殺人事件-4
「で、誰よ? そいつは。まあ、予想はついてるけど」
「碧の帝国の女王の特別警護をしている『騎士』だねえ。どう? 読みは当たっていた?」
「そこらの強い奴だとは思っていたけど、やっぱりか」
ぴゅー、と駿が下手くそな口笛を吹く。
だがーーー
「時雨はともかく、私の数少ない情報でよくそいつだってわかったな。鎧と兜をしてる鬼族なんてごまんといるだろ?」
「嘗めてもらっちゃあ困るよ、涙ちゃん。騎士は結構有名人だからね」
「有名人?」
「そっ。彼、元は貧乏な剣闘士らしくてねえ。しかも大会では鬼族相手に百勝で無敗。その実力を買われて女王の護衛役になったわけ」
ほお、あの戦闘しか脳のない鬼族に無敗とは。
「不思議なことに彼、人前では一度も仮面を取ったことが無いんだよね。もちろん、女王の前でも。その所為で彼、実は人間じゃないかって囁かれているんだよ」
「確かに鬼族にしては小柄だったな、時雨と同じくらいに。しかも体も鬼族に比べて細かったし」
「そういうこと」
それならば納得だ。
だが問題は全て解決したわけじゃない。
むしろ、山のようにある。
「一度にたくさんの情報が欲しい。なんか手はあるか?」
「もう一層のこと、女王にケンカを売ったら? あの種族のテッペンの人だからすぐ買ってくれると時雨くんは思うけど?」
「それもそうか、よし思い立ったら吉日。ラティは私と一緒に来て。駿達には用意してもらうものがある」
「……わかった…行こっ…」
ラティが私の手を掴む。
刹那、ラティが過去と未来の映像が交差する。
しまった、能力を解除したままだった!
これはラティの過去…?
『お母さん!! 助けて!! 嫌だ、行きたくない!!』
『ごめんなさい…卑怯なお母さんを許さないで頂戴…』
泣きわめく少女に対して痩せこけた女性が泣きながら謝る。
だが、連れ去られそうな少女を助けようとはしない。
『お母さん! お母さん! お母さん!』
『強く…どうか強く生きて…』
『嫌だ! お母さぁぁぁぁぁんッ!!!』
と、そこでジジッというテレビの砂嵐のように映像が途切れる。
『これがハーフエルフか…なんとも美しい…』
『お母さん…』
『残念ながら君のお母さんは君を我々に売った。今頃、売った金でのうのうと生きているだろうな』
男は吐き気を覚えるような笑みを浮かべる。
鎖に繋がれた少女の目には涙を流した後が残り、もう光など無かった。
『売った…? お母さんが…?』
『そうだよ。ハーフは希少だからね、高値で買わせていただいた。君は我々の人形だ』
また砂嵐が起きる。
まさか、今の少女って…。
『助けて…』
泣きながら何かに訴えかけるラティ。
『……ラティは…お母さんに捨てられ……研究所を破壊して社長に拾われた……。どうしたら、いいの…?』
ラティ?
『ラティに生きる、意味なんて…あるのーーーッ!?』
………。
『お願い……教えてよッ…』
…………。
『…助けて……』
……………。
そこで映像がきれた。
「涙……?」
「あ…ラティ、か…。ごめん、ボーッとしてた」
「…寝不足……?」
「かもな…」
ラティは12歳。
……思春期が来てもおかしくはないか。
。。。
「僕、碧の帝国に行かなくちゃダメなの?」
「別に私たちもついて行くんだから感謝くらいしろよ」
「ヤダよ! すごく感謝したくないよ!! だって僕を殺そうとしたんだよ!?」
鮮やかな金色の短髪。紅い宝石と紅いマント。
きめ細かく整った顔。シャルの細い体を軍服が隠す。
彼はシャルロット王子。通称、シャル。
以前、シャルは鬼族の暗殺者に殺されそうになったところを助けた仲。しかも私を女王にしたのはシャルでもある。
「僕は絶対に嫌だからね!」
「王子、碧の帝国に文を送っておきました」
「リドリィィィ!! 何してくれてんのさぁぁぁぁ!!!」
「はて? 何のことやら?」