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おかしな転生  作者: 古流 望
第14章 ハネムーンに浮かされて

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126話 襲撃者

 「総員、整列っ!!」


 ペイストリーの掛け声に、一斉に姿勢を正した集団。

 数にして二十六人。彼ら彼女らは蜂蜜を守るために組織された一団だ。

 ペイスが総責任者、ガラガンとモンテモッチが森林管理役の従士として脇に控える。彼らに向き合うようにして並ぶのが、新村(ル・ミロッテ)から集められた各家の代表者二十名。

 そして、未成年が三人の計二十六名だ。


 二十名の内訳は、老若男女様々。一つの家から二名を出すとして、十の家に割り当てが振り分けられた。夫婦で出ている者もあれば、父と子で出ている者も居る。

 神王国においては、領民は領主に対して一定日数無償奉仕する義務がある。モルテールン家では無償奉仕と言いつつも炊き出し等があり、全くのタダ働きとはならないのだが、面倒くさい義務である点に変わりはない。税の一部とされているので、正当な理由なく拒否した場合には罰則もある。

 用水路を始めとする公共施設の掃除や補修、害獣駆除、新規開墾、冠婚葬祭の準備など、領民の生活にも関わることに動員されるのが一般的な常識だが、他所の領主になると自分の私的なことに奉仕させることもあった。王都などに詰めている貴族の領地を預かる代官・代理人が、これを名目に私的な田畑の作業をさせて、私腹を肥やすケースもある。

 それに比べるとモルテールン家は比較的領民に対して優しい政治を行っているのだが、面倒くさいものは面倒くさい。

 二十人が皆、やる気も無さそうにしている。金にもならない労働にやる気を出せと言う方が無茶だろう。


 大人たちのやる気のない態度に比べると、三人の未成年はやる気に満ち満ちていた。

 ルミとマルクの悪ガキ二人。そして、来年の年明けには成人するアーラッチ。この三人だ。


 何故この三人がやる気になっているのか。いや、そもそも何故首を突っ込んでいるのか。

 ルミとマルクは、ペイスが指揮を執ると聞いて、きっと面白いことになるに違いないと参加した。炊き出しに美味いものが出るかもしれないという期待もある。

 家の手伝いをしたくないからという部分もあるが、大部分の理由はペイスに起因する。自分たちはペイスの部下だという意識があるので、ペイスが領内でやることには出来る限り首を突っ込みたがる。


 そしてアルは、ジョゼが領外に仕事として出かけると聞いたことで不安に駆られ、少しでも得点を稼いでおきたいからと志願した。

 従士になって手柄を立てて、ジョゼとの薔薇色の生活を夢見る男。大活躍して、周囲に認められて、あわよくば好きな女の子にも惚れてもらいたい。十代も前半の男などと言うものは、この手の妄想に近い夢を持つものだ。年齢で言うなら丁度中学生ぐらい。年ごろの男子の八割位は、この手の流行り病に罹る。

 若年性妄想疾患。通称中二病。思春期のおたふく風邪。普通は大人になれば黒歴史の傷跡を残しながら治癒するが、たまに一生治らなくなる奴も居る。

 早い話、女の子に良い恰好をしたい。極々普通の参加理由だろう。


 「既にガラガンから説明があったと思いますが、僕から改めて今回の作業を説明します」


 ペイスは、集まった面々を見渡しながら、話をする。一番やる気のあるのがこの男であるのは言うまでもない。


 「まず、目的としては、森の中に巣食うハチクイという鳥の根絶を目指します。森の一部に網を張り、ここに追い立てることで捕まえられる。まずは網の準備。その後は追い立て。一度だけでは空に逃げるものもあると思うので、追い立てるのは何度か行ってみます。はぐれたものが少数なら、直接撃ち落としても構いません」


 ペイスがやろうとしているのは、カスミ網猟のようなもの。領民には話すことも無いが、彼の次期領主は東部での戦争の折に敵の魔法使いから鳥を操る魔法を盗んでいる。数羽ほどを捕まえられたなら、後は仲間を呼ぶように操るだけで一網打尽に出来ると踏んでいた。

 多少は群れからはぐれるものもあるかもしれないが、はぐれた鳥を捕るのには、投石の得意なルミとマルクが活躍するだろう。


 「我が家は領民の生活向上と領内の繁栄を目的に新規産業を模索している最中にあり、その一つがハチミツ作りです。これが成れば我が家の繁栄も勿論ながら、ここに居る皆の生活もより豊かになる。美味しいものをもっと食べられるようになるでしょうし、素敵な服だって手に入るようになる」


 夢を語るペイス。モルテールン家の施策は、領民の幸福と繁栄の為である、という民心の鼓舞だ。


 「しかし!! 我々の苦労を横取りし、ハチミツ作りを邪魔しようとする敵が居る。それがハチクイです。彼奴(きゃつ)等は意地汚くもハチを襲い、食い散らかし、荒らしまわる。我々に対し宣戦布告も無しに攻撃を仕掛けてきたのです」


 ペイスの語る内容。既にアジテーターの類に近い。扇動のように熱く語るが、集まった皆もいつの間にかペイスの話に引き込まれていた。

 話だけなら、何と極悪非道な敵だろうかと思う。悪しざまに罵るペイスの言葉に、大人たちまで頷く有様だが、敵と言うのはただの鳥である。


 「一匹残らず、敵を殲滅します!! 貴方達はこれより戦士となる。憎きハチクイを打ち滅ぼし、我々の繁栄を我々の手で掴むのです!! 我らが同胞よ、準備はいいか!!」

 「「おお!!」」


 ペイスの振り上げた拳に、集まった一同が同じように拳を上げて応えた。

 やる気の無さそうだった連中も、自分たちの為だと聞かされたことでやる気が出たらしい。


 「ガラガン班とモンテモッチ班に十名づつ別れ、作業を開始します。では、始め!!」


 一斉に動き出した村人たち。

 残ったのは未成年組の三人とペイス。


 「ペイスよう。俺たちは何すりゃいいんだ?」

 「とりあえず、網が準備できるまでは待機ですね」

 「それだけか?」

 「二班に分かれてますから、必要に応じて伝令に走ってもらうこともある。その時は頼みますよ?」

 「おう、任せろ」


 マルクも従士の子。体を鍛えるのは仕事でもあるので、走ることを含め体を動かすのは得意だ。というよりも、頭を使うのが苦手だ。

 ペイスの言葉に、大きく頷く。


 網を立てるといっても、素人の集まり。作業効率はイコールで指揮官の質だ。

 ガラガンは村人たちを指揮統率した経験が多少なりともあったが、モンテモッチは人に指示を出して動かすなどこれが初めて。元村人の平民であり、以前であれば指示を受ける側だったのだ。顔なじみも居る中、自分達よりも年上の連中を使って仕事をこなす。これがなかなか難しい。

 ガラガン班が三つほどの網を立て終わった頃。ようやく最初の一つがモンティの班で立て終わった。


 「ガラガン、モンティを手伝って下さい」

 「了解っす」


 後輩をサポートするのも先輩の役目と、ガラガンがモンティの班を手伝いだす。こうなると作業は早い。

 あっというまに、網は立て終わる。ペイスの元に皆が再度集められた。


 「それでは、まず一度ハチクイを追い込んでみます。森入口の管理小屋を起点に、ガラガン班は南回り、モンティ班は北回りでゆっくり追い立ててください。焦らず、自分たちの後ろにハチクイが逃げないように慎重に追い立てていくように」

 「了解っす」

 「わ、分かりました」

 「モンティ、緊張するなとは言いませんが、率いる貴方がそうもガチガチになってると、それが下にも伝染します。もっと笑顔で、朗らかにいきましょう」


 ペイスに言われて、無理やり笑顔を作ろうとしたモンテモッチ。口角を無理に上げたものだから、歯がむき出しになってしまい、目が笑ってないだけに笑顔と言うより、気持ち悪い動物顔になっていた。犬が牙をむき出しにするような顔なので、何もして無い時よりも怖い。

 周りの人間は苦笑いだ。


 「僕が間違ってました。普通で良いので、慎重に頼みます」

 「はい、お任せください!!」


 右手と右足が同時に出るぐらいに緊張しているモンティと、それが率いる班。これは期待薄だと早々に対策をうつペイス。


 「アル。モンティの班から少し離れて後ろに付いて下さい。よほどトンチンカンなことをしそうになったら、サポートするように」

 「分かりました」


 アーラッチは子供たちの中でも、成人を間近に控える年長者。目を見張るほどに得意なことは無いが、その分苦手なことは少なく、割と要領の良いところがあるので、サポート向きの人材と評価されていた。


 「さて、二人は投石の準備を」

 「お、俺らの出番か」


 ルミとマルクも出番とあって、張り切りだした。

 投石紐を取り出し、良さそうな石を拾って重さを慎重に測る。ひゅんひゅんと空気を切る音と共に紐を回して感触を確かめ、物の試しとばかりに一つ投げて調子を調べた。


 「うっし、絶好調」


 マルクは、今日は調子が良かった。

 狙った木の枝に、ジャストミートさせて快音を響かせる。


 「あ~馬鹿。木に当ててどうすんだよ。鳥が逃げちまうだろうが」

 「げ、不味かったか?」

 「……まあ、まだ始まったばかりですから大丈夫。これからは勝手な行動は慎んでください」


 バサバサと羽音を立てて逃げた鳥たちの中に、どう見てもハチクイと思われる綺麗な鳥が混じっていた。

 マルクが不用意に脅かした為に、森の外に何羽か飛んで行ったのだから、明らかな失態である。


 「とりあえず、一匹二匹捕まえることですね。それが出来れば、今のマルクの不用意な行動も取り返せます」

 「捕まえた鳥に何かあんのか?」

 「馬鹿マルク。囮にするに決まってるだろうが。前もそうだったろう。な、ペイス」


 ルミが自慢気にペイスを見やる。


 「前も俺たちが捕まえた奴で誘い込んだんだろ? 今回もその手でいくなら、壊滅ってほどでもないじゃん。前のやり方で取りきれなかったから今日こうしてるんだろ?」

 「マルクも良いところに目を付けますね。その点は僕に考えがあるので大丈夫です。まずは何匹か捕まえることを考えてください」


 以前にハチクイの駆除を試みた際。囮を使ってより多くのハチクイを誘い出す作戦が使われた。

 マルクとルミが知るようにその作戦も一定の効果はあったのだが、それでも全体数からすれば微々たる数であり、同じように何羽か捕まえたところで、囮作戦は限界がある。

 このマルクの指摘は正しい。ペイスが鳥を操れるようになっていることを知らないだけで。


 「じわじわと、鳥が上に逃げない程度に、ちょっとづつ押し込んでいきましょう」

 「じれってえな」


 すり足のようにそろりと一歩進む。鳥もそれに気づき、軽く奥へ飛び上がって距離を取ろうとする。余り勢いよく近づけば遥か遠くに飛んで行ってしまうので、本当に少しづつだ。

 じりっと近づき、鳥がバサリと少し距離を開ける。その繰り返し。小一時間ほど時間を掛けた頃だろうか。


 「お?」

 「笛ってことは、上手くいったか?」


 甲高い音が子供たちの耳にも届く。

 事前に従士二人に渡してあった連絡用の笛。作戦成功の知らせだ。

 ピーピーと鳴るのを数度繰り返したところで、ペイス達も遠慮が無くなる。


 「若様~無事に四羽捕まえたっす」


 小手調べとしては上々の仕上がり。ガラガンが、誇らしげに戦果を見せに戻って来た。

 網から外して持ってきたのだろうが、足に糸を括って逃げないようにしたまま、手に持って運んだらしい。


 「食うところは少なそうだな」

 「ルミは食い意地汚えからな」

 「んだとこら!!」

 「ホントのことだろうが」


 マルクとルミの喧嘩を抑えつつ、ペイスは早速ハチクイに触れる。それが魔法の発動条件になっているのだ。チーチーと鳴いていた鳥が、一瞬で大人しくなる。


 「あれ? 若様何かしたっすか?」

 「鳥に命令を転写したのです」


 しれっと嘘をつくペイス。


 「もう大丈夫ですからその鳥を空に放ってください」

 「はい? 折角捕まえたのに」

 「この鳥が囮になって、大量のハチクイを呼んでくれますよ」

 「んなもんすかねえ」


 次期領主の非常識な命令はいつものことなので、ガラガンも気にせずに従う。多分魔法を使ったのだろうと推測しつつ。ペイスが魔法使いであることは周知の事実であり、魔法使いと言うのは大なり小なり常人では不可能なことを行うもなので、領民もそれを見守っていた。

 糸を外し、捕まえた四羽をバサッと飛ばす。


 「ぐっ!!」


 その瞬間、ペイスが苦しそうな声をあげた。


 「ペイス!!」

 「大丈夫か」

 「大丈夫。ちょっと目まいがしただけです」


 使い慣れていない他人の魔法だからだろう。一気に四羽分の視界。それも、上下を激しく動く視界であったために、一瞬気持ち悪くなってぐらついたのだ。乗り物酔いのようなものである。


 「これは……相当に堪えますね」


 リアルタイムに四つの航空偵察。中々に経験することではない。

 四苦八苦しながらも、慣れてきだしたころ。一つの視界が異変を捕らえる。


 「ん? 拙いです!! ガラガン、すぐに北へ走って下さい!!」

 「な、なんすかいきなり」

 「良いから急いで」


 急に走り出したペイスに、ガラガンが後ろからくっついていく。よく分からずに、ルミとマルクも一緒に走る。


 「一体、なんすか? モンティの方に何かあったんすか?」

 「……ハチクイより厄介なのが出ました」

 「ハチクイより厄介?」


 一体何なのかと、ガラガンは走りながらも首を捻る。


 「ハチミツに寄ってきたのかもしれません……クマが出ました」

 「熊ぁ?!」

 「しかもモンティ達が襲われてます。間に合えばいいのですが……」


 鳥の視界に映ったものは、今にも食われそうになる部下の姿だった。



今年も応援ありがとうございました。

来年も引き続きご支援ください。

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鳥魔法使い、捕まったのか、逃げ果せた100名に入らなかったか。
[一言] 鳥の魔法やっぱ便利だなぁ
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