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TOMORROW BLUES 其の2

 昼休みに入ると御巫くんから呼び出しを受けた。

「あの、九鬼くん……」

 クラスメイトの東風さんが、よそよそしく話し掛けてきた。

「どうしたのさ?」

「えっと、御巫くんが……呼んでるんだけど……」

 その名前に戦慄を覚え、教室の入り口をそっと目線だけを移して見る。

 居るよ!周りを女子に囲まれながらも、こっちを見てるよ!!

 ニヒルっていうか熱い眼差しをしている。

 周りの女の子達は自分達に向けられていると有頂天になっている。

 けど、あれは多分その先、つまる所の僕を見ているのだろう……

 ざわざわと体中に生暖かくて柔らかいものが這いずり回る感覚に襲われる。

 行かなきゃ駄目なんだろうなあ……

 こんなところで変な事を言われたら、とんでもなく誤解されちゃうしなあ……

「あ、あの……」

 僕があれこれ思案していて返事も無かったので東風さんが動揺していた。

 クラスの女子連中が東風さんに事情を問い詰めろっていう視線を注いでいるのが感じられた。

 東風さんは特に自分の意見をハキハキいうような性格はしていなかったと思う。

 2年から同じクラスになってから3ヶ月ほどだけど、目立たず、騒がず、大人しい子だった。

 たぶん呼び出しする時にも他の女子にどういうことか聞いてこいと念を押されていたのかもしれない。

 まったく、自分達で直接聞きに来いっていうの。

「一体何の用事だろうね?伝えに来てくれてありがとう、東風さん。」

 自分は用事が無いというニュアンスを含んで答えると彼女は友達の集団へと戻っていった。

 彼女には悪いことをした。

 彼女が御巫くんのファンであれ、なかれ、迷惑をかけたことは確かだ。

 僕が此処を脱出した後、残された彼女は尋問を受け続けるに違いない。

 心苦しいけどこの状況から脱出する方法は単純明快。

 速やかに現地点より撤退するだけさ。

 重い腰を挙げて、重い足取りで教室入り口へしぶしぶ向かう。

 クラスの連中がひそひそと何か噂しているのを後ろに教室を出る。

「お待たせ。」

「別に問題ないよ。それじゃ皆、ボク達は用事があるからこれで失礼するね。」

 軽く言葉を交わし、場所を変えるような意図を汲み取ったので、そのまま無言で付いていくことにした。

 取り巻き達は彼の言葉に従い、そこから誰もついてこなかった。

 だけど僕に突き刺さる視線の数は減ることは無かった。

 彼はどうやら朝逃げたお陰で、忘れた弁当をわざわざ届けてくれたのだった。

 一緒に食べようと言われ、弁当を届けてくれた手前、断りきれもせず仕方なく一緒することに。

 しかし妙に恥ずかしいので、屋上で食べる事にした。

 コンクリートの撃ちっぱなしでベンチもない、眺めも大して面白くない屋上は不人気スポットだった。

 何より基本的に学校側から立ち入りを禁止されている場所でもある。

 まあ、ほとんど守られてないんだけどさ。

 相次ぐ侵入者に、注意することがあまりに無駄だとわかり、黙認しているとか。いいかげんだね。

 広い屋上にはまばらに人が見えたけど、その距離感からお互いあまり近くにはいたくない、身内だけの空間を作ろうとしているのが解る。

 それに習って僕達も周りから一番離れられる場所へ移動した。

 入り口の裏側の位置で、鉄柵を背に腰をおろす。

 御巫くんは僕の左隣に座る。

 お互い無言で弁当を食べ始めた。

 僕は色々と問いただしたい事がありすぎて、どれから切り出したら良いか、迷うゆえに無言。

 御巫くんはニコニコと僕を見つめながら、お弁当をつついている。

「あのさ……」

 僕はまず、一番疑問だった事を口にしようとしている。

 昨日の告白劇、今朝の出来事。

「なぜ、僕なのさ?」

 もし告白が本気なら、女子にするべきだし、この手のいらずらだって、もっと色男にやった方が効果的なはずだ。

 そう、この学校に色男は他に一杯いる。

 少なくとも僕よりカッコイイ男子生徒が売るほどいる。

 それに運動、成績、どちらも普通の僕を、ターゲットにする理由が思いつかない。

「理由が無きゃ、人を好きになっちゃ駄目?」

 御巫くんは少しうつむき加減で上目遣いをしてくる。

 ぬあっ!や、ヤヴァイよ!ヤヴァスギルヨ!!

 その可愛らしさと言ったら、簡単に禁忌を打ち破りたくなる衝動が沸いてくる程さ!

「駄目ってことは無いけどっ!だけど、僕は男だし。御巫くんも男だし……」

「じゃあ、ボクが女の子だったら……いいの?」

「それは、男と女だったら問題はないわけで……ええっ!?」

 な、何をいいだすんだ御巫くんは?

「ま、まさか、そんな……」

「…………ボクは男の子だよ?」

「へっ?」

「女の子なわけないでしょ。」

 僕の狼狽振りにくすくすと肩を小さく揺らして笑う。

「そ、そうだよね、男の子だよね、よかった、ははは……ってよくないっ!!!全然問題解決してないじゃないかっ!!」

「ちぇっ……もう少しで誤魔化せそうだったのに……」

「心底残念がらない!!」

 少しでもドキドキしてた自分が恥ずかしいやら情けないやら……

 でも、もし、もしも御巫くんが女の子だったら……

 こんな可愛い女の子に告白なんてされてたら……

 かあぁぁぁぁぁ!だ、駄目だどんどん顔が熱くなっていく。

「どうかした?顔が真っ赤だよ?」

「な、なんでもないっ!」

 僕は誤魔化すようにお弁当をかき込んだ。

「むぐっ!?」

 慌てていたから、案の定喉に詰らせてしまった、

「だ、大丈夫?!」

 すぐに御巫くんが背中を擦ってくれる。

「んぐっ、くはっ、はぁっはぁっありがとう……」

 肩で息をする僕の傍らには身体を必要以上に密着させてくる御巫くんがいた。

 気がつかなかっただけで、背を擦られている時からこれだったようだ。

 うう、なんとも言えないやわらかな感触が左腕に……

「って、なんで男の子なのにこんなに柔らかい身体してんのさっ!!」

「くすくす、そういう君だって、こんなにふにふにですべすべしてるじゃないか。人の事言えないし、女子が羨ましがるほどの珠の肌だよ。本当気持ち良い」

「頬擦りしないでっ!!」

 僕はその場から飛び退いた。

「あっ……もうちょっと……」

「駄目っ!絶対駄目!!」

 御巫くんはクスンなんて言いながら落ち込んでいる。

 落ち込みたいのはこっちのほうだった。

「とにかく、ごめんなさい。」

 なんとかお弁当を食べ終わった僕は、御巫くんに向かって頭をさげた。

「え……?」

 突然の事で戸惑う御巫くん。

「昨日の告白の返事。冗談にしろ、本気にしろ、君からの告白は受けれないから……君の好意には応えれないから、ごめんなさい。」

「そ、そんな……本当に?」

「うん……やっぱり男同士でこう言うのは普通じゃないと思う。

 別に御巫くんが嫌いな訳じゃないし、好きだって言ってくれた事は純粋に嬉しかったさ。

 それでも、僕が御巫くんに抱く感情は友人としての好きであって、恋愛感情としての好きにはならないよ。」

 僕は本当に申し訳無いと思っている。

 相手が例え男の子であろうと、人から好きになってもらえるのは幸せな事だもの。

「良かった……思った通り貴方が誠実な人で。」

「へ?」

 良かった?何が良かったって?

 告白を断られるのが良かったって事?


「お願い、無理を承知で貴方に聞いてほしい事があるの!」

 困惑する僕に真摯な眼差しで詰め寄って来る御巫くん。

「な、なに?」

 何故かこの先を聞かないほうが良いような気がする。

「……驚かないでほしいんだけど、実はボクは女なんだ。」

「……やっぱり?」

「おどろかないの?」

「女と言われる方が納得できるもん。」

 今更言われてもねえ、逆に男だっていうほうが無理があったさ。

「それでも告白を断ってくれたね?どうして?」

「だって、君はあの時、男だって自分で言ってたじゃないか。」

 お弁当を食べ始めたころを思い出す。

「本当は疑ってたけど、ボクの言葉を……信じてくれたんだね。」

「まあね。じゃあの時、今の台詞を言おうと一瞬悩んだんだ?」

「うん。貴方に真実を話すべきかどうか、最後で悩んじゃったから……

 でも、貴方ならきっと大丈夫。今から話す事は学校のみんなには内緒ね?」

「……わかったさ。」

 僕が頷くのを見て御巫くんは話しを切り出した。

「実はボクは御巫家っていうちょっとした古い旧家の跡取なんだけど、そう言う家督とか後継者とかが嫌で、実家から高校に入学するときを見計らって逃げ出したんだ。」

「だから男の子の格好なんだ?」

「うん。もともと男が生まれたらっていいって言われて、家では小学生まで男の子として教育されてきたし、性別を隠して生活するなんて、すごくワクワクしたの。」

 ははは……好奇心旺盛な年頃だものね……

「でも、自由になれたと思っていたけど、結局親の目の届く範囲で自由を与えられていただけだったの。正に放し飼いにされていたようなものよ。」

「それで……僕に告白と何の関連が?」

「ボクは今、親の決められた相手とお見合いをさせられそうなんだよ。」

「お見合い~?」

 高校生でお見合いって何時の時代錯誤なんだ……

 いや、僕が知らないだけで、そう言う古い家の人達は今もそういう方法をとっているのかもしれないな。

 今の人には軽薄に感じられる血筋や家系だけど、昔から代々守り続けてきたものってあるし……

 それを大事にしている人たちが悪いって一概に言えることじゃないよね。

「……もちろん嫌だって言ったけど、確たる理由も無いからって全然取合ってくれなくて……」

パターンだとこう言う時って、”私には好きな人がいます”ってタンカを切るんだよね。

「”ボクにはもう好きな人がいるんだっ!”て言っちゃった……」

エヘッっと舌をだして可愛く笑う。

「はぁ……ベタだ、ベタな展開だよ。それで、もしかして僕に告白したのって……」

「うん。そう言う事なの。」

 そーいうことねぇ……つまりは間に合わせの彼氏が必要だった訳ね。

「でも、ただお見合いから逃げる為だけに貴方に告白したんじゃない。

 それだけは、その気持ちだけは本物だったんだから。」

「ええ?!」

 それはつまり、”女の子”である御巫くんが僕を好きだって事!?

 御巫くんを見ると頬を染めて恥ずかしそうにしていた。

 か、可愛い……男だといわれていたときもそう思ったけど、女だといわれると尚更抵抗無く可愛いと思えるので、余計性質が悪い。

「そ、それは、嬉しい……な。」

 甘くくすぐったい変な空気が辺りを包んでいた。


 放課後、誰もいなくなった紅色に染まる教室。

 そこで僕は御巫くん……いや御巫さんを待っている。

 結局お昼休みを費やして、今置かれている状況と今後の作戦の粗筋を聞いた。

 御巫さんは政略結婚の布石ともとれるお見合いをさせられそうになっている。

 僕は御巫さんの恋人に成りすまし、実家のご両親を説得する為のカードになる。

 御巫さんの話だと、筋を通せばちゃんと判ってくれる人達だという。

 それならばと、僕に何処まで出きるか判らないけど、協力を申し出た。

 というより、今や御巫さんは女の子なので、嘘でもなく、本当の恋人になれる。

 昼休みに彼女が言った台詞が思い出される。

 ”気持ちだけは本物”

(うわーうわー!あんな美少年いや、美少女に真正面から告白されちゃったよ!!)

 学校で1、2と言われる人物と僕みたいなのがカップル成立!

 これが嬉しくないわけが無いじゃないか。

(…………僕みたいな?)

 む……まてよ、まだ判らないさ。

 実はコレも騙しの途中なのかも。一度ネタばれして安心したところに更に追い討ち……

(っきゃああああああああ!?)

 恐い、恐い想像をしちゃったよ、数日後に学級新聞に

 同性愛発覚

 なんて見出しで、写真が載ってたりしてたら、もうタヒチに逃げるしかないよぉ……

 そう言うや机に突っ伏した。

 赤い教室で昨日の告白シーンが脳裏に蘇ってきた。

 触れ合うくらいの距離で、一瞬たりとも逸らす事無くまっすぐな眼差しで僕だけを見つめていた。

(あれは嘘ついてるようには見えないよね……すごく真剣だった。

こうやって疑って探って、気を取られて失敗したら、御巫さんは良く知りもしない人と無理やり結婚させられちゃうんだよね……)

 身を起して覚悟を決めた。

「何を愚駄愚駄考えてるんだ、協力するって決めたんだろ!」

 そう、決めたのは自分、断る道だってあったけど選ばなかった。

 それなら後の事を考えても仕方が無い。

 もし冗談だったとしても僕が笑い者になるだけで良いんだし。

 本当ならば彼女が嫌がっている政略結婚を阻止できるんだ。

 それが例え偽りの恋人でも、彼女とこうしていられる事は普通の僕にとっては喜ぶべき出来事だ。

「お待たせ。」

 御巫さんが教室へとやってきた。

 昨日と同じ教室で昨日と同じ赤い世界で二人の影だけが存在している。

 そう、何も難しく考える事なんて無いさ……この状況を楽しく、前だけを向いて。

「御巫さん、今から僕たちは恋人だからね。」

「……はい!」

さあ、ここから始めるとしましょうか、取り返しのきかない一発勝負、一世一代の大芝居を!

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