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分割恋心

私は私のことを好いてくれる人が好きだ。見返りがありそうな相手が、愛の対象だ。私には好きな人がいる。今現在、九人の好きな人が。


でも、私はこの愛し方は間違っていると分かっている。お互いに尽くす形には、敵わないことを知っている。けれど、止められない。ずっと愛して欲しいから。


そんな歪な私にも、友達がいる。同じクラスの美咲ちゃん。彼女は中学生の頃から仲良しで、飽きるほど登下校を共にした仲だ。けれど、彼女は歪な私をまだ知らない。頭ごなしに否定されることを恐れて、コソコソと隠し続けていた。美咲ちゃんと離れたくなかったからだ。


けれど、いつまでも怖がってばかりでもいけないと思っている。ここで一つ、意見を聞きたいと考えていた。改めて、この愛し方と向き合いたいのだ。それに、どんどんと先延ばしにしていく私に、嫌気がさしてきたのだ。そんな気持ちたちを振り子のように行ったり来たりしながら、私は話すタイミングを伺い続けていた。


そして、その日は突然来た。


「綾香はさぁ、好きな人いる?」


美咲ちゃんの方からふわりと切り出されるそのセリフは、ものの数秒で私の心臓につかみにかかった。ギリギリのところで、言葉にできない。好きな人が沢山いるなんて、変だよね。なんて、頭の中で余計な言葉を吐き捨てる美咲ちゃんの声が聞こえた気がした。言える訳がなかった。


「えっ、っと…ヤ、野球部の藤原君!」


咄嗟に、最近好きになった、あの人の名前が出た。恥ずかしがるような、発表するかのような、そんな弾む調子の返事だった。


「ええっ!?私も…そうなんだけど…」


しくじった、と思った。禁句の一つを言ったことを瞬時に察して、私は彼女の目を見られなかった。


「やっぱりカッコいいよね、藤原くん!」


予想もしなかった二言目に、私は思わず顔を上げる。


「う、うん!髪型とか、カッコいいよね…」


動揺を隠せない私の声にも、彼女は優しく頷いてくれる。美咲ちゃんは、なんで素敵な人なんだろう。見返りを奪い合う人同士で、仲良くできるなんて。


その後は、家に着くギリギリまで、藤原くんの話をした。いつ好きになったか、なぜ好きになったか。いくら話しても足りない様子の美咲ちゃんは、今まで見た事のない笑顔を見せていた。私もそれに当てられて笑顔になる。そして私は、美咲ちゃんと私との間に些細な溝がある事に、気づいていないフリをし続けた。


そんなことがあった翌日も、変わらず私は美咲ちゃんと登校した。てっきり恋バナを続けるのかと思ったが、昨日のことなんて忘れてしまったかのように、家で見たドラマの話をしてくれた。その話に、私は内心救われている。これ以上藤原くんの話を、彼女の口から聞きたくない。


学校に着いて、授業を受ける。あっという間に放課後になったが、まだ私は帰らない。今日は体育館で軽音部のライブがあるのだ。もちろん、私の好きな人も出演する。なので今日は事前に美咲ちゃんに下校できない旨を伝えていた。快く承諾してくれたあの時の顔を思い返すと、彼女の優しさを改めて感じてしまう。


私は他のバンドには目もくれず、ただ彼のバンドを待っていた。餌を待つ忠犬のように、姿勢を崩さずステージを見ていた。しばらくすると、アナウンスが聞こえてくる。


「さあ!次のバンドは…『ブルーハワイ』!」


来た。入場と共に、歓声が上がる。流石校内一人気のバンドだ。そして、「ブルーハワイ」のリーダーである彼が、私の好きな人だ。


「こんにちは!ブルーハワイのリーダー、高木です!ギターボーカルやらせてもらってます!お願いします!!」


間髪入れず、演奏が始まる。そして、呆れるほど彼はカッコよかった。私の瞳は、反射的に首筋から指先まで追いかけていた。いつから彼を好きになったかなんて覚えていない。けれど、こうやって時折彼のライブを見ると、嫌というほどに恋をしていると分からされるのだ。


演奏が終わると、私はこの想いを伝えに行った。けれど、すでに彼の周りには、俳優を囲む記者のような人だかりができていた。きっと輪の中心の彼と、話すことは難しいだろう。私はゆっくりと体育館の出口へと向かった。


次の日、唐突に不思議なことが起こった。登校の待ち合わせ場所に、美咲ちゃんがいないのだ。体調を崩したのかと連絡してみたが、返事はない。少し不安だったが、その日はあまり気にせず学校へ向かった。


だが、来る日も来る日も、彼女はあの場に現れる気配はない。まるで小春日和に溶けた雪のようで、私は寂しかった。


私は天を仰いだ。とにかく自分を責めた。「私が彼女に何かしたのなら謝ります、美咲ちゃんを返してください、お願いします」。天に告げたその言葉に、返事はなかった。


そう思われたが、ある日の登校中、遠目に見える彼女の鞄を見つけた。


「美咲ちゃん!!」


喉元まで来ていたその言葉は、発せられる直前に失速していく。彼女が、男の子と一緒に歩いていたからだ。そして、私はその人のことをよく知っている。背がすごく高くて、髪が綺麗で、野球部の鞄を背負っている人…。


「…藤原くん?」


思わず口からこぼれた。美咲ちゃんと二人で登校している。憎らしいほど、仲睦まじい姿が写っていた。その瞬間、私の脳裏にあの日の会話が浮かんだ。なぜ、彼女は恋バナを切り出したのか。なぜ、それっきり話さなくなったのか。考えたくないのに考えついたその答えはあまりに残酷で、目の前に広がる光景は、ひどく順当だった。私は、悲しんではいけない。自らこの愛し方を選んだのだから。


私は亡霊のように彼女らの後を追いながら学校へ向かっていく。二人のことは、嫌いになんてなれない。けれど、知らぬ間に縮まっていた二人の距離に、私は追いつけもしない。絶対に敵わない。どうして私はこんな愛し方をするようになったんだろうか。どうして美咲ちゃんは、一人の男性にだけ愛を向けられるの?


学校のクラスに着いて、自席に腰を重く据える。とにかく寂しかった。心の温もりが冷めたようだった。美咲ちゃんは、結局私の前からいなくなってしまったのだ。でも、それでも私は二人のことが好きだ。きっともう私に何かを与えてくれることはないだろう。でも、拭えない過去の思い出を、今は残していこう。そう私は決心したのだった。


しかし、やっぱり寂しいものは寂しい。心の傷はなかなか癒えていかない。こんな時は、いつもどうしていたっけ…


そうだ!


最近見つけた、十人目に好きになった人の元へ行こう。何か話せば、気が紛れるはずだ。


私は席を立って、その人の元へ向かった。美咲ちゃんと藤原くん、二人を型取った心の隙間を埋める為に。

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