最初のふぁいと。
どんなに頑張ったって努力なんて認められないんだ。
何時だって皆距離を置いているんだ。
だから俺は
知らないところで今日まで努力してきた。
ある条件でその努力は契約の日まで発揮することが出来ないのだけど・・・。
俺はこの努力の結果でこの高校生活を変えてみたいと思ってる。
俺は水廼昶。
公立の総合学校の情報処理科一年生。
通称【駄目っ子】。
何やっても駄目だから、小学生の頃からずっとそう呼ばれ続けてきた。
まぁ一応勉強は平均より少し高めだからその部分は補われているけど、運動は駄目駄目で、内気気味だから人間関係も駄目駄目。
見た目は・・・言われたことないから分からないけど。
「はぁ・・・疲れたな。」
部活なんか入ってないから俺はいつも通りに直帰するつもりで生徒ロッカーに指定靴を取りに向かって、上履きと靴を取り替えている時だった。
「よぉ、あ・き・ら・く〜ん!」
「!」
俺に話しかけてきたのは俺の学科で一番意地汚い男子生徒の田村将和だった。
「・・・な・・・に?」
「あのさー。俺今剣道部の練習で超忙しいわけよ?だ・か・ら♪俺の代わりに掃除やってってくれないかなぁ?」
「・・・はい。」
俺は将和には逆らえない。
将和は一年で剣道部主将に成り上がるほどの実力者だし、断ったことが以前あったけど、その時は本気でボコボコにされた。
それに、剣道部の先輩に言いつけて先輩達と殴りに来る。
先輩達も俺のことが大嫌いなんだ。
それは俺がハーフだからだと思う。
地毛の髪の毛が茶色なのと、地の水色の瞳が気に食わないのだろうと思う。
「それじゃあ任せたよ!あ・き・ら♪」
ホウキを持たされて俺は再び三階の教室に押し戻された。
三階にあるのは、この学校が一階が三年、二階が二年、三階が一年という風になっているからだ。
卒業した先輩達の話によると後輩が先輩にあいさつをするようにこういう仕組みにしたんだという仮説があるらしい。
「・・・・・・」
説明はそれくらいにして俺は居心地の悪い教室で掃除をし始めた。
視線が痛い。
だけど、長年のそれに耐えれば結構慣れてきて痛くもないのだけれど・・・。
「痛ッ!」
「あはははは!昶ちゃん何やってんのー?掃除〜?まるでお姉さま達にいじめられてるシンデレラみたいだねー♪」
クラスのいじめっ子達が投げてきたナイフが俺の頬を軽く傷をつけたらしい。
頬から赤い血が流れていた。
「・・・・・・」
「何々?スルーなの?ひっどいなぁ!!!」
また色々投げてきた。
正直避けるのがもう面倒くさいから避けないんだ。
避けたら彼らは豹変して、さらにやることが汚くなるから。
だから調子に乗らせとけばいいんだ。
何時の間にかいじめっ子達は帰ってしまっていて、教室に誰もいなくなった。
俺も掃除が終わって今度こそ帰ろうとして教室のドアを開けたら・・・。
「あっ・・・昶君」
「・・・・・・」
何かよく知らない女子が動揺しながら立っていた。
「・・・何」
「あ、いや・・・その・・・すごい血出てるけど大丈夫?」
「・・・君には関係・・・ないよ。てか・・・俺といないほうが・・・いい・・・よ。」
「え?」
「嫌われ・・・るよ?」
そう言うと、女子は黙ってずっと俺を見てた。
てか、何か用があったのか?
「・・・俺に・・・用はないん・・・だよね?帰るから・・・そこどいて。」
「え?!ちょっと待って!手当て・・・――」
「いらないってば!!!」
ちょっと怒鳴って女子を黙らせた。
戸惑っているみたいだけど、俺は女子を無理矢理退かしてさっさと帰った。
(もう・・・なんなんだあの子は。)
翌日俺は、2限目から学校へ来た。
「昶!一体今何限目だと思ってるんだ!遅刻とは良い度胸だな!」
「・・・」
嫌な感じの教師だな。
とか思いながら俺は黙っていた。
(我慢だ我慢。ここで俺が怒っちゃいけないんだ。契約の日になるまでは・・・本領を発揮しちゃいけないっていう約束なんだ。)
俺はとりあえず席について教科書を開いた。
そしていつものように消しゴムが飛んできたりする中でノートをとっていると、突然教室のドアが開いた。
教室内の全員が突然のことで一斉にそっちへ顔を向けた。
「授業妨害失礼。28代目、居られますか?」
入ってきたのは黒いスーツをビシッと着込み、グラサンをかけたいかにもどっかの悪の組織のお兄さんだった。
そのお兄さんはゆっくりと俺に近づいてくる。
「・・・28代目。」
「・・・・・・・・・」
あえての無視。
「28代目」
「昶、知り合いか?」
「先生授業を進めてください。」
「いや、でもその方お前に・・・――」
「早く進めろ。」
あ・・・やばい。
思わず素が出ちまった。
生徒全員が俺の性格の変わりように驚いている。
うっ・・・くそ。俺としたことが。
「28代目水廼昶様。」
「〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!何なんだ!何のようだ!つかなんでお前がここにいる!!!」
「突然で申し訳ございませんが、今日が契約の日なので急遽帰宅の用意をしてください。外で車を待機させておりますのでそのまま会場へ向かいます。」
「・・・あー・・・わかった。」
俺が教材片付けて教室から出ようとすると、罵声が飛んできた。
「おい待てよ昶!お前掃除しなきゃいけないんだから帰ること出来ないはずだぞ?それに俺からの了承が必要のはずだが?」
将和が笑いながらそう言うと、クラス全員が笑って俺を見た。
すると、俺の連れのスーツのお兄さんが将和の胸倉を掴みかかった。
「やめろ斉藤!!」
「しかし・・・」
「いいんだ。その手を離せ。命令だ。」
「・・・はい。」
しぶしぶ斉藤はその手を離した。
「それじゃあ今日は早退させてもらいます。」
俺がそう言い、教室から出ようとすると将和が俺を睨みながら
「テメェ・・・覚悟しとけよ。」
と、言い放った。
「・・・・・・・」
でももう俺は今日、この後の家庭行事を終えたら、もう遠慮はしなくていいのだ。
「あぁ、俺も楽しみに待ってる。」
俺はその時初めてクラスの前で不敵に笑って見せた。