殺人事件-2
吉野杏
綿あめのようにふんわりした髪の毛。
気の抜けた声の裏腹に杏さんの周りにはふよふよと水の塊が浮かんでいた。
杏さんは桜宮相談所の女医であり、能力者でもある。
能力とは水を変幻自在に操ることが可能。『どんな水』でも。
「杏さん! 邪魔をしないでくれ! こいつに一発殴らないと気が済まない!!」
「おやおや、そんな物騒なことダメですよぉ。お仕事が増えちゃいますぅ。それに言うこと聞かなかったら、操りますよぉ」
「「………」」
そう。一見、普通の能力に見えるがとんでもない能力なのだ。
人間の体は約60%は水でできている。
つまりは人間を操ったり、生かすも殺すもできたりするわけだ。
「そんなに怯えないでくださいなぁ。仲間にはそんなことしませんよぉ」
社長には「あやつはあまり怒らないが…怒らせたら我にでも手を付けられんから気をつけることじゃな」と言われるほどだ。
その前に杏さんが怒っている時との差がわからないからどうしようもないのだが。
。。。
「へえ…ご依頼……ご依頼ねえ…」
「……まだ…凹んでる……」
長い髪の毛が印象的な少女、ラティが背中を摩ってくれる。
とりあえず、紫が作ってくれた朝ごはんを食べる。
「へえ! 殺人事件じゃん! これオレが担当していい?」
「探偵スキルとかいらないから。もう間に合ってるから。コ○ンとか○田一とかレイト○教授とかさー」
時雨は首を傾げる。
まあ、彼らを例題に上げてもわからないだろう。
表の世界、魔界、裏の世界。その中の表の世界から来たんだし。
ここは裏の世界であって、表の世界と似ているが異なる世界。
そして私はこの世界の国々、紅の帝国、碧の帝国、翠の帝国、葱の帝国、黎の帝国を統一し天下を取る目的で来たわけだ。
そして数日前、この国の王子、シャルロットと色々ごたごたあって特別枠で新女王になった。
「ていうか、いいの? 殺人事件場に女王がいるなんてさ」
「女王だからなんて言う戯言なんていらないんだよ。そういうのは大っ嫌いでね。私はやりたいようにやる。ただそれだけだし」
「あっははは!! オレ、やっぱ涙ちゃん好きだわ!」
と、ケラケラと笑い出す時雨。
時雨・レバレビィ
アウトローな雰囲気の持ち主。
そして自称、殺人マニア。
あくまでする側ではなく見る側らしい。
「でも時雨って推理よりスパイがお似合いだと思うけど」
「そりゃあ、もちろんスパイだってするさ。こうして『変幻』してさ」
時雨の顔が粘土のようにグニャリと作り変えられ、私とそっくりになる。
そう。彼の能力は相手をコピーできる能力だ。
さすがに相手の能力まではコピーできないらしい。
コピーできるのは外見全て、仕草、癖、その人の能力以外ならコピーできるらしい。
「…ラティも……ラティも行く…!」
「じゃあ、俺も同行しよう。女王としてのボディガードに」
「却下! それならそこにいる憎たらしい駿を連れて行くし」
と言うわけで四人で行くことになった。
その殺人現場が起きた場所が、町外れの工場だった。