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第29話 怯え

 配下の兵士を複数連れたエイナスが此方にやってきて、俺に向かって笑顔で語り掛けて来た。


「お久しぶりね。《《勇者様》》」


 と。


 その言葉に俺は顔を顰める。エイナスは俺の事をハズレと言っていたのだ。その彼女が俺を勇者と呼んだ。つまり――


「状況が落ち着いてから色々調べてみたら、この街であの化け物と大立ち回りしていた人間がいたって知って驚いたわ。しかもそれが私の――いえ、フェイガル王国が呼び出した勇者様だったなんてね」


 ――そういう事だよな。無能なハズレ認定した相手に、わざわざ会いに来る理由なんてそれだけしかない。


 師匠が避難させた人達が、俺と奴が戦っている姿を目にしているだろう事は理解していた。だが、遠くから激しく戦う姿をチラッと見ただけだから大丈夫だと――あの状況でガッツリ見てたらただのアホだし――俺は高を括っていた。


 だからこそ、三人の事もあってこの街を離れなかった訳だが……


 どうやら、それが完全に裏目に出てしまった様だ。面倒くさい事になってしまった。


「勇者様……ね。ハズレと無視した俺に今更何か用か?」


 誤魔化しは無駄だろうと判断し、ド直球で用件を聞く。楽しく談笑する様な間柄でもないし。


「あら、その様子だと……あの時点で私達の言葉が分かってたみたいね。流石は勇者様だわ。ごめんなさいね。あの時は貴方の素晴らしい価値に気づけなかったのよ。その事は謝るわ」


 高飛車そうな見た目と態度のエイナスは、どう見ても素直に謝りそうなタイプではない。だが、彼女は素直に謝罪の言葉を口にした。その行動に俺は違和感を感じる。


「ふむ……」


 ひょっとしてこいつ……


 違和感から、ちょっと考え込むふりをして相手を素早く観察。そして気づく。


 此方に気付かれない様にしてはいるが、エイナスの呼吸が若干不規則である事に。そして心音から心拍数が上がっている事も確認出来、更にその視線――一見真っすぐ此方を見ている様に見えるが、その実、実は無理やり視線を固定している事が微妙な揺れから見て取れた。


 間違いない。エイナスは俺に対して怯えている。そして俺は天才なので、その理由にも一瞬で気づく。


 魔王は明らかに、召喚直後から好き放題やっていた。当然、この女も酷い目に合ったと考えるのが自然だろう。その証拠にエイナスは……


 ――カツラを被っている。


 精巧な物なので普通なら気づかないだろうが、俺の目は誤魔化せない。エイナスは間違いなくカツラだ。そして初対面時、彼女はカツラを被っていなかったはず。その事から導き出される答えは……ストレス、もしくは恐怖による脱毛である。


 魔王の一件で、エイナスはトラウマに近いショックを受けた。そして俺は魔王と同じく、異世界から召喚(コピー)された存在。しかも魔王と正面切って戦って生き延びている力の持ち主だ――実際は殺された訳だが、エイナスはその事実を知らないだろうし。


 つまり彼女からすれば、俺もまた危険な猛獣という訳である。そりゃ怖かろう。コントロール不能の化け物とか、俺だって好んで自分から近づいたりはしないからな。


 けど、そう考えると……


 怖いにもかかわらず、態々俺に会いに来た。つまりエイナスの用件は、彼女にとって、最悪自分の命を懸けるだけの意味があるって事だ。そう考えると……絶対面倒臭い事言ってきそうだな、こいつ。


 なんか腹が立ってきた。ので――


「随分と苦労したみたいだな?」


 俺はエイナスの頭部を見つめ、そう口にする。まあ嫌味だ。


 その瞬間、それまで笑顔だった彼女の表情が『ピシリ』と音が聞こえてきそうな程に固まった。他人の頭髪問題を指摘するのはマナー違反ではあるが、こいつにそんな気を使う必要はない。十分過ぎる程ふざけた真似を、俺はされてる訳だからな。


 仮にこれで王女が激高しても、今の俺なら十分に対処可能だ。今の俺は滅茶苦茶強い。黙ってやり過ごすしかなかったあの時とは違うのさ。


 え? 魔王にボコボコにされてた癖に、滅茶苦茶強いなんてよく言えるな?


 いや、アレはどう考えても相手が悪いだろう。ほぼラスボスだぞ。ラスボス。無理ゲーも良い所である。


 まあとは言え、だ。この半年で俺は相当強くなっていた。なので今の俺は、変身前の魔王ぐらいなら普通に倒す事が可能なレベルにまで至ってたりする。さす俺。


 え? 変身後は?


 勿論――


 そっちは無理ゲー。

拙作をお読みいただきありがとうございます。


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