夜
銃声が辺りに轟いた。
「あ、ああ……。本当に殺してしまった」
男は呟くと、おもむろに銃を置いた。
(話には聞いていたが、こんなものが存在するなんて……!)
とりとめのない感情が男を襲い戸惑わせた。
震えが足先から始まり、髪の毛まで伝わる。
「こんなはずではなかったのに……」
男の記憶は一ヶ月前に遡る。
青田ムラサメという少年は、引きこもりである。
鬱っぽい心、内向的な性格、けっして整っていない顔。
すべてが神に見放された人間とでもいうべきか、いいところがない。
「さて、そろそろ時間だ。コンビニでも行こうかな」
ベットから起き上がると、スマホを手に取り時刻を見た。
夜の11時だった。
(昼夜逆転になって何日だろう……ま、直す気はないけどね)
ニヤリと笑って、外に出た。
必要なものを買ってコンビニから出ると、入り口に妙な物が置いてあるのに気付いた。
(なんだこれ?)
それは黒っぽい長い箱に入っており、片手で持てる大きさだった。
いくら陰気臭い少年とはいえ、捨ててある物を家に持ち帰るようなことはしないはずだが、なぜだかその時は胸騒ぎがした――のちに青田はそう回想することになる。
(デスノートか? いや、ノートのサイズじゃあないな)
考えながら夜道を歩いた。
電気を点けさっそく箱を開けてみた。すると――
「こ、これは銃か? なんで……そうかエアガンか」
誰かのいたずらか、青田はそう思った。
日本に弾の出る本物の銃があるはずがない。
あっても、ヤクザが持っているくらいで普通の人間が持っているはずがない、――そう決め込んでいた。
しかし。
心して撃て、さもなくば自らを痛めつけるだろう。
そんな声が聞こえた気がした。
誰だ? とは思わなかった。
青田ムラサメは統合失調症を患っている。
だから、また陽性症状からくる幻聴だとすぐに思い込んだ。
(それより死にたいな。……今日も鬱がひどい)
いっそこの銃で死んでしまおうか、ふと思った。
喉に突っ込んで引き金を引いた。