No.09:『画数』
テーマ:[表現]
描き込みがエグい!とか言うよね。
今僕は、画数の多い世界に暮らしている。
カーテンは滑らかに揺れ、壁には凹凸があり、神秘的な動物が沢山いる。
とても丁寧な世界ということだ。
でも僕は、流石に画数が多すぎるんじゃないかと思ってしまう。
この作り込みを、もっと別のところに回せたはずだと思う。
なぜなら、いくら抽象化したからといって、感覚がなくなるわけではない。
我々に伝わるものが、少なくなることはない。
もちろん、別のところで補ってやらないといけないが、それでも新たな要素をこの世界に足すことができる。
足すのに、カロリーが少なくて済む。
だから僕は、もったいない画数を減らすことに決めた。
僕はカーテンの揺れの画数を減らした。
風に靡かなくなって、触れるとカクカクと動く。
挙動不審なわけじゃないが、新鮮な動きだ。
動きの画数を減らした分、情報量を増やそう。
僕はカーテンの画数を減らした分、僕の妹を作った。
ずっと妹が欲しかったからだ。
「オニイチャ〜」
まだ、画数が足りなかったか。
僕は、生き物の外見的特徴の画数を減らした。
同じ種ならば、雌雄以外の違いはない。
「かみのけ、カワイイ?」
妹は女の子なので、僕とは区別がつく。
当然可愛い。
僕はモノの表面の画数を減らした。
どれもこれも、摩擦のないスベスベ肌だ。
「お兄ちゃん!肩車して!」
妹の画数がだんだんと上がってきた。
肩車だけと言わず、抱っこにおんぶにハグにキスもしてやろう。
僕は満足して、妹と眠りについた。
翌朝目が覚めると、視界がおかしな感じだった。
カーテンの動きの画数とともに、僕たちの動きの画数も減らしたせいだ。
そのままコマ飛びでリビングへ向かって、ダイニングテーブルの席についた。
朝食のサンドイッチが、積み上げられた本のようだった。
外へ出ると、隣の家の爺さんが僕の顔だった。
ああ、日本人の男の顔は、もう1パターンしかないのか。
外見的特徴とは、案外大部分を占めていた画数なのかもしれない。
僕は画数を減らしすぎた。
世界は、急につまらなくなった。
【あとがき】
どの分野にも言えると思います、画数の過不足って。
面白かったら、絵文字を押していただけるとありがたいです。
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