さよなら文芸部
古びた校舎の片隅にある、静謐な文芸部の部屋。ここは、僕のための空間だった。
放課後、僕は一冊の文庫本を持ち、決まってこの場所に来ていた。二階の廊下を真っ直ぐ進んだ先にある扉を開ければ、一つの木製チェアと、宿題をするにはちょっと物足りない高さの机が見えてくる。そして、陽の光を受け姿を現す埃っぽい空気があった。
僕は部屋に入って、はじめに窓を開ける。すると、上空から金管楽器の旋律が聴こえてくる。ここで眠るように目を瞑ってみれば、今度は風を感じる。あまり好きではないこの学校も、この瞬間だけは居心地が良かった。
満足すると僕は椅子に腰をかけて、足を組んだ。そして腕を伸ばして、机に置いた本を取る。そうして栞を取り出したところで、
バサッバサッ
と、カーテンが靡く音が聞こえてくる。いつもそうだった。いつも僕はここで、本が焼けちゃうよ、なんて思ったりする。僕はいそいそと組んだ足を戻して、揺れるカーテンを捕まえた。
ここで書いた僕の作品は、ナンバリングしてここに残しておくことにする。僕の初期衝動から生まれた君たちと、別れたほうがいいと思うからだ。それは読み返してみれば分かる。僕みたいなキャラクターが語る、僕らしくない思想。今の僕では、もはや解釈が難しい。では、残しておくのはなぜか。伝わるのを待っているからだ。
5月15日、僕は再び文芸部の窓を開けた。空は黒一色。目の悪い僕には、月がぼやけて見えていた。それでも、あれは月だとはっきり分かる。
僕は窓のレールに足をかけて下を覗いた。底の景色に怯みそうになるが、それでも僕には、見たい景色があった。窓枠を腕で引いて、部屋を飛び出す。そのまま落下するみたいに、僕はこの場所を去った。




