01右左市攻略作戦-03
「おいおっさん、寝てる場合じゃねぇよ!ありゃヤバいぜ、前見ろ!」
黒人ハーフ・ルイの絶叫を受け、辰はダラダラ流れる鼻血を床に落ちていたウエスで
拭きながら前を見た。我が目を疑った。
「はは、マジか、昔見た時代劇にあんな討ち入りシーンあったなぁ。ほら門をバーンて」
「馬鹿かお前、何言ってんだよ!」
辰が呆然としながらつぶやき見つめるそのモニターには、複数の阿熊が鋭くとがった巨大な支柱を数人で抱えこちらに向かい全力で疾走してきている。ガンバスを横転させる気なのだ。
その最前列は盾を持った阿熊がガードしており、その連携は完璧であった。
ズンズンズンと、なんともリズミカルに迫ってきているその刹那。
「おっさん、左舷リアフェンダー!」ミサが叫ぶ。
二頭の阿熊が車体にしがみ付き、左手の鉈でガシガシと殴っている。
「サイドリングバルカン!左ボディサイドシル!」
後ろサイドから太いディスクが飛び出し、すさまじい勢いで回転しだすと球を一気に放出させた。
絶叫を上げながら転がり落ちる阿熊。
”辰、六時方向敵影6、距離10”アイが伝達。
「マキビシだせ!ベアリングボムを、三秒爆破!」
リアフェンダーの一部装甲が解放され、黒いピンポン玉が放出された。
その球は阿熊たちの付近で見事に炸裂する、が直後に阿熊たちは持っていたバカでかい槍を
すさまじい勢いでガンバス向かって投げつけた。
うちの数本がガンバスルーフに突き刺さる。
「おっさん、右舷、私じゃもう間に合わない!」イルが絶叫する。
右舷ガンバス目前に阿熊数頭。ガンバスに向かって手投げ斧をリズミカルに投げている。
「オオオオオッ!」
辰は雄叫びと共に足元の単装砲を拾い上げ、サイドのハッチを左手で開放すると
残る右手で銃を腰に構え、阿熊を狙って撃ち始めた。
少し間抜けな顔に似合わず、腕は中々の筋肉である。
「だから前方やって、もう無理―!」ルイが嘆いた。
ルイはたくましい腕で操縦桿を引くがそれははるかに重く、車体が回避するには不十分だった。
「畜生め!」
射撃をやめ、辰は瞬く間に操縦席へ行き凄まじい力でルイの操縦桿を共に引いた。
「うぉおおぉおお!」
上腕筋の筋が限界まで浮き彫りになる。
巨大な車体は大きな砂塵を巻き上げ、慣性に逆らうかのようにヘッドを横へ振った、が。
「間に合わんかっ」
フェンダー、いわゆる車体の尻は回避までに追い付かず突進してきた支柱に直撃し、
車体に凄まじい衝撃が走る。
そして装甲が無残に剥がされ、内部の一部が露呈した。
やや後方にいたイルは隙間から見えた阿熊と目が合い、絶叫した。
ビィ――――!激しい警告音と共にステータスモニターの表示文字がすべて赤色に染まる。
モニターのあらゆる数値が急激に低下した後、アニメ少女の紅潮した恥じらう顔が映し出され、
両手を股に挟み、口から涎を垂れ流し、警告文が表示された。
On the verge of climax(絶頂死目前)
”本車体は損害の80%に到達いたしました”
”搭乗者はマニュアルに従い、作戦離脱及び脱出の対応行動を検討してください”
”なお、脱出の際は機密保持のため、動力源爆破処理を願います”
突然アイの声が無機質になり、事務的に伝え始めた。
「んなもんで死んでたまるかアイっ、脱出経路を」
”国道A号よりE東経由で222号へのルート提唱”
「あそこはダメだ、公園付近はボロボロで抜けられん。」
辰は苦悶しつつ、命令した。その顔は血相をかいていた。
「Eを西向きで途中75号経由で222号へ、”ニーサン”は通るな」
”了解、75号経由でルート設定”
「引くぞオッサン、全力疾走!」
回避行動から来た道へ引き返すように向きを変えたガンバス、そのまま後方へすべての砲門を向ける。
ルイがアクセルを全力で踏み込み、砂塵を巻き上げ敗走はじめた。
それを見た阿熊たちは一斉に笑い出した。
「馬鹿じゃねーのおっさん!シネよ!」
「また次来たらぶちのめすからな!特にお前の腰よ!」
ゴリやアン、テを始め、様々な阿熊が敗走するガンバスに石やら槍やら一斉に投げ出した。
「また、負けちゃったね」ミサが悲痛な面持ちで呟く。
「どーすんの、もう三戦連続だよ」イルは呆れている。
「もう、栄養豆すら食えんかもな」ルイは言いながら遠い目をしていた。
「ええぇ~!」声をそろえ嘆く三人を尻目に辰はすっかりくたびれ果てていた。
「いよいよこりゃ、縄文寺のオバハンによびだしだな」
落胆する四人、遠く小さくなってゆく阿熊たちを見ながら辰は吐き捨てた。
「これで勝ったと思うなよ~だな」
「なにそれ」
「昔、そんなこと言うゲームがあった・・・ような気がする」
そうしてガンツアー御一行は連続三度目の敗戦に辛酸を舐めるのであった。
そして程なくして、アイより作戦後見人からの伝令を伝えられ、第五地方自治体連合自警団本部へと帰還した。