密書(プリント)の提出
……俺らは無惨にも戦争に負け尋問室へと入れられた。
眼鏡をかけた女の敵兵が突然部屋に入ってきてこちらへ寄ってくる。
……40人近く人がいるこの部屋で最も危険人物である俺をこの短時間で見つける技術。
敵ながらあっぱれだ。
「出しなさい」
敵兵は、手を俺の方へ出しながら言ってくる。
……ばれていたか。
俺には一応、奥義がある。
だが、まぁ、まずはとぼけてみるか。
「何のことですか?」
「とぼけんじゃないわよ……!!」
※敵は今にも俺を殺しそうだ。
……これはもう、やっぱり奥義を使うしかないか?
いやもう無理だ。周りの味方も俺に諦めろという視線を向けてくる。
手を鞄の中に突っ込み密書を出す。
これは、通常だと総司令部の許可を示す判子が必要だ。
……しかし、この密書にはそれが押してない。
つまり、無効という意味だ。
そこで、奥義だ。
筆箱から消しゴムとカッターを出す。
さて、判子を作るとしようか。
判子を作れる喜びに、思わず口の端が吊り上る。
この作業には、技、知識、そして経験が必要だ。
柔らかい消しゴムを彫るとき、消しゴムが崩れないように彫る技。
文字の形や太さの知識。
どの消しゴムが最適か判断する経験。
この三つがそろって、ようやくプロを名乗れる。
しかし、この先も長い。
芸術性、文字の完成度。
極めるべきことはたくさんある。
考え事ををしていたらもう、判子はできていた。
持ち手の所は龍の形に彫られており威圧感がある。
判子の形もなめらかな丸い棒の形で、元が消しゴムだとは誰も思わないだろう。
もちろん、字も綺麗だ。
形も大きさも整っておりバランスが良い。
会心の出来だ。
その判子に赤ペンのインクを大量に付け密書に押す。
……完璧な偽造密書の出来上がりだ。
その密書を敵兵に渡すと、敵兵は穏やかな笑みを浮かべてこう言う。
「プリントを偽造するとは、あなたは何を考えているのですか?後で相談室に来なさい」
そう言って敵兵は去っていく。
処刑室に呼ばれるとは……俺も終わったな。
……覚悟を決めるとしようか。
先生におとなしく怒られる覚悟を。
やっちまった感しかない。