01右左市攻略作戦-01
空はいつもどんより曇り空、ひび割れたアスファルト、生い茂るおぞましいまでの木々。
長く続く道の脇にたたずむ、ボロボロの母屋の庭には二人の老夫婦がたたずんでいた。
やせ細った老夫婦は涎を垂らしながらただ一点のみを見つめている。
視線の先には荒れ果てた畑とてもむっちりと熟れていたトマト。
そのトマトは赤ではなくどちらかというと赤紫色で、とても毒々しい色だった。
そんなトマトに今にもかぶりつきそうな旦那を嫁が弱々しく制止する。
「あんた、やめなよ。死んじまうよ」
「うるさいわ、そんなん・・・そんなん・・わかっとるわ」
だが言葉とは裏腹にやはり空腹には勝てないのか、老人だから理性も弱くなってるのか、
もはや老人は自制の効かない状態だった。
「やっぱり我慢できん!!」
「あんた、アカンで!アカン!」
老人とは思えないほどの素早い動きで、嫁を振り切り、トマトまで崩れるように走りついた。
老人が蹴った大地も、周りの木々もみな毒々しい色をしており気味が悪い。
「一口、一口だけ。我慢できんのや」
トマトをつたから引きちぎり、両手でつかむと老人は唇を震わせながら大きく口を開き、
思いっきり頬張る。もしゃもしゃと満面の笑みで咀嚼する。
「あああ、うまい、うまい、たまらん、たまらん、たまらぁぐぅ!」
その直後、旦那の口からはトマトなのか血なのか、とりあえずミックスされたであろうものを天に向かって吹き出した。
「馬鹿やん!なにしとるんや」
地面にひれ伏し、動かなくなった旦那に嫁が駆け寄り、そのままおいおいと泣き崩れた。
そんなあわれな老夫婦を尻目に、一台の大型バスが滑走する。
それは車体の側面に半裸の美少女アニメのロゴの”痛い”デカールが張ってあり、
イカツイ武装を搭載して至る所これまた”痛々しい改造”を施したシャトルバスが
地響きを鳴らしながら横切るのであった。
木々が生い茂る道を颯爽と進行する、一台の武装大型シャトルバス・通称ガンバス。
その車内には第五地方自治体連合自警団第五小隊
”ガンツアー”の面々がいた。
「かわいそうにな、あのじいさん、でもまぁ気持ちはわかるよ、気持ちわな」
やや、日本人顔した黒人の青年がステアリングをなでなでしながら呟いた。
「瑠偉も将来あーなるんじゃないの、めっちゃ顔似てたし」
ボーイッシュな格好にショートヘアのまだ十代であろう少女がモニターをタッチしながら吐き捨てる。
「はぁ?全然似てないし!馬鹿じゃないの」
黒人ハーフの長谷川ルイ(はせがわるい)は、そのショートヘアの少女・蔭木イル(かげきいる)を睨みつけた。
「二人とも辞めたら?もうすぐ作戦地点だよ」
同じくモニターを見つめ、キーボードを叩きながら二人を制止する、もう一人の少女。
顔はイルと瓜二つ、だが髪は美しい艶をしているセミロングの少女・蔭木ミサ(かげきみさ)だ。
「ねぇ、オッサンも何とか言ってよ。」
「zzz」
ミサは社内中央に備え付けられた監督椅子のようなものに座ってイビキをかいている、
オッサンといわれるにはやや若々しい中年に呼びかけた。
「ねぇオッサン!もう作戦時間だよ、起きて!」
突然の叫びにオッサンは目をカッと目開き、椅子から飛び起きた。
全員が注目する。
「え、マジか?!スマン、寝過ぎた!」
オッサンと呼ばれたこの武装した中年は皐月辰。この第五小隊ガンツアーの代表である。
ルイが辰を見つめながらため息交じりに
「はぁ、まだ着いてねぇよ。さっきから寝過ぎやろ」
「それやったら起こすなよ、昨日は今日の作戦ミーティングで4~5時間しか寝てないのに」
「4~5時間寝てたら十分だよ」
イルがまったくと、呆れた顔をしながら再びモニターに向き直った。
「おいアイ、現在状況を」
背中をボリボリ掻きながら辰は前方天井に備え付けられたモニターに呼びかける。
やがてこのガンバス搭載のAI、アイがウグイス嬢の様な美しい声で答えた。
”了解。現在、午前5時20分攻略地点・右左市第三バリケードまで問題なく進行中”
”10分後、予定通り作戦地到着します”
「おし、予定通りだな。今回はもう失敗はできんぞ」
「みんないいか?前の作戦もみっともなく失敗してる、もう後がないからな?」
辰は焦っていた。自分たちは自警団の仕事をもう連続二回失敗し、敗戦を期している。
もう、負けるわけにいかないと腰をホルスターをバンバンと叩き、大きく伸びをした。
やがてガンバスは大きな機械が取り付けられたフェンスや乱立する自動機銃の前まで到着した。
フェンスには” 右左市第三バリケード この先、あなたの命に重大な危険が及ぶため立入禁止します。 右左市・日本政府”
という錆だらけの看板が吊り下げられている。
「オッサン、第三バリケードまで到着」
バカでかいサイドブレーキをかけると、瑠偉が少し緊張した面持ちで辰に伝えた。
「オーケー、ミサ、ホットラインを」
「了解、第五地方自治体へ伝達」
ミサはキーボードを叩く。モニターには作戦要綱の書類が映し出された。
「こちらは第五地方自治体連合自警団第五小隊ガンツアー、代表 皐月辰」
「午前5時30分、作戦要綱に基き作戦を遂行する。作戦責任者は皐月辰、ケツモチは縄文寺本部長」
ルイはアイに呼びかける。
「フェンスロック解除を」
ピピピ。
バスの正面フェンスのマシンが音を立てる、そしてフェンスが左右に開きだす。
まるで忍び足のように音を立てずに、ゆっくりと進みだすガンバス。
「イル、ガンシステム起動、側面と後方砲台はまだ出さなくていい。ミサ、索敵開始しろ。」
「ルイ、エンジンは暫くモーターのみだ、メインは切っておけ。音出すなよ」
「わかってるって」
作戦前までのだらけた雰囲気から一転、一同は緊張した面持ちで各モニターや正面の大型モニターを凝視していた。
そして、ガンバスは徐々にフェンスを離れ、森の深くへとゆっくり侵入してゆく。
過ぎてゆく時間。一分、五分、十分。やがてガンバス周りは深い森林へと包まれた。
「なんだろう、なんか変だ。一旦機体を止めてくれ」
「なんかさ、妙だよな」
辰の問いかけに瑠偉が答える。
「おかしいよ、こんなに奥まで来てるのに”敵”のひとつも見当たらない」
モニターを見ながらイルが不安げに呟く。
「ミサ、周辺の様子はどう?」
「全然ダメ、2~300メートル付近は何の熱源もないよ。ソナーも反応ないし、目視でも確認してるよ」
それを聞いた辰は神妙な面持ちでアイにも問いかけた。
「おい、作戦地域は間違ってないな?各種センサーはどうだ?」
”作戦地域に問題はありません、センサーも異常ありません。”
「なぜだ、どうして・・・」
不安に駆られた辰は顎に手を当て、暫し考え込む。
すると、つい先日の作戦ミーティングを思い出した。
―――”敵”の知能がどうも全体的に上がっている、と。
「おい、ミサ。ソナー前に新しくしたときに極微弱音も拾えるようになったって言ってたろ?」
「うん、ルイが”ぜひ盗聴に使いたい”って言ってた」
「んなこと、ゆーてないでよ!」
ルイが思わず上擦った声を荒げる。
「わーった、わーった。よし、とりあえず音感ソナーを”心音”レベルまで下げてくれ、できるか?」
「わかった、レベル下げていくね」
ミサは手元の音響アンプに付いているようなボリュームつまみを徐々に下げていく
ピピッ、ピピッ、ピピッ、ピピッ、ピ――――――!
突如真っ赤に染まるモニター、ソナーはガンバスを取り囲むようにして音源を見事にとらえていた。
辰が弱々しく呟く。
「うわヤバい、嵌められちゃったよ・・・」