【第18話】祈りの灯(エピローグ)
数日後――
帝都グランディアでは、“アヴェル・グランツ失踪”の噂が民衆の間を駆け巡っていた。
聖堂の鐘は沈黙し、貴族たちは緘口令を敷いた。
だが、火祭りの夜に何があったのか、人々は“見ていた”。
「誰かが、あの塔の上で祈っていたんだ」
「鉄仮面の正体は……伝説の“銀の密偵”じゃないかって」
「いや、あれは姉妹だったって聞いたぞ。
処刑されたはずの少女と、その姉だって――」
真偽は不明。
だが確かに、街の空には灯籠がひとつ、高く舞っていた。
そこにはこう書かれていた。
『誰かの明日が、今日より優しくありますように』
それは、帝都で最も囁かれた**“祈りの言葉”**となった。
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とある村のはずれ。
小さな教会の庭で、二人の女が歩いていた。
リタと、ミレイユ。
仮面も銃も捨て、ただ一市民として――いや、“祈る者”としての顔だった。
「リタ」
「ん?」
「旅に出ない? この国の、もっと遠くまで。
名前じゃなく、“言葉”を残す旅を」
「いいね。誰かの心に届くなら、それがいちばんいい弾になる」
二人は笑い合い、教会の扉を閉めた。
旅立ちの日。
その背には、祈りの灯を背負ったような温もりがあった。
⸻
【完】
本作『ヴァレンタインの祈り』は、
過去と向き合いながら“赦し”と“祈り”を描く物語です。
あなたの心に、少しでも灯りをともせたのなら――
それが、作者として最大の祈りです。




