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オチコボレ。










己にとって他人の価値は何か?

その質問にこの世界の人々はどう答えるだろうか?


無論様々な答えがあるだろう。

人によって答えは異なるもの、それは当たり前だ。

だが、数ある答えの中の一つを僕は知っている。


己にとっての他人の価値とは何か?


僕に答えを教えてくれた人たちならこう言うだろう。


己にとって利益をもたらすかそうでないか…だと。











いつのころからだろう。

僕の住む街はどんどん変わっていきだした。

答えはもちろん分かっている。


『エデン』により持ち込まれた魔法によって街どころか世界までも変えてしまったのだから。


そしてそんな中でも一番変わった所といえば、

今僕の視界に入る不快で大きな施設だと言える。


その施設の名は至ってシンプル。

『界立魔法学園』

呼んで字の如く、世界が立てた学園…だそうだ。

ちなみに世界で始めての二世界共通の魔法教育を主要とした学園でもある。

てなわけでこの学園には向こう…つまりエデンの住人たちも生徒としてきている。

さらに補足すると地球上でエデンの住人達が通っているのはこの学園を含めて五つしかない。

つまりはとても名誉ある学園なのだ。


だがしかし、そもそも小さな島国である日本になぜそんな名誉ある学園を建設したのか?

答えは簡単だ。

エデンの住人が初めてコンタクトをとったのだ日本人であるからだ。

それだけの理由で日本は魔法先進国の名を掴みとったりしている。

まさに棚から牡丹餅状態だろう。


そしてそして、長々説明して分かっている人も多いだろうが

この僕、柊奏とその雌犬である相楽由梨はありがたいことに

そこに通わせて貰っている生徒なのだ。




「ほんと…反吐が出るくらいに嬉しい話だよ」


「何か言った?奏ちゃん」


「うるさい。お前は許可なくしゃべるな」


(シュン)


落ち込んだみたいだが気にしない。

僕の躾は基本ムチオンリーなのだ。

いい加減そんな僕に愛想をつかして逃げ出してくれないかと思ってはいるものの、

いかんせんこの雌犬は僕から離れようとしない。

本当に腹の立つペットである。


そうこう言っていると名誉ある学園の名誉ある校門が見えてきた。

登校時間は一番人が重なる時間帯を避けてはいるものの、それなりの人が

学園へと足を運んでいた。


校門に立つ一人に挨拶をしながら。


「…………」


長い黒髪に、小柄で整った小さな顔、第三者として意見するならば

僕も素直にコイツのことを美少女と認める。


この学園に通う者なら知らない者はいないだろう人物。

世界中でなくエデンの住人にさえ一目おかれている存在。

天から才能を与えられた選ばれた人間。

魔力に愛されている存在。

一年ながらにして生徒会長…立花莉利たちばなりり


「おはよう、りっちゃん!」


「おはようございます。由梨先輩」


仲良さげに挨拶する二人。

非常に遺憾ではあるが、この雌犬と生徒会長は仲がいい。

プライベートでも付き合いがあるぐらいだ。


まぁだからと言って…


「貴方は挨拶はなしか?柊奏」


「先輩をつけろよ後輩」


僕とコイツが仲がいいというわけじゃあない。

というか仲は悪い。

ほら、今も忌々しそうに僕を睨んできている。


「私はこの学園に通う先輩たちを皆尊敬している。

それは魔法力を伸ばそうと必死で頑張っていることが分かるからだ。

だが貴方は違う。貴方からは向上心というものが感じられない。

そんな貴方を尊敬することなんて出来ない。

故に先輩と敬うこともしない。ただそれだけだ」


嫌いな奴ほど良く見ると言うけれどその通りだね。良く見てる。


「くくっ」


自然と笑みが零れる。

それを挑発と受け取ったのか生徒会長様は顔をしかめた。


「貴方という人は―」


「すとーっぷ!ストップ!け、喧嘩はよくないよぉ二人共っ」


「由梨先輩………くっ、すいません生徒会長として相応しくない行動でした」


「……行くぞ」


「あ、うん。じゃあねりっちゃん!」


興がそれたので生徒会長の横を通り抜け学園へと入る。

それを慌てて追っかけてくる雌犬。

何だかムカついたので横にならんだ雌犬の頭を軽く殴った。


…だから何故嬉しそうな顔をする?

そんな僕の背中に生徒会長の声が届く。


「……貴方はこの学園に相応しくない」


まったくの同意だよ。

と心の中でだけ呟いた。









教室の中でいるのが家で居る時の次に落ち着く時間だと僕は思う。

鬱陶しい雌犬は登校する時は着いてくるのを許してはいるが、学園の中で僕に話しかけることは愚か、近づくことも禁止している。

といってもあの駄犬は廊下ですれ違った時なんかは普通に話しかけてくるが…

お仕置きされることを分かっていてやっているのが余計に腹が立つ。


まぁ雌犬の話しを置いておくとして、教室に入り僕は自分の席を目指す。

クラスの奴らは僕に一瞥をくれるもそのまま視線を戻し何もなかったように活動を再開する。

このクラスでの僕の扱いは…

空気。いてもいなくても変わらない存在。どうでもいい人間。嘲笑うべき人間。

自分より下の人間。クズ。

こんなもんだろう。


僕はそんなこと気にしないので僕を無視してくれるコイツらには感謝している。

名前や顔を覚えている奴なんかいないが。

基本僕は一人でいる時間が好きなのだ。


だがそれが落ち着くことと関係しているかといえばそうでもない。

僕が教室にいて落ち着く理由。それは…


「おはようござい、奏。ます」


「おはよう、ナール」


コイツの存在だろう。


背は男にしたらかなり小さく150センチ弱しかなく、

前髪が目が隠れるくらい長く、良く言えば痩せていて、悪くいえばナヨナヨした体格、

一番目立つところといえば地球上ではありえない青色の髪をした男。


ナール・メディロッド。


僕の唯一人の友人の存在のお陰といえるだろう。


「き、聞いた?…ですか?これから集会が、があるんだって、そうです」


「集会?なんでまた?」


「わからない、ません。しかし、でも。本日、Sクラスにくるそうだ。転校生が、です。

それとあるかも、関係、しれません」


「Sクラスに転校生ねぇ……もしかして『エデン』から大物でもくるのかもね」


「そうかも、しれない、ません」


ナールの話し方は独特だ。

独特すぎると言ってもいい。

文法になっていない言葉。

これには訳があるんだけど…。

まぁ隠すことでもないか。


「でも僕らには関係ない話しだね」


「うん、だね」


「出来損ないの僕らには―」




界立魔法学園に入学する最低条件として、魔法ランクD以上というものがある。

ちなみにランクは低い順からG、F、E、D、C、B、A、Sとある。

つまりDランクといえば中間の少し下という位置づけだ。


この学園の学年ごとのクラスは五つ。

D、C、B、A、Sの五つ。

もう分かったと思うけどランクによって分けられている。

僕がいるクラスはDクラス。

最下層のクラスってわけだ。

そして僕とナールは嬉しいことにこのクラスのワースト1とワースト2という称号を頂いている。

つまり本当の最下層というわけだ。

しかも一時的なことじゃなく入学当初からずっと続いている。

当然、舐められる訳だ。


ナールに至っては扱いは僕より酷いかもしれない。

彼は見た目通り地球人ではない。『エデン』の住人だ。


『エデン』の住人は基本ランクで言えばB、A、Sランクの者しかいない。

だがやはり何処にでも例外は存在する。

つまりはナールのそうな存在だ。


ナールは一般の人より少し知能が遅れている。

言ってしまえば知的障害者だ。ナールが上手く話せないのはこのためだ。

それが影響したのか魔力も低く、Dランクどまりでいる。


だからこそ『エデン』の住人はナールをこの学園に追いやったのだから…。






一般の学校に比べるとその3倍はある講堂内。

そこに全校生徒が集まっていた。


ナールの言った通り、朝から全校集会だ。


壇上には渋い顔をしたおっさんが立っている。

この学園の理事長だ


『静粛に!これより理事長がお話を始める!

生徒一同はさっさと静かにしろ!』


マイクから流れる声。

確かこの声は副会長…だったかな。

名前は知らないが顔だけは知っている。

かなりいけ好かない奴だったと記憶していたっけ。


そうこうしている内に理事長による話が始まった。


『生徒諸君おはよう。理事長のローベルトだ。

今日集まってもらったのには訳がある。

ある人物をみなさんに紹介するためだ』


少しまた騒がしくなる。

どうやらナールの言った通り誰かがこの学園に転校…まぁ『エデン』の住人なら留学や編入か…してくるみたいだな。


でもここは二世界共通の魔法学園。

『エデン』の生徒も数多くいる。

今更『エデン』の住人の一人や二人来たところでこの騒ぎにはならないだろう。


だとしたら相当に大物ってことかな。


『創設以来、我が学園は世界初の魔法学園として二世界に恥じないように魔法という力を高めてきた。

そして、その努力は『エデン』にも認められていると言っていいだろう。

その証拠に、『エデン』は我が学園に彼女を編入生として受け入れて欲しいと言ってきた。

そう、『エデン』の姫君ユーリィ姫を!』


パッと証明が一人の人間を照らす。

その姿に講堂中の人間が息を飲んだのが分かった。

この学園の制服に身を包んでいるものの、それが誰か直ぐに理解したんだ。


もちろん僕もその姿を知っていた。

あれだけ想った人の一人なんだ、間違える筈がない。


紹介の通り、『エデン』の姫君。


ユーリィ・ラーハスト・エデン。

その人だった。








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