背中ごしにセンチメンタル 其の1
「なんだそりゃあああああああああああああ!?」
自分でもビックリするような叫び声を上げて目を覚ます。
「はぁっはぁっ……あれ?僕の部屋……?」
頭が重い。息が苦く呼吸が荒い。
「はぁ、はぁ……夢……だった?
は、ははは……! そうだよね、どう考えても夢でしか有り得ないさ。」
御巫くんが、実は女の子で、お芝居して、お見合い破談で、母さん乱入で結婚確定ーって、どんな妄想さ!
そうさ、彼は男だ。
夢の中では納得しちゃってたみたいだけど、身体検査や体育のプールで彼とは一緒になってるじゃないか。
ゼッタイ女の子のワケないさっ!
「んああああああ!!」
気だるさとモヤモヤを吹き飛ばそうと大きく伸びをする。
きっと御巫くんに告白されたのがショックでトンデモナイ夢を見ちゃったんだろう。
「いや、待てよ……告白された事自体が夢だったってオチもあるじゃないか!」
かなり鮮明な夢の為、何処までが現実で、何処からが夢なのかはっきり線を引くことが出来ない。
多少の不安は残るものの、とりあえず忘れちゃおう。
「よし!起きるか!!」
時計を見ると朝の7時前。目覚ましがなるのは7時半。
いつもより早く起きてちゃったな。
僕は余裕を持ってパジャマから制服に着替えると、キッチンへ向かった。
すでに用意されていた朝御飯。テーブルに並べられたのは僕と母さんの二人分だ。
普段ならもう母さんは朝食を済ましているが、今日は早起きしたから一緒に取ることに。
「頂きます。」
「召し上がれ。」
鶏と卵の朝粥に細長い揚げパン、そして一口サイズの肉まん。
素晴らしい。非の打ち所のない中華朝御飯だね。
「なんか、こうして何の問題なく朝食を食べてると安心するよね。」
お粥を口に入れたあと油條にかじりつく。
「何を今更……何時に無く早起きしたと思ったら……変な事言う子ねぇ。」
「もふもふ、ごっくん……平穏な日常がとても大事だって事を学んだのさ。」
「ふーん……平穏じゃない日常を体験したかのように言うのねぇ。」
母さんはさも興味なさ気に相槌を打つ。
「ははは。ちょっとびっくりするような夢を見ちゃったのさ。」
「そういえば、やけに騒がしかったわね。」
「もう、はちゃめちゃな内容だったよ……」
夢の内容を思い出して急に背中がゾクリとした。
「ねえ、母さん、ひとつ聞いて……いいかな?」
「なに?」
聞いて後悔しそうだったけど、勢いで話してしまった。
「御巫っていう名前に覚えは無い?っていうか御巫家の誰かと知り合いとかじゃないよね?」
「あら、誰に聞いたのかしら?あそこの若夫婦は学生時代の後輩なのよ。」
その言葉を聴いた瞬間、目の前が真っ黒になった。
ブラックアウトっていうんだっけ?
なんか遠くで母さんが思い出話に花を咲かせているようだけど、そんなの聞いてる余裕が無い。
”学生時代の後輩”
その言葉に全神経が集約される。
あれは夢だったはず。
まさか現実だったのか?
頭の後ろのほうでループするように浮かんでは消える。
「こーら!」
スビシッっと母さんの脳天チョップが炸裂した。
「ふぐっ!?」
頭が胴体にめり込むかと思う程の衝撃が襲う。
「いた……い……」
「人に聞いておいて、人の話を聞かないなんて、不真面目ですよ。」
「ごめん……」
「でもまあ、懐かしい名前がとんでもない所からでてくるものねえ。」
「懐かしい?今も会ってるんじゃないの?」
「卒業してからしばらくは連絡のやり取りもしていたけど……
お互い忙しくてどんどん会う機会は減っていったから……
最後に会ったのは……そうねえ、二人の結婚式以来だから、もう16年くらい前かしら。」
おや?それがもし本当ならば、夢の出来事と一致しないぞ……
ということは予知っぽい事柄が混ざり合った夢だったということ?!
そうか、色々混乱してたから脳が妄想を働かせたんだ。
実の母であるが、神出鬼没で奇抜な母さんだからこその夢といえる。
なるほど、あくまでもあれは夢で、たまたま、現実の情報とリンクしてしまっただけなんだ。
「よかった……」
「なにがかしら?」
「実は、今朝見た夢なんだけど……」
僕はかいつまんで夢の内容を説明した。
「ふうん。それは興味深いわねえ。
たしかに円ちゃんだったらくっつけちゃうのも面白いかもね。」
にやにやと不敵な笑みを浮かべるマイマザー。
「御巫くんを夢で女の子にしちゃうなんて変すぎさ。」
「そーお?わからないわよ?だって円ちゃんかわいいもの。
男の子が好きになっちゃってもいいんじゃない?もったいないわよ。」
「もったいないって言っても、性別なんて変えられないじゃないか。
それこそ変身でもしなきゃ。」
「んーニューハーフになったらお店のNO.1間違いなしよね。」
「ひ、ひとの友達で遊ばないでよ!!」
「ほほほ。つい悪ノリしちゃったわね。
でももし、本当に円ちゃんが女の子だったら……好きになっちゃってた?」
凄く悪そうな微笑を僕に向ける。
この表情をした母さんのそばにいるのは危険だ。
自分が満足するまで玩具にされるだけさ!
「そんなのわかんないさ!ごちそうさま!!」
手早く食事を済ませて、さっさと自室に戻ることにした。
「まったく、いくら主婦が平々凡々な生活で刺激に植えてるからって、
男の子である御巫くんを女の子だったらとかふざけ過ぎだよ、失礼だよ。」
ぶつぶつ不満を漏らしながら、本日の時間割を確かめカバンに教科書などを入れてゆく。
今日は体育も無いし、普段から接触を持っていたわけではない彼とは気をつければ、
まず顔を合わすことは無いさ。
僕はいつもより少し早めに登校することにした。




