殺人事件
今日も朝が来た。
私の生活は元の世界に居た頃と変わらない。
まず朝が来れば寝る。もちろん引きこもりにとってもニートにとってもお天道様の光は天敵でしかない。だからカーテンは必ず閉める。
昼間の良い子がおやつを食べている時間帯に起床。手慣らしと頭の体操に軽くゲームをする。
そして夜がくれば朝日が登るまでゲーム三昧。
「もう8時…早いけど疲れたし寝るか…」
ゲームデータをセーブし、ログアウトする。
さて私もプリンを食べてログアウトーーー
「おい! 涙! 今日という今日は寝かせはしないぞ!!! お前の仕事が山ほどーーー…涙、どうかしたのか? 冷蔵庫を開けっ放しで固まるなんて」
芯咲紫
いつも整えられている燕尾服に手を覆い隠す黒い手袋。そしてこいつの堅苦しさを表す黒縁メガネ。
……だが、今はそんなことどうでもいい。
「………………ない」
「何がないんだ? というよりいつも言っているだろ、ちゃんとしたご飯を食べろって。今から作ってやるからそれをーーーー」
「プリンがないっっ!!!」
昨日、箱買いしたタマプリンが一つ足りないのだ。
タマプリンは近くの駄菓子屋、三戸さんが営んでいる駄菓子屋の絶品プリンだ。
あれがあればやる気も出て、一日を生きれる。
なのにーーー。
「……あいつか」
「え、ちょ、おい涙!! 服を着替えてからにしろ!」
「そんなもんプリンに比べたらプリンのほうが大事じゃい!! ていうかプリンと比べるほどでもねーけど!!」
そう言い、あいつの元へ全力疾走した。
。。。
「駿!! てめええええええ!!! 私のプリンを食べやがったなああああ!!!」
「あはっ、ばれっちゃった? 別に一つくらいいいじゃん。あんなに溜め込んでる訳だし」
緋山駿
ボサボサ頭に黒のコート。
体格も身長も平均的だが、顔だけは整えられている。
いけすかないやつだ。
「いいか…駿……その何にも詰まってない脳に叩き込んで覚えろ…プリン一つで私の生死がかかってるんじゃあああああ!!」
「阿呆か…」
と私を追いかけて来た紫が呟く。
たが、そんなことはどうでもいい!
私にとってプリンはありがたーいものなんだよ! 神以上のものなんだよ!!
「じゃあ、僕は逃げるとしようかな。スタコラサッサー!」
「あ! 待ちやがれ!!」
ここは屋上。駿は屋上から飛び降りた。
あの野郎、私が屋上から飛び降りれないから諦めると読んだのだろう。
だが、舐めてもらっては困る!
なんせ、私の脳内には『敗北』なんて文字はないのだから!
「私のプリンを返せゴラあああああ!!」
柵を飛び越え、屋上から飛び降りる。
「っておい! 涙!! ……あのバカ共…」
。。。
無事に草木に着地。
この紅の帝国の地図、家の配置、人の行き来、職業、草木の配置、全て頭に入っている。
だから飛び降りた前、この草木がクッション代わりになってくることは想定済みだ。
「強情だなあ」
「見つけたああああ!! 待て駿!」
と、足を一歩出した瞬間。
駿と私の上から水が降ってくる。
しかもだばーっと。
おかげで全身ずぶ濡れだ。
「もう、二人とも頭を冷やすことが必要なのぉ」
「あ、杏さん…」
「あははっ、顔を洗う手間が省けたねー」