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モノレールが海岸のそばを走っている。
その中、遥と咲夜は、向かい合うようにして一つの席に座っている。
二人の他には、屈強そうな軍人が数人。
子供の二人を興味深そう、もしくは、恐怖の表情で眺めている。
当然だろう、このモノレールに途中下車は、ありえない。
終着駅は、絶海の孤島、上代学園だけだ。
よってそこに乗ってる子供は、必然的に概念能力者になる。
遥は、これみよがしに銃をちらつかせ武力をアピールする軍人をちらりと見て、ため息をつく。
それから端末に目線を動かした。
前では、咲夜が同じようにしている。
【遥】「なになに?咲夜の概念能力は、切り裂きジャック。触れた物を斬る能力か」
【咲夜】「ちょっと勝手に見ないでよ!」
【遥】「見たって構わないだろ。どうせ同じデータは覗けるんだ。それより対して情報は、変わらないな」
【咲夜】「そうよ。それなら・・・アンタの情報はっと・・・ぷはっ、なにこれ筋肉男」
【遥】「文句があるなら決めた政府の役人に言えよ。直接的に意味が伝わり安いとはいえ、センスがなさすぎだろう・・・まあ、英語の直訳だからな。しょうがないだろ」
【咲夜】「そうね。・・・それにしてもこの中から犯人探しか」
咲夜は、目の前の端末をスクロールしている。
遥は、何をしているのか察して、ため息をつく。
【遥】「まあな。総勢314名。それだけの人数の中から消えた能力者の謎を探らなくちゃいけない」
【咲夜】「消えたのはえっと・・・」
【遥】「三井宏太。第四級概念能力者。概念能力は、自動折り紙・・・なんだそりゃ?」
【咲夜】「念じるだけで折り紙が自動で折れる能力・・・これ使って脱走するって事出来ると思う?」
【遥】「はっ、どうせ適当な番組で折り紙してて、偶然自分の思い通りに折れたとか、折り紙折ってる時に風が吹いて、自動で折れたと錯覚したとか、その辺だろ。・・・まあ、この能力じゃあ、百年かけても脱走は、無理そうだな」
【遥】「それにこいつの情報を見たか?自主的にここに来てる。と、いうことは能力を無くしたい思っているわけだ。それなのに姿をくらましたりするか?」
【咲夜】「まあ、しないでしょうね。となると・・・」
【遥】「ああ、誰か別の能力者の仕業だろうな。・・・けどなあ」
俺は、端末に目を落として唇をひんまげる。
こんなの全部、覚えきれるわけねえだろ・・・
【咲夜】「それにしても急に増えたよね。子供の概念能力者・・・」
【遥】「しょうがねえだろ、どっかのコンセプトとかいう組織が政府が隠してきたものを大々的にばらまいちまったんだから」
【遥】「想像力多感な若い連中は、すぐに自分には、特別な力があるからと思い込むからな」
【咲夜】「そうね。さて、さっさと解決して帰らなくちゃ。頑張るぞ、私!」
咲夜は、握り拳を作り気合を上げる。
俺は、それを見て、嘆いている暇はないと思い出す。
アイツとの約束も守らなくちゃな・・・
【咲夜】「この中から検索したところ、透明化や移動能力者は、大小会わせて63名」
【遥】「やっぱりか。メジャーな能力だもんな。誰もが憧れる」
【咲夜】「あんたも考えたことあるの?その・・・透明化して女のこのお風呂を覗くとか」
【遥】「俺は、のびた君か!・・・まあ、男ならあっても仕方ないと思う・・・」
【咲夜】「ちょっと何よその答えは、あんたは、どうなのよ!?」
いい加減にしてくれ。
こいつは、俺の羞恥心をえぐって日頃の復讐とかでも考えているのか?
【正樹】「君達、痴話喧嘩なら外でしたまえ・・・どう似てた?長官のマネ」
【咲夜】「きゃあっ!」
【遥】「どわっ、似てないわ。というかまた人の端末をハックしたな」
大声を上げた俺達に軍人が素早く反応する。
俺は、仕方なく、わざとらしく歌を歌いだし、さも音楽の音量を失敗した風に装う。
全く、恥ずかしい。
【遥】「一体、なんの用だ!」
【正樹】「いや、何さ。最後の挨拶にとて、後6分35秒で到着するし、そこについたら所持品は、全てとりあげられちゃうしさ」
【正樹】「それよりも・・・犯人探しに困ってるんだよね」
【正樹】「この電子の申し子、僕が手伝ってあげよう。ふむふむ。移動能力者、テレポートか、いい線だけどそれも違うな・・・外部には、伏せてあるが生徒に着けられたマーカー。腕時計の形状なんだけど、能力を使用したら、仕込まれた電撃によって気絶させたり、殺したりする事が可能ってわけ」
【咲夜】「そんな、普通の子だって通ってるのに・・そんな事を誰が許して」
【正樹】「さあね、能力者には、とにかくいろんな国の疑惑が絡み合うからね、逃亡防止か秘密の漏えい防止か・・・とにかくそれは、置いといて、能力を使って脱走するのは、不可能なんだ。わかる?君達」
端末に写るメガネのキャラは、呆れたようにメガネをクイクイと動かしている。
コイツ、おちょっくてるのか?
俺は、ともかく咲夜が今にもキレて端末を真っ二つにしそうだ。
【遥】「なら、答えは、簡単だな。三井とやらは、まだ学園内にいる。それも誰かの能力で隠されている」
【正樹】「正解だ。そして三井が消えた日、能力を使っているのは、遠近合わせてたったの6名」
【遥】「はっ、大分減ったじゃあねえか」
【咲夜】「でも待ってよ。まだ可能性は、あるわ。ほらこれ見て」
咲夜が突き出してくる端末を見る。
なになに?近すぎて見えねえよ・・・
第二級概念保持者、沖野城。
真っ赤な髪をしたピアスをつけた男が写真にガンを飛ばして写っている。
【遥】「概念能力は、溶解?・・・けどなあ」
【咲夜】「だからそれを使って、三井君を溶かしたとか」
【正樹】「その日そいつは、能力を使っていないし、そもそも学園の上位能力者である彼と第四級の彼では、授業を受ける教室も寮の寝室も全然違う」
【咲夜】「けど、触れて時間差で解かせる能力だったら?」
【遥】「そんな事は、どこにも書かれていないが?」
【咲夜】「けど私みたいに隠された能力があったり、本人が隠しているとか・・・」
【遥】「それを言ったら全員が容疑者になっちまうぞ。正樹、聞くが本当に概念が暴走したって事はありえねんだな」
画面の正樹は、メガネを傾けてとにかくキザな仕草をとろうとする。
やめろよ・・・咲夜が自分の意見を消されてイライラしてんだから。
【正樹】「三井君には、その兆候もデータもない。そもそも概念が暴走したからってどうなるっていうんのさ。まさか世界中の折り紙を折れる巨大全自動折り紙機になるとか!?」
【遥】「馬鹿にするな。とにかく概念が暴走していないんだったらそれでいい。とりあえずさっき言った6人の情報を表示してくれ。全部頭に入れておく。6人ぐらいなら出来るだろ」
【正樹】「わかった」
俺は、端末に表示されたデータを頭に叩き込んでいく。
咲夜も同じ事を膨れっ面でやtっている。
俺は、仕方ないなと苦笑して、
【遥】「別に咲夜の意見が間違ってるてわけじゃあない。とにかく今は、一番可能性が高いところから当たろうってだけだ。咲夜の意見も頭にいれとくよ」
【咲夜】「う~、うん。」
唸るように咲夜は、言い返してきた。
こういう時は、相変わらず子供みたいな事をする。
【正樹】「さて、そうこう話してる内に学園に到着だよ」
もうすぐ橋に差し掛かるだろう。
【正樹】「最後に忠告。とにかく気を付けなよ。あそこには、はなからマトモじゃない奴もいる。まあ、第二級概念保持者までしかいないからさ、まあ、ハルには、心配ないか。第一級概念保持者さん?」
【遥】「っつ!お前までハルって呼ぶようになったのか!?誰だっ、こんな呼び名を広めたのは!!」
【咲夜】「いいじゃない。親しみやすっていうか。遥って呼ぶと女の子っぽくなるしね」
【遥】「そうだ、お前だったあああっつ!!」
【正樹】「さらに忠告。今すぐ静かにしたほうがいいよ」
遥が怒鳴って頭に血が上っている間に二人の席は、軍人が構えるサブマシンガンに取り囲まれていた。
まずい、叫びすぎたか!?
こんな時は、
【遥】「あいむ、あいむそ~り~?」
【咲夜】「何で過去形なのよ。やっぱり勉強できないんじゃない」