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コンセプト・アーリア  作者: ソラ
プロローグ
1/6

プロローグ



雨が振る都市。

夜になっても眠静まらず、喧噪たる都市。

その人通りの少ない裏路地。

ゴミ漁りに来ていた猫が顔を上げる。

その傍を通り抜ける姿。

まだ12歳の少年が素足を泥で汚しながら走っていた。


【少年】「・・・嘘つき、嘘つき!嘘つき!嘘つき!」


喘ぎながらも上げる、悲痛の声。


もう誰も信じられない。

誰も信じたくない。

皆、皆、皆嘘つきだ。


-----------------------------------------------------



大沢小学校 出席番号5番 西田翔 12歳

身長148センチ 体重46キロ

普通の母子家庭。

公立高校に進学予定。


ビルの上。

屋上の角の端に男が立っている。

男は、懐から紙を出し、紙を空中に浮かべた。

紙は、重力に逆らわず男の前で停止している。

そのまま紙は、横にずれ後ろのもう一枚。

写真を男の前に出す。


【男】「やはり、この少年か・・・」


つぶやきとともに男は、ビルから飛び降りる。

目指すは、路地を走る少年。



------------------------------------------------------


【少年】「ぜはあっ、ぜはあ、はあっ、はあ」


やはりこの力の事を誰にも話すべきではなかった。

友達にも家族にも話さなければよかった。


あいつら・・・


家に勝手に侵入してきたあいつら、きっと僕の力を狙っているに違いない。

なんとかこの力を使い逃げてきたけど、着の身着のままで逃げたのは、失敗だった。

裸足のせいで、今も浮浪者が投げ捨てたビンで足を切ってしまった。

痛みに呻く暇は、ない!

今もあいつらが追いかけてきているのだから。

裏路地のどんどん奥に入っていく。

小さい頃、別れた父親に絶対入ってはいけないと言われた場所。


下界。


上界と呼ばれる一般人が暮らす街とは違い、犯罪者蔓延る違法な街だ。

体の震えとともに少年の足がゆるやかになっていく。

精神、肉体共にもう限界だ。

そこで汚れた広告が多数張り付く壁に背中を預ける。

息を整え、絶望に頭が支配されていると。


【謎の男】「西田翔だな」


いきなり真横から声が掛かった。

路地の入口、そこに一人の姿がある。

路地は、薄暗く姿はよく見えない。

だがそこで雷鳴、そして轟音。

黒いコートを着た男の姿。

轟音が響いた時には、少年は逃げ出していた。


【謎の男】「あっ、おい!」

【謎の女】「ちょっと!何やってるのよ!!」

【謎の男】「いや、だって・・・」


後ろで男の声に続いて女の声も聞こえる。

少年は、振り向きもせず走る。


【翔】「なんでっ、なんで僕が」


必死で前も見ずに走る。

そこでいきなり壁にぶつかった。


【男】「それはね、君が力を持っているからだよ」

【翔】「えっ」


頭を上げ、ぶつかった壁の正体を見る。

男が目の前に立っている。

少年の二倍は、ある背丈、獰猛そうな笑顔を浮かべた顔。

男は、サングラスを取り少年の顔を見つめる。


【翔】「うわあああぁぁ!!」


少年は、後ろい倒れこみ、水たまりに尻餅をついた。

男の懐から写真がふよふよと勝手に浮き上がってくる。

それを手にとり、少年の顔と見比べた。


【男】「西田翔君だね」

【男】「全く、なんで私がこんな仕事をしないといけないのだろうね」


男は、腰をかがめ、少年に手を伸ばした。

男が少年の頭に触れた瞬間。


【翔】「うわぁっ!うわああああっぁぁぁあ!!」


少年は、手を振り回し抵抗する。

その途端。

少年が振り回す手の延長線上。

男、雨、ゴミ、風、全てが衝撃波によって吹き飛ばされる。

男は、壁に激突!・・・いやしなかった。

壁に激突する数瞬前、男の体は、浮遊していた。


【男】「なるほど、組織が私を使う理由は、コレ・・・か」

【翔】「えっ?」


男は、浮いたまま少年に近づく。

そして少年もまた地上から離れ、浮上していた。


【男】「君の概念能力は、手の延長線上にある物を吹き飛ばすといったところかな」

【翔】「うわああ!!ああっ!あああああぁぁ!」


空中で浮上した少年は、訳がわからずやたらめっぽうに手を振り回す。

そのせいで近くの物全てが吹き飛んでいくが、男は、わずかに浮遊点がずれるだけ。


【男】「ついでだから僕の概念能力について説明すると」


そう言うと男の懐から注射器がまたもや浮遊して男の手に収まった。


【男】「触れたものを浮遊させて操る能力さ。だからいくら君が僕を吹き飛ばそうたって無駄」


そう言って、少年に近づき、注射を射とうとした時、


チュイン!!


注射器は、吹き飛んでいた。

男が視線を横に移す。

そこには、拳銃を構えた一人の男。


【謎の男】「そこまでだ。その少年を離せ。それから下がれ」


男は、言われた通り少年を下に下ろす。

そして地面に降り立ち、後ろに下がった。


【男】「君は何者だい?まさか仕事がブッキングしたとかかい?」

【男】「それならこまったねえ。僕は、今まで仕事はきっちり完遂ってので信頼されてるのに」


饒舌に話しかける男に謎の男は、警戒を解かずに近づく。

拳銃は、以前として男の心臓を狙っている。


【男】「まさか公安ってことはないでしょ。それとも別の組織?」


謎の男は、さらに一歩男に向かって近づく。

そこで男は、にっこりと笑い、


【男】「そうそう。僕、こんないかつい顔してるけどね。実はとっても几帳面で用意周到なんだ」


男は、告げ頭上を見上げる。

謎の男は、それに釣られるような事は、しないが音を捉えた。

いくつもの巨大な物体が落ちてくる音。

謎の男の真上にその落下物は、落ちた。


【男】「いやあ、ごめんねえ。恨みはないんだけど仕事だからねえ」


男は、上げていた手を下げ、少年の方を向く。

しかしそこに少年は、いない。

すこし離れた路地。

男と距離をとって一人の女が少年を抱きかかえていた。

暗くて顔はよく見えないが、艶やかな長い黒髪が地面に垂れ水を吸っているのがわかる。


【男】「逃げても無駄だよ。僕の能力は、目の届く所までが有効距離だからさ」


男は、少年を引っ張ろうと能力を使うが少年は、動かない。

女性の腕力で引っ張るぐらいでは、僕の力とは、相殺出来ないはずだ。


【謎の女】「無駄よ。すでに貴方の能力は、分けたわ」

【男】「分けた?」

【謎の女】「それより、後ろに注意したほうがいいんじゃない?」


女の笑うような声に男は、後ろに気配を感じる。

ゆっくりと振り向くと先ほど押しつぶしたはずの男が立っている。


【謎の男】「全く、慌てて拳銃落としちまったじゃねえか」

【謎の女】「何やってるのよ?バカ?」

【謎の男】「うるさい!」



自分を挟んで謎の男と女が喧嘩をしている。


【男】「どうあがいても逃れられないタイミングだったはずだが・・・どうやったの?」

【謎の男】「誰が教えるかよ。それよりお前の概念能力は、触れなくちゃいけないんだったよな」


謎の男は、誘うように両手を広げた。


【謎の男】「ならよ。勝負しないか?能力同士の勝負だ」

【男】「勝負?」

【謎の男】「ああ、簡単な事だ。お前が俺に触れたら勝ちというのだ。お前の能力なら俺を空の彼方に飛ばすなり簡単に出来るだろ。もちろん俺は武器を使わない」


謎の男は、そう言って武器がないのを証明するように服を上げ、一周回った。


【男】(何が狙いだ?・・・しかしこの男を捕まえれば、人質として少年を返すように交渉出来るかもしれない)

【謎の男】「ほら早く来いよ。俺は、動かないでやるからよ」


謎の男は、そういい仁王立ちしてくる。

男は、慎重に近づくことにした。

罠はないか?男は武器を隠し持ってないか?こいつの概念能力は、何だ?

あと少し、もう少し、もうちょっと。

そこで、


【謎の男】「ああ、ちなみに俺の概念能力が即死性のものだったらどうする?触れたとたん死ぬぞ」

【男】「いや、別にそんなつもりはないさ」


男は、にやりと笑うと目線を上から下に落とした。

謎の男に近づくと見せかけ、視線に入れようとしていた物。

謎の男の頭上には、鋼鉄製の看板。

右からは、洗濯機。

左からは、ガラス。

後ろからは、ガラクタの山。

どこにも逃げ場はない。

そして衝突した。


【男】(女が男の死に衝撃を受けている間に少年を奪う)


【謎の男】「はずれだ」


しかし謎の男の声が行動を止める。

山と積もったガラクタの向こう側。

そこには、何一つ変わらぬ姿の謎の男がいた。


【男】「・・・瞬間移動?」

【謎の男】「さあ、どうかな。・・・それより今だ!」


謎の男が叫んだ瞬間。

遠くから飛来した物体が数瞬の内に男の体にまとわりついていた。

開いしたカプセルが開き、電圧を伴った糸が男の体にまとわりつく。

それを認識する前に男は気絶していた。


【謎の男】「状況終了。全くもっと早くしてくれよ」


謎の男は、コートの襟に向かって話しかける。

すると耳にとりつけた機械から男の声が帰ってきた。


【男】「そういうなら、もっと早く射線を開けてくれ」

【謎の男】「へいへい」


倒れている男を拘束する。

それから女と少年に近寄った。


【謎の女】「よっぽど怖い目にあったのね」

【謎の男】「そりゃあ、そうだろうな」


少年は、恐怖で閉じていた目を開ける。

目の前には、黒いスーツとコートを羽織った二人。

少年は、驚くが恐怖は、わかなかった。

二人がまだ若く、近所のお兄さん、お姉さんと変わらなかったせいだろうか。

綺麗な女の人が顔を近づけ心配してくれるのに少年は、顔が赤くなる。

しかしそこを男の人に首を掴まれ、持ち上げられる。


【謎の女】「乱暴にしないでよ」


少年は、見上げる。

始めは、怖くて逃げた人の顔。

しかし次は、助けてくれた人の顔を。

短い黒髪が雨に打たれ、険しい目がこちらを向く。

顔は、青年の域を出ないが、その目だけは、やけに老成していた。

少年は、父親に抱っこされている気分を何故か思い出す。


【謎の男】「じゃあ、帰るとするか」

【少年】「えっ?どこに?」

【謎の女】「私達の家。そして、これから君の家にもなる場所によ」


朝日が上り、路地をわずかな陽光が照らす。

これほど恐怖に逃げ惑った場所がこれほど小さく明るいとは。

少年は、おどろくほど安堵を得ていた。



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