秘密く・だ・さ・い 其の2
彼女は人間社会で生活するため、自衛手段として男に変身していた。
更に魅惑の術で敵をつくることなく学生として平穏に過ごしてきた。
そうして順当にこの年齢まで成長してきたが、最近急激に成長速度が上がったのだ。
まずいことに成長速度にエネルギー供給が追いつかず、不足に陥ってきていた。
彼女は至急対策を取らなければならなくなった。
だけど彼女が取り込めるエネルギー源は二種類。
おもに食材としての植物と高等哺乳類。
それらから吸収する方法とは次の4つ。
1食物を摂取し、消化し得る。
2他の生物から間接的に吸い取る。
3他の生物から直接的に吸い取る。
4他の存在そのものをエネルギーに変えて摂取。命の搾取……つまり殺害してしまうことだった。
普段妖怪達は方法1及び2をもちいて生活をおくっているらしい。
なぜなら3、4は自分たちの存在が世間に知れ渡る可能性が高く、それにより生活を脅かしてしまうから。
しかし3に限っては妖怪に近い高等生物の協力により、問題なく施行していける。
その方法とは、ずばり、
「け、結婚ー!?」
「………………うん。」
結婚し、夫婦となって、双方同意の元、直接エネルギーの摂取を受けるらしい。
「僕と……御巫くんが……結婚?」
「………………うん。」
頬を赤く染めて頷く御巫くん。
「その為の……告白だった?」
「………………うん。」
更に顔を真っ赤にして恥ずかしそうに頷く姿がとんでもなく可愛らしい。
「帰り道に居たのは僕を待っていたから?」
「うん……電柱の上で待ち伏せしていたんだけど、ふらついちゃってバランスを崩して落ちちゃったんだ……」
なるほど、それでいきなり空から降ってきた訳だ。
しかし、参った、困った!
恋人を通り越していきなり夫婦なんて想像つかないよ!
「あのっ、やっぱり、そういう話しは両親を交えてしないと……ね?」
苦し紛れの言い逃れだとはわかっているけど、今すぐ決断なんかとてもじゃないけど出来そうに無い。
「ちょおおおっとまった!」
突然母さんの声が響いた。
「母さんはこの結婚話に全然意義は無いわよ!!」
「母さん!?」
母さんの声は聞こえるけど、姿は見えない。
てっきり廊下で盗み聞きしているもんだと思ったけど、違うらしい。
「どこにいるんだよっ!」
「とうっ!」
掛け声とともに屋根から雨どいをつかんで、換気用に開けていた窓より足からすべるように飛び込んできた。
「なっ!?」
あまりの現れ方にあいた口が閉まらない。
「円ちゃんの前でなんて顔してるの!
ま、そんなことより、二人とも結婚しちゃいなさい。これ、母さんの命令よん。」
「な、あんだよ急に現れて、結婚しろだなんて!何も知らないくせに!!」
「あら、知ってるわよ。だってさっきまで御巫家に行ってたし。」
「へ?」
「つ・ま・り!全部まるっとご存知なのよ!」
ほほほーなんて笑いながら、指をびしっと突きつけポーズ。
「御巫家の事情は知ってるし、母さんも円ちゃんなら嬉しいし。
だから結婚しちゃいなさい!」
御巫くんを抱きしめながら満面の笑みで強制命令を下す。
「だって、ほら、僕達まだ高校生なんだし!」
なんかやっぱり納得できない。
こころの準備とかあるでしょう!
「気にすること無いじゃない。婚約者ってことにすれば!
それに当分の間は男の子として生活するんだし、いっその事、ウチにホームステイしてもらえば、学校に一緒に行っても仲良くても誰も疑問に思わないじゃない?
対面も夫婦としても、エネルギー問題も完全解決じゃない!!」
「そ、そんな……」
文句の付け所の無いプランを提示されては口をつむぐしかない。
「なによあんた円ちゃんに文句でもあるっての?
円ちゃんの方は当然いいみたいなのに?」
急に自分に話題を振られた御巫くん母さんに促されて話し始めた。
「あの……だから……ボクと…………ボクと!
…………一緒になって欲しい……」
気弱そうな表情に不謹慎ながらも色っぽさを感じてしまった。
「けど、やっぱり駄目……だよね?」
彼女は瞳を潤ませながらも、いい返事を求めている。
なんだか夢の中でも同じような事があったような気がする。
かわいらしく一途な、そんな御巫くんを、どうやら自分は好きになってしまっていた。
男の子からの告白なら問題だけど、女の子なら問題はない。
ま、人間じゃなく妖怪だなんて、小さいことさ。
大事なのはこの人が好きなのかどうか、ただそれだけだよね。
「はぁぁぁ…………
ん、いいよ。」
長いため息をついて気持ちを切り替えた。
問題も解決しちゃったみたいだし、もう迷ったりしない。
「確かに人間じゃないし、男だって騙してた訳だし、急に結婚だとか言われて混乱してるだろうし……」
御巫くん、じゃない女の子なんだから御巫さんだった、はうつむきながら一人で話を続けていた為か、聞こえてなかったようだ。
「御巫さん、僕もいいよ。」
こんどは彼女の顔を正面から見据えてはっきりと言う。
「………………え?
えええ!?いいの?ボクは人間じゃないんだよ?」
目を丸くしてびっくりしている。
「そんなの関係ないさ」
「でも、ボクは人前では男を演じないと駄目だよ?
少なくとも高校を出るまでは今のまま……」
「今までどおりってことでしょ?徐々になれたほうが僕も楽かな。」
「でもでも、普通の恋人みたいなデートもできないんだよ?」
「むう、そりゃやっぱりデートはしたいけど、仕方が無いさ。
そのかわり学校卒業したらいっぱいしようね!」
「その……ボクは独占欲強いよ?」
「それは嬉しいかな。やっぱり好きな人にはずっと自分だけ見ていて欲しいよね。」
「……浮気したら殺しちゃうかも?」
「殺すって……浮気なんて絶対しないさ。
…………あのね、せっかく人が決心固めてるっていうのに、キミは僕に”ごめんなさい”を言わせたいわけなの?」
「本当に……君って人は……」
そう言ったとたんハートマークが見えるくらい御満悦の御巫さんが僕に抱きついてきた。
「ごめんなさいだなんて絶対駄目ー!
うれしい!すっごく嬉しいよ直衛くん!」
ぎゅっと強く抱きしてくる円くん。
柔らかく、暖かい御巫さんの幸せな感触を味わうも、
なんだかちょっと苦しいな…………
「ははは……ちょっと強く抱き付きすぎだよ。」
笑顔を忘れずやんわりと意見を申し出てみる。
「やった、やった!本当に直衛くんがOKしてくれたんだ!」
御巫さんには嬉しさのあまり僕の言葉は耳に入っていないらしい。
「本当に夢のようだよ!」
御巫さんは僕の胸に顔を埋めながらも締め付けはさらにエスカレートしてくる。
「く、苦しいってば、もう少し……力ぬいてほしいんだけど……」
ぎりぎりと音がしそうなくらい本気でやばくなりつつある。
御巫さんのベアハッグは万力のようだ。
「ほほほオメデトウー!やっぱり恋愛物語は相思相愛ハッピーエンドがいいわねー」
「た、助けて母さん……!」
母さんは朗らかに笑いながらぱちぱちと拍手をしていた。
そして話しかけたことによって空気を吐き出したとたん、御巫さんからの圧力によって肺は膨らむことを押さえ込まれてしまう。
つまりは息を吸うのも困難になってきていた。
「っ……くる……し……ぁ……」
死ぬ、このままでは死んじゃう!
なんとか御巫さんに意思を伝えようと背中をばんばん叩いてみる。
「あは。直衛くんもよろこんでくれるんだね。」
感無量の御巫さんにはこれすら喜びのスキンシップにしか受け取ってもらえないようだ。
「一生よろしくね、ボクの旦那様。」
普通に聞いたら飛び上がりそうなくらい嬉しい台詞だけど、
今は駄目だ……もう意識が朦朧としてきた。
なんだか、これとおんなじ様なことがつい最近あったような気がする。
けど、僕の目の前は真っ暗になり、どんどん気が遠くなっていった。
悪夢なら早く覚めてほしいと願いながら、僕は目を閉じた。




