【第3話】仮面の騎士団(後編)
銃声が霧を裂き、仮面の騎士がひとり倒れた。
リタの弾は、的確に関節と装甲の隙間を狙っている。
しかし――
「……自動修復?」
倒れたはずの騎士の体が、蒸気を噴き上げながら再び立ち上がった。
仮面の内側で、魔術回路が淡く光る。
「魔術と機械の融合兵か。帝都も、ずいぶん変わったわね」
リタは冷静に弾倉を交換する。
彼女の両手には双銃、銀の銃と黒の銃。
過去に封じたはずの力。
でも今は、それを開ける時だ。
「目標:確認。排除開始」
仮面の兵士たちが、冷たい声でつぶやく。
リタの足元から地面が爆ぜ、衝撃で視界が揺れる。
だが彼女はその隙を突き、煙幕の中に姿を消した。
次の瞬間、建物の上からリタが現れる。
「撃ち下ろしが一番効くのよ、こういう連中には――」
銀の銃弾が、空中から騎士団に降り注いだ。
一点突破。動きに迷いはない。
かつて密偵として名を馳せた“黒の銃姫”の異名は、伊達ではなかった。
全員を無力化し終えた頃、霧の奥からゆっくりと一人の男が歩いてくる。
仮面はない。
だが、その雰囲気は騎士団のものとは明らかに違っていた。
「久しぶりだな。リタ・ヴァレンタイン」
リタは構えを解かない。
「誰?」
「……まあ、忘れられても仕方ないか。
俺だよ。カリド・フォールン。王国諜報部“十三課”――あんたの、かつての相棒だ」
リタの目がわずかに見開かれた。
「……死んだと思ってた」
「死んでたようなもんだ。だが、墓場の底から引っ張り上げられた」
カリドは煙草をくわえながら、焼け焦げた仮面兵たちを見下ろす。
「お前が戻ってきたって噂、地下じゃもう広まってる。
あいつらの反応を見る限り、図星だったようだな」
「……教えて。記録官エルマー・クローヴの居場所を」
その名を聞いた瞬間、カリドの顔から笑みが消える。
「……また深い闇に手を突っ込むつもりか、リタ」
「闇の中に、焼かれた光があるのよ」
リタの声には、ためらいがなかった。
復讐のリストが、次のページをめくろうとしていた。