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第42話 同時使用

「セイクリッドプリズン!」


 通常、精霊級魔法(エイスマジック)の発動には、魔法陣の必要数から数十秒は必要となる物だ。だが、天才である俺はそんな魔法を一瞬で発動させる事が出来た。


「なにっ!?」


 詠唱はないが、ゲーム的に言うならこれは無詠唱って所か。なので便宜上、無詠唱と命名せて貰う。


 無詠唱の高ランク魔法が開幕と同時に放たれるなど、教官も夢にも思わなかっただろう。本来の彼の能力なら躱せたであろうその魔法は、相手の虚を突いて見事にヒットし拘束する。


 これ自体は拘束系の魔法なので、破壊力はない。あくまでも足止め。本番は次

だ。


 あ、因みに俺が精霊級魔法(エイスマジック)を使えるのは、ここに来るまでの移動の馬車内で覚えたからだ。王家秘蔵の魔法本を見て。まあ国の依頼で働くんだから、王家もそれぐらいは用意してくれるさ。なので、今回のこの使用はぶっつけ本番だったりする。ま、天才だからそれでも全く問題ないが。


「デストラクションサンダー」


 続いて放ったのは、同じく精霊級魔法(エイスマジック)であるデストラクションサンダーだ。拘束からの雷攻撃の魔法のコンボ。これは大神官と魔塔の副塔首が魔王に使った連携攻撃である――エイナスから聞いた。それを俺は一人でやってのけてみせた訳だ。しかも無詠唱で。


「ぬ……」


 教官に無数の雷が降り注ぐ。その威力はかなりの物だ。周囲の地面が弾け飛び、大きなクレータを穿つ。普通なら相手の命を心配をする所だが、この教官はただ物ではない。魔王がこの連携攻撃でぴんぴんしていた様に、この男もまた、魔法の全てを受け切ってなお沈む事無く耐えきって見せた。


「ふっ!」


 そしてセイクリッドプリズンの拘束を力尽くで解き、クレーターから飛び出して来る。


「驚いたな。まさか精霊級魔法(エイスマジック)を、これ程超高速で発動させてくるとは……」


「俺は無詠唱って呼んでます」


 まあついさっきからだが。


「無詠唱か。詠唱は関係ないと思うが、何故だか不思議としっくりくる言葉だな。しかし……ひょっとして、戦いながら高位魔法を使えたりするのか?」


「ええ。もう一個上の魔法は習得していないので分かりませんが、精霊級魔法(エイスマジック)なら戦いながらでも問題なく使えます」


 恐らく、神魔級魔法(ナインススマジック)も無詠唱で行けるとは思う。が、確認できていない不確実な事だからな。分からないって答えておくのが無難だ。


精霊級魔法(エイスマジック)でも戦いながら問題なく、か。とんでもない事をサラリと言うな。君は」


 低位の魔法なら他の人間でも可能だろう。現に、師匠もある程度の魔法は使う事が出来ていたしな。とは言え、激しく戦いながら高位魔法を扱える物は相当限られるはず。俺と同等レベルの天才でなければ、厳しいだろうからな。


「やって見せましょうか?」


「そうだな」


「では!」


 普通、魔法の実技テストはその場から動かない物だ。だが俺はデストラクションサンダーを放つと同時に、教官に突っ込んだ。


 放った魔法を、教官は巧みな動きで躱してしまう。まあ当然だ。このレベルの相手に、魔法の素撃ちが当たる訳もない。さっき拘束できたのは、不意打ちに近いシュチュエーションだったからだ。


 だが気にせず俺は再度デストラクションサンダーを放ちつつ、教官に肉薄して剣を振るう。それだと魔法の攻撃範囲に入ってしまうが、天才である俺が自分の魔法に当たる筈もない。寧ろ軌道を利用して戦闘を有利に進めさせて貰う。


「くっ……これは……」


 頭上から絶え間なく降り注ぐ雷に加え、それを利用して立ち回る俺の動きに教官が顔を顰めた。先程戦った経験によって彼の動きが読めているのもあって、かなり良い感じに押せている。更にあと一押し出来れば、一本取る事も可能だろう。


 まあ戦闘実技はもう終わっているので、それをする意味は全くないが。だが、取れるなら取りたいと思うのが男という物である。


 何か手は……そういや、これって出来るのか?


 魔法を放ちながら、なんとなく思いつく。それを試した事はないので未知数だ。だが、やればできるんじゃないかと、そう天才の勘が俺の背中を押して来る。


 まあやってみて駄目ならそれまでだ。気にせずいこう。


 そう、それは――


「ダブルマジック!デストラクションサンダー!セイクリッドプリズン!」


「なにっ!?しまった……」


 ――魔法の同時発動。意識を二つに分ける様にやってみたら、本当にできた。流石俺である。さすおれ。


 剣技との頭上からの雷。そこにセイクリッドプリズンが加わる事で、流石の教官にも大きな隙が出来る。ほんの一瞬の物だが、天才である俺が見逃すはずもない。その隙を突き、教官の首元に手にした剣を突きつける。


「こいつは一本取られたな。俺の負けだ」


 俺の勝利だ! と言いたい所だが、勿論そんな訳はない。所詮これはテストだ。一方的に攻撃できたかこそ一本取れたのであって、もし教官が回避に徹さずダメージ覚悟で攻撃を仕掛けて来ていたなら、一本取られていたのは間違いなく俺の方だったはずである。


 そもそも……今の隙を突いた攻撃を当てても、致命傷にはなりえなかっただろうし。


「単純な強さでなら六番目だが……実戦で通用する魔法込みでなら、まあ三番手って所だな」


 俺の評価が上方修正される。魔法でひっくり返るのなら、上にいた六人の内三人とは、それ程大きな差が無かったって事だろうな。


「見事だったぞ。俺から一本取ったお前は満点だ」


 教官が遠くにいる審査官の方を向くと、三人が満足そうに頷く。三番手でも満点くれるとか、点数計算おかしくね? そう少し思わなくもないが、まあ教官から一本取ったら自動的に満点って事なのだろう。


「ありがとうございます」


「しっかし、魔法の同時使用とか常識破りもいい所だ。お前には期待しているぞ!」


「うっ……」


 教官が笑顔で俺の肩を叩く。だがその威力は、明らかに健闘を称えてって感じではなかった。超強烈だ。


 ひょっとして、一本取られた事に腹を立てているのだろうか? だとしたら、案外負けず嫌いなんだな。まあそれ位の性格じゃないと、此処まで強くはなれんか。

拙作をお読みいただきありがとうございます。


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