【第13話】黒の断罪(前編)
塔の上に、風が吹き抜ける。
祭りの灯籠が空を舞い、遠くの鐘が響くなか――
二人の姉妹が、銃を向け合っていた。
「どうして……ミレイユ」
リタ・ヴァレンタインは、震える声で問う。
だが銃口は下げなかった。
目の前に立つのは、妹の姿をした――“もう一人の復讐者”だった。
「姉さんは、私を見殺しにした」
ミレイユ・ヴァレンタイン。
死んだはずの少女が、アヴェル・グランツという仮面を被って復活していた。
「火刑の命令が出たとき、私は信じてたの。
最後には、姉さんがきっと助けに来てくれるって。
でも――来なかった」
「……あの夜、私は……逃げた。
あんたを守れる方法が見つからなくて……怖くて、何もできなかった」
「だから今度は、姉さんが“燃やされる”番よ」
ミレイユの指が、引き金にかけられる。
だがその動きに、迷いがあった。
怒りだけでは、撃ち抜けない。
記憶の奥に、姉との日々がまだ残っていたから。
「ミレイユ。私は、ずっと謝りたかった。
でも、それだけじゃ済まされないってことも、わかってる。
だから――私は、撃たれてもいい。
でも、その前に、聞かせてほしい」
リタは銃を下ろした。
「あなたが、最後に祈った言葉。
“ちゃんと最後まで”って、あれはどういう意味だったの?」
ミレイユの瞳が揺れる。
「……あれは……」
彼女は唇を噛みしめ、視線を落とした。
「“怖くない”って、自分に言い聞かせてたの。
本当は、死ぬのが怖かった。
でも、祈りの言葉を最後まで言えたら、
姉さんの中で、私はきっと消えないって……思った」
リタの頬に、涙が伝う。
「消えてなんか、ない。
今も、ずっと胸の中にいた。
ずっと、一緒に祈ってたよ」
しばらくの沈黙。
だがその静寂を破るように、ミレイユは再び銃を構える。
「なら――その祈りが、本物かどうか。
今ここで……試してみせて」
銃口が、リタに向けられる。
今度こそ、本気の引き金。
そして、リタもまた――構え直した。
「わかった。
なら、これは私たちの“最後の祈り”よ」
姉妹の銃声が、夜空に鳴り響こうとしていた




