【第14話】黒の断罪(中編)
銃声が、夜空を裂いた。
音が響いたのは、一発だけ。
リタ・ヴァレンタインとミレイユ・ヴァレンタイン――
姉妹の銃口が火を噴いた瞬間、どちらかの命が終わるはずだった。
けれど。
「……なぜ、撃たなかったの?」
沈黙を破ったのは、ミレイユだった。
銃を構えたまま、しかし指は引き金を引いていなかった。
「……あんたが引かなかったから」
リタもまた、構えを崩さないまま応えた。
「私たちは、もう十分すぎるほど“殺し合い”を見てきた。
だからせめて――最後くらい、誰も撃たずに終わらせたかった」
風が、塔を吹き抜ける。
遠くで、灯籠がひとつ空へ消えていく。
ミレイユの手が、ゆっくりと下がった。
銃を落とし、膝をつく。
「私は、もう誰かを憎む力すら残ってない。
それでも、“赦される資格”があるなんて、思えなかった……」
「赦すかどうかは、私が決めることじゃない。
でも、“一緒に生き直したい”とは思ってる」
リタは、ミレイユのもとに歩み寄り、そっと彼女を抱きしめた。
妹は、まるで迷子の子どものように、小さく震えていた。
「……姉さん、あの時……来てくれてたら、私、泣いてたと思う」
「じゃあ今、ここで泣けばいい。
私は、今度はもう逃げない。
あなたの涙を、最後まで見届ける」
ミレイユが、ようやく声を上げて泣いた。
祝祭の夜空に、ただ一つの銃声が消えていった。
それは、復讐のためではなく――
祈りの終わりを告げる鐘のように響いていた。




