まであり得る。最悪、世界中を巻き込んだ大戦が起こるかもしれない。

 そんな馬鹿なと一笑にふせる人間は、まだ常識人だ。そして、ペイスは非常識の塊だ。

 それでなくとも、新人を新しいお菓子作りの為に確保しようとした前科もあり、シイツの監視は外せない。


 「つまり余剰人員ゼロ。ギリギリですが、何とか落ち着きそうですか?」


 ペイスの質問には、快く頷く従士長。

 常に忙しさと人手不足に悩んでいた彼にとっては、久方ぶりの朗報なのだから。ようやく、余剰人員という言葉を検討できるようになった。それだけでどれほど嬉しいことか。思わずほろりと涙をこぼしてしまいそうになるほどだ。


 「むしろ、今まで良く回せてたってもんでさあ。グラスなんて、三日ほど纏まった休みが貰えるって嫁さんに伝えたら、冗談だと思われたらしいですぜ」

 「今まで、休めて半休とかでしたしね。建築関係は全部グラスが担当してましたから。あそこが一番忙しいところでしょう」


 領内のインフラや建築関係を任されているグラサージュは、忙しさという意味では指折りだろう。本村から出ることが稀な会計役などとは違い、建築の現場確認等で領内の遠方に出向く機会も多い。広さだけなら辺境伯領にも匹敵するモルテールン領で、隅々まで足を運ぶ仕事をしているグラサージュ。馬の上で眠ることも珍しくなかったといえば、どれほど忙しいかという話だ。深刻に過労死が心配されていたのだから、新たな人手は大歓迎だろう。

 その点要領も良く、手の抜き方が抜群に上手いシイツなどとは性格が違うと言える。


 「一番は俺でしょうぜ。全部見てるんですから」


 だが、当の本人は自分が一番忙しいと胸を張る。忙しさを自慢してどうするのかという話だが、責任範囲の広さという意味では従士長は一番だろう。少なくとも、領主代行としてペイスが見ている範囲は、シイツも見ている。シイツに出来ないのは最終的な決裁だけで、それ以前の調整や確認は、全部シイツの仕事なのだ。


 「補佐がつけば、シイツも少しは楽になるでしょう。子供も生まれたことですし、家族サービスは大事ですよ」


 次期領主は楽しそうに笑った。目の前の四十路(よそじ)男が、意外にも子煩悩なのを茶化したのだ。

 元々傭兵であり、自由人を標榜していた独身主義者が、結婚して子供が出来た途端に子供大好き子育てパパになった。戦場で切った張ったを繰り返し、女と酒が我が人生と豪語していた、泣く子も黙る覗き屋シイツともあろう人間が、赤ん坊を前にべろべろばあとやっているのだ。

 現場を目撃した人間の、腹筋と忍耐が試されることになったのは言うまでもない。


 尚、ペイスやカセロールは話を聞いただけで笑い転げた。


 「誰のせいで忙しいと思ってやがんだか」


 茶化されるのにはもう慣れてしまったシイツが、忙しさの元凶にむかってため息をつく。


 「忙しいのは良いことじゃないですか。暇すぎて開店休業の赤字よりはマシです。僕は今更、具なしのスープで堅くなった酸っぱいパンをふやかして食べる生活に戻りたくは無いです」


 元々モルテールン家はドが付く貧乏な家だったのだ。領地経営は赤字続きで、王宮の役職があるわけでもなく、カセロールが傭兵紛いに稼いだ金も領地経営の赤字補填に消えていく。ペイスが改革を為すまでは、生活も切り詰められるところは全部切り詰めて、質素な生活をしていたのだ。

 お金が無く、それ故に人も多く雇えず、人手が足りないと悩んでいた時期に比べれば、領地経営も黒字になり、黒字を拡大させるために人手を欲している現状は好ましいものである。


 「そりゃ俺も同感ですがね。それでも、現状を見れば、ようやく落ち着いたってところでしょうぜ。ま、すぐに騒がしくなるでしょうが」

 「どういうことです?」


 シイツの言葉に、ペイスは怪訝そうな顔をした。珍しくシイツの言葉の意味が分からなかったからだ。別に騒動を起こそうと思っているわけでもない彼にとって、騒がしくなるというのは好ましくない。出来得る事であれば、静かで落ち着いた暮らしの中、お菓子作りに邁進できる環境が望ましいのだ。

 生まれついてのトラブルメーカーであっても、原因に心当たりのない騒動の予感となれば気になる話。シイツの予感は良く当たるのだ。


 「ルミとマルクの二人、もう成人ですぜ? 俺はあの悪ガキどもの面倒を見ることになるかと思うと、辞めたくなりまさあ」


 ああ、なるほど、とペイスは頷いた。

 ペイスの幼馴染で、悪ガキ仲間のルミニートとマルカルロの二人。三つ四つ年上の彼ら彼女らは、確かに一般的な成人年齢に達している。

 家中の重鎮、私兵団副長コアントローと領内内政官のNo.2であるグラサージュ。それぞれの子弟であるルミとマルクは、成人すればモルテールン家の従士として採用が決定している人物でもある。他家の紐がついていない、生粋のモルテールンっ子の二人だ。モルテールン家では数少ない譜代の人材ということになる。

 また、ペイスにとっても昔からの遊び仲間で気心も一番知れている二人だ。能力はともかく、忠誠心という意味では心から信頼できるし、二人がペイスを裏切る心配をするぐらいなら、空から隕石とUFOが同時に落ちて来る心配をする方が建設的なぐらいである。

 はっきり、貴重な人材と断言できる。ただし、それはペイスにとってであり、従士長にとっては手のかかる悪童が一人から三人に増える悪夢の到来であった。シイツの辞めたくなるという言葉は勿論冗談だが、中に込めてある苦労の予感は純度百パーセントを保証できる。


 「シイツに辞められると、冗談抜きに領政の半分が止まるので、やめて欲しいです」


 ペイスにとっても、シイツの苦労性は理解できるものだ。他ならぬペイス自身が、あの二人には色々と苦労させられたのだから。家出騒動、狼退治、摘まみ食い事件に決闘騒動。モルテールン家の問題児のトップはペイスで決まりだが、それを除けばルミとマルクの両者が次席候補生である。コアントローやグラサージュが、何度頭を痛めたことか。酒の席で子育ての難しさを切々と語る父親二人の哀愁は、涙なしには語れない。


 将来の苦労を半ば確信し、苦笑するペイスに、シイツは肩を軽く竦めた。


 「ならあのガキ共、しっかり手綱を握っててくだせえ。坊の下に付けますんで」

 「僕の下に?」

 「あいつらは他の大人の言う事を聞きゃしねえんですよ。昔っから坊の部下だと言い張ってますし」


 マルクとルミは、幼い時からペイスの傍で育った。幼馴染として、常にペイスを見て育ってきたのだ。つまり、自分以外の人間に対する評価基準がペイスになっている。

 元より、自分のことは棚に上げてでも人を評価するのが悪ガキというものだ。例えば剣技でも、自分はへっぽこ剣士であったとしても、他人に対してはなっちゃいねえなとか、良くあれで剣を持っていられるよなとか、平気でくさすのが彼の二人だ。

 なまじ、ペイスが優秀なのがいけない。大抵の人間は、ペイスと比べれば凡夫になってしまう。

 一例を挙げるなら、ニコロのケース。彼は神王国の一般的な水準で言えば相当に優秀な部類になる。文字の読めない人間が大多数の世界で、ニコロの場合は文字の読み書きは完璧に出来るし、内務系の家に育ったことから、計算も得意だ。掛け算や割合の計算が出来、万や億の単位でも間違えることなく計算できるというのは、かなり珍しい人材である。もしも生まれが貴族の長男であれば、王宮に出仕して内務貴族として出世できたであろう能力を有しているのだ。

 しかし、ペイスにしてみれば、この程度は出来て当たり前のレベルである。三歳や四歳の頃には、同じぐらいの読み書き計算が出来ていた。勿論ルミやマルクが同じことを出来るわけでは無いのだが、ペイスが四歳で出来ていた程度のことを得意げにする大人がどう映るのか。

 幼児に負ける大人。尊敬し、言う事を素直に聞こうという気になるだろうか。マルクとルミが大人たちの言う事を聞かずに、悪ガキと呼ばれるのには斯様な事情があり、多分にペイスの責任がある。

 ペイス以外に、彼らを御せる大人など居ないのだ。


 「ならば、人材としての育成計画が必要ですね。十年単位で計画を作り、鍛えなければ」


 どうせペイス以外に御せないのなら、ペイスの部下として使うしかない。その上譜代の人材というなら、徹底的に鍛えて将来の幹部候補生とするのがいい。

 幾度となく内々で検討されて来たことである。その点、シイツにも共通認識があり、否は無い。


 「気の遠くなる話で。しかし、そうなると、うちの人間の手がまた足りなくなりますぜ?」


 二人の教育をどうするか。そこいらの人間だと舐められてしまって、碌に教育も出来まい。ペイスか、或いはシイツか。グラサージュかコアントローに教育を任せるか。誰にしたところで、教育だけにかかずらわって居られるほど暇ではない。


 と、今までならば諦めていた。

 しかし、今はモルテールン家には素晴らしいコネクションが存在する。文字通り、国で最も優秀なコネクションだ。


 「やはり、士官学校に放り込みますか?」


 寄宿士官学校。ペイスが教官として勤める場所だ。教育についてはここ以上の専門はあり得ない。ペイス自身が教えるか、或いは他の教官に任せるか。どの教官に師事したところで、最低限のことは叩きこんでもらえるのだ。ここであれば、大人を舐め腐ったような性根も叩き直してもらえるし、礼儀作法もしっかり教え込んでくれる。

 ペイスを見て育ったから大人を舐めるのだとしても、当人たちにペイス並みの実力があるわけでは無いのだ。無論普通の子どもに比べれば高い実力があるのは事実だが、それでもまだまだ一般人の範疇。実力不足を自覚すれば、少しは大人しくなるはず。そう、期待している部分はある。


 「まともな教育ができりゃ話は早いでしょうよ。幸い、坊が教官のうちは目も手も届くでしょうし」

 「……そうだと良いのですが」

 「不穏な言い方して、何かあるんで?」

 「いえ、具体的に何かあると思っているわけではありません。しかし……学校でも“少し”だけ名前が売れてしまいましたから、僕の目の届かないところも出て来るだろうと思いまして」


 ペイスは、予感があった。どちらかといえば予測という部類になるのだろうが、自分を王都に招いた連中が、このまま手をこまねくとも思えなかったのだ。

 無論、普通の教官のままでいいというのなら、ペイスは遠慮などしない。徹底的に苗木買いをして、目ぼしい学生は根こそぎ掻っ攫う所存である。その為の方策もあるし、評判という餌撒きも十分。今年は十人や二十人という数で済ます気などない。この少年の辞書に自重という文字は無いのだ。


 しかし、それを甘んじて許すほど王都の貴族たちは無策なのだろうか。たった一人の子どもに庭先を荒らされて、傍観するだけの案山子(かかし)であり続けるのか。

 否、あり得ない。

 生き馬の目を抜く貴族社会において、第一線で活躍する腹黒共の巣窟が王都だ。一度はペイスに出し抜かれたとしても、もう一度同じような真似を許すとも思えない。きっと何がしかの手を打ってくる。ペイスはそう予感していた。


 「それならそれで、あいつらの勉強ってもんでさあ」


 だが、シイツなどはかなりお気楽に考えていた。別に悪いことをしているわけでは無い。少なくとも法に反することはしていない。ならば、堂々として居ればいい。

 貴族社会の汚い部分も含めて、ルミとマルクにはいい勉強になるはずである。


 「確かにそうですね。では、マルクはうちが推薦するとして、ルミはどうします? 推薦が要るでしょう?」

 「ハースキヴィあたりはどうです」


 ハースキヴィ準男爵家は、ペイスの姉が嫁いだ家だ。元々騎士爵家だったのが出世し、領地替えで神王国東部に領地を持つ。モルテールン家にとっては数少ない信頼できる貴族である。

 寄宿士官学校は貴族の推薦が無ければ受験すら出来ず、貴族の推薦枠は家の大小に関わらず年に1枠。ルミとマルクの二人を入学させようとするなら、手ごろな交渉相手である。ハースキヴィ家であれば強い血縁関係があるし、恩も売ってある。貴族という看板を借りたいときには、気軽に頼れる相手だ。


 「姉様相手の交渉ですか……まあ、ルミの事であれば、多少は融通をきかせてくれるでしょうかね」

 「ルミに可愛げがあった頃を知ってますしね」


 ペイスの姉、ハースキヴィ準男爵夫人ビビは、勿論小さい時はモルテールン領で育った。マルクやルミが産まれた頃を知っており、二人のお姉さん的ポジションで可愛がってきた過去がある。

 ルミの為と聞けば、身内割引を効かせてくれるであろう相手。気を付けておかねばルミをうちに寄越せと言いかねないのが欠点だろうが、それを含めても頼もしい相手だ。

 幼馴染たちがまだヨチヨチ歩きで可愛らしかった頃を知るビビ。実に都合がいい。


 「僕も普通の子どもだった頃ですね」

 「ん? 坊が普通だった時ってなあ、腹の中に居た時ぐれえでしょう」

 「シイツ、僕にだって無邪気な子供だった時期が有るんですよ?」


 そんな時期あったか、とシイツは思い出そうとした。そして、すぐに放棄した。思い出せないことが明白だったからだ。存在しないものを思い出すことは出来ない。


 「今だって十やそこらでしょうに。普通なら、まだ子供ですぜ?」

 「やむを得ない家庭の事情ですね。被害者の僕としては、泣きたくなります」


 普通ならば早くても十三才ぐらいで成人する社会。七つで成人したペイスは相当にイレギュラーだ。お家の事情で聖別を急かされたという意味では、確かにペイスも被害者と言えなくもない。勿論、シイツはそんな被害の訴えを鼻で笑った。


 「何を寝言言ってんだか。坊で被害者ってんなら、世の中は被害者だらけになってるでしょうぜ」

 「それは酷い」

 「ま、とりあえず、あの馬鹿二人を呼んできますんで」

 「頼みます」


 シイツに呼ばれ、ルミとマルクが執務室にやって来る。

 両者とも、年ごろになって体格も中々立派になった。

 特にマルクの成長は著しい。成長期と言う奴で、毎日ニョキニョキと背が伸びている。ルミにしたって、体つきが日を追うごとに大人の女性らしくなっている。昔は男の子と間違えられもしたが、今ならそんな心配はない。


 「んだよ用事って」


 シイツに無理やり連れて来られたせいか、露骨に嫌そうな顔をしたルミとマルク。


 「良いから入れ。坊から大事な話があんだよ」

 「ペイスから?」


 相も変わらず口の悪い二人を、ペイスの前に連行してきたシイツ。

 首根っこを掴んで、大人しくさせる。


 「二人共、忙しいところに呼び出してしまいましたね」

 「ようペイス。また何か美味いもん作ったのか?」

 「俺にも食わせろよ。なんなら、シイツのおっちゃんとこいつの分も食ってやるから」


 幼馴染の二人だ。ペイスがお菓子を作った時、毒見と称して何度となくお相伴に預かっている。今日もそうなら嬉しいと期待しての言葉だったが、ルミの分まで食うと宣言したマルクに、食い意地の張ったルミは反発する。


 「ふざけんな。美味いもの独り占めしようったって、そうはいかねえ」

 「良いじゃねえか。食い過ぎると太るぞ。今以上にな」


 けらけらと茶化すマルクに、ルミは右ストレートを放つ。マルクもルミの手の早さは承知しているので、軽くのけ反って拳打を躱した。


 「テメエ!! 麗しきレディに向かって喧嘩売ってんのか、おぉ?」

 「どこに麗しきなんたらが居るんだよ」

 「目の前に居るだろうが!!」

 「おいおい、俺の目の前にはチンクシャな男女と、老けたおっさんと、ペイスしか居ねえぞ。ああ、ペイスが麗しのなんたらなのか?」


 相も変わらずの仲の良さである。気の置けないやり取りには微笑ましささえあった。ただし、モルテールン家の人間限定の微笑ましさだが。


 「……よし分かった。今日という今日は許さねえ。表へ出ろコラッ。顔のニキビごと潰してやるよ」

 「おお上等だ。剣なら俺の方が上だって教えてやる」

 「はいはい、毎度のじゃれ合いはそれぐらいにしておきなさい。二人を今日呼んだのは、料理の試作ではありません。残念ながら」


 本当に残念だとペイスは溜息をつく。お菓子作りをする方が、政務に手を取られるより万倍も楽しい。


 「ええぇ~」

 「話というのは、他でもない。二人の成人としての初任務の話です」

 「初任務か!!」


 二人は喜色を露わにする。

 昔からペイスの役に立ちたいと努力してきた二人だ。初任務となれば、気合も十分、張り切りまくりである。


 「いいねえ。何でもやるぜ。勉強以外」


 ペイスの傍で学んだマルクは、頭は決して悪くない。ルミの方が頭が良く、ペイスが別格なので自覚していないが、一般的な水準ならばマルクも賢い方に入るのだ。

 ペイスによる知らず知らずの英才教育がなされていたというのもあるのだが。比較対象が二人しかいないので、若干頭の出来に関してコンプレックスがあるのだ。


 「マルク、残念ながら、僕が二人に与える命令は、お勉強です」

 「何?」


 ペイスは、幼馴染二人を見る。

 そして、笑顔のまま辞令を伝えた。


 「二人共、来月から学生です」


 寄宿士官学校に新入生二人が追加された瞬間だった。


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― 新着の感想 ―
[一言] >坊が普通だった時ってなあ、腹の中に居た時ぐれえでしょう いやいや 「ととさま、ムギにげんきがないです」 のころは、はためにはまだ普通の子供だったろうと(中が普通とは言ってない
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