表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/18

第5話 オーラ

 どうもこの世界——少なくともこの辺りでは、朝飯抜きが一般的な様だ。なので成長期の子供以外は基本朝ご飯を食べない。そして宿に泊まる人間の大半は昼食を外で済ます。


「食事オプションが夕飯だけなのは、そのためみたいだな」


 情報源は宿屋のおかみさんとの世間話。


 宿を出た俺は、昨日爺さんの居た場所——公園へと向かう。覚えた魔法を試してみる為に。広い場所だったので、火はともかく、水風土の魔法を試すのには打ってこいの場所と言えるだろう。


「ん?」


 公園には爺さんがいた。のはまあ別にいい。どう考えても、無職住所不定な人物だしな。俺が引っかかったのは、ベンチに座る爺さんの前に三人の子供達の姿があったからだ。そしてそのうち一人は、見覚えのある子だった。


「あ、お客さん!おはようございます!」


 昨日宿で部屋まで案内してくれた少女が、近づく俺に気付いて笑顔で挨拶して来る。


「君は確か宿屋の……」


「はい!娘のコニーです」


「おはようコニー。君は一体ここで何をしてるんだい?」


 ホームレス間違いなしの爺さんの前に、子供が三人並んで立っている姿は少々シュールだ。気になったので俺は彼女に尋ねる。


 因みに残りの二人は、片方がコニーと同年代と思われる少年で、もう一人はそれより歳がいくつか上にみえる少年だ。年上の少年の方は何と言うか……まあ一言で言うと、格好が酷く小汚い。その姿は爺さん寄り。つまり、浮浪児の様な見た目をしていた。


「私、将来は冒険者になりたいんです。だからベゼルお爺さんに色々と教えて貰ってて」


 業突く張りっぷりを昨日見せられているので、コニーの言葉に俺は胡乱な目を爺さんへと向ける。


「おいおい、そんな目で人を見るなよ。別にいたいけな少年少女から金をむしり取っちゃ……まあもちろん少しは頂いてるが、そこはちゃんとお子様価格にしてあるからな。大人相手みたいに、ボッタくったりはしてねぇよ。だいたい、子供の払える額なんてたかが知れてるだろうが」


 大人相手でもボッタ来るなよと思わなくもないが、爺さんの経済状況ならその辺は仕方ないか。まあ浮浪児みたいな少年でも払える範囲な訳だし、破格のお子様価格というのは嘘ではないのだろう。


 尤も、安いだけでそれが正当な授業とは限らないが……


「なるほど……それで、どんな内容なんだ?」


「そこは企業秘密よ……ま、地獄の沙汰も金次第ではあるがな」


 爺さんがそう言って、掌を上に向けた手を俺に差し出す。


「やれやれ」


 俺はその掌に100ボル――1000円相当を置く。


 この世界の訓練方法には、俺も興味があるからな。まあもしそれがあからさまにいい加減な物だったなら、俺の方から子供達に、もう爺さんにはかかわらない方がいいと忠告させて貰う。


「訓練方法だが……お前さんワシの事を疑ってるみたいだから、まずはガキンチョ共の訓練の成果を見せてやるとしよう」


「コニー」


「はい!」


 宿屋の娘であるコニーが元気よく右手を上げる。


「ダリム」


「は、はい……」


 ダリムと呼ばれた少年は、少しオドオドした感じである。どうやら大人しい、もしくは臆病な性格をしている様だ。


「ベッチ」


「はい」


 身なりのあれな少年が、ぼりぼりと頭を掻きながら答えた。その際、視認できる程のふけが豪快に飛ぶ。俺の方にまで。他の子らは気にしていないみたいだが、俺の方に飛ばすのは勘弁して欲しい。


「お前らのオーラを見せてやりな」


「オーラ?」


「ん?なんだ、お前さんオーラも知らないのか?」


 俺の疑問の言葉に、爺さんが不思議そうに眉根を寄せる。どうやら知っていて当たり前レベルの常識だった様だ。


「いくら田舎の出でも、オーラは流石に知ってそうなもんだがな?」


「ああいや……まあ多分、呼び方が違うんじゃないかな?うち、ド田舎だから」


「ああ、成程な。確かに田舎ってのは、独特の方言使ったりするからな。まあいい。じゃ改めて、お前ら訓練の成果を見せて見ろ」


 若干苦しい言い訳だった気もしなくもないが、爺さんは特に気にしている様子もないので……まあ結果オーライである。


「「「はい」」」


 三人が目を瞑る。その瞬間、俺の背中に悪寒が走った。


 これは……


「——っ!?」


 ……オーラとやらが、あの時感じた物の正体だった訳か。


 目を凝らすと、三人の体が薄っすらと光っているのが分かる。そして三人から放たれる、ちょっとした圧迫感の様な物は、俺が召喚された時に周囲の兵士やローブ姿の人間から感じた物とよく似て――いや、ほぼ同じだった。


 但し、明らかに見た目に変化がある彼女達の方が、その圧が弱く感じる。そう考えると、俺の捉えた感覚は同じでも、実際は少し違っているのだろう。


「どうでい。この年でオーラを生み出せるのは、正に俺の指導の賜物(たまもの)だ。そう、この赤鬼ベゼル様のな!」


 爺さんが誇らしげに胸を張る。オーラの事はよく分からないので凄いのか凄くないのか分からないが、これだけは言える。


 ——払った100ボル分は余裕で回収できそうだ、と。

拙作をお読みいただきありがとうございます。


『面白い。悪くない』と思われましたら、是非ともブックマークと評価の方をよろしくお願いします。


評価は少し下にスクロールした先にある星マークからになります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ