【第12話】記憶の誓い(後編)
帝都グランディア最大の祝祭――
「聖火の夜」が幕を開けた。
街には無数の灯火が揺れ、歌と鐘の音が鳴り響く。
空には祈りを込めた紙灯籠が舞い、道化師たちが歓声をあげて踊る。
だがその中心、帝国聖堂の塔――
その最上層だけは、祝祭とは無縁の静寂に包まれていた。
リタ・ヴァレンタインは、黒の戦装束をまとい、静かに階段を上っていく。
銀の銃と、黒の銃が腰に揺れる。
「……ここが、終着点」
聖堂の鐘が、十二の時を告げる。
その鐘と同時に、塔の演説台に現れたのは――
アヴェル・グランツ。
漆黒の外套、無言の仮面。
彼は一言も発さぬまま、民衆を見下ろしていた。
だがリタの目には、はっきりと映っていた。
「ようやく……姿を見せたわね」
銃を構え、彼女は舞台へと踏み出す。
仮面の男は、動かない。
まるで、すでに“待っていた”かのようだった。
「アヴェル・グランツ。
私の妹、ミレイユ・ヴァレンタインに“焚刑”を命じた決裁者。
そして、すべての罪を記録の外に葬った“黒幕”――
今日は、その罪を、帝都の空に晒してもらう」
仮面の下から、声が返る。
「……ようやく、ここまで来たか。リタ・ヴァレンタイン」
その声は――女のものだった。
リタの瞳が見開かれる。
「その声……まさか……」
アヴェルは、ゆっくりと仮面を外した。
現れたのは――
炎に焼かれて死んだはずの、あの顔。
「……ミレイユ……?」
リタは震えた声で呼ぶ。
「でも、あなたは……死んだはず……」
ミレイユ・ヴァレンタインは、確かにそこにいた。
幼いころと変わらぬ、優しい顔立ち。
けれどその瞳には、怒りと悲しみと、深い闇が宿っていた。
「私は、姉さんに“殺された”の。
あの夜、火刑台で――
姉さんが来てくれなかったから」
リタは、何も言えなかった。
仮面の下にいたのは、最愛の妹。
そして、彼女が抱えていたのは――“復讐”。
すべての真実が、ついに明かされる。




