02.新居
朝日が瞳を刺す。起きる。家主は朝餉の準備を終えていた。出された食事を黙々と食べる。皿洗いをした。手に当たる水が冷たい。これはどうも夢ではない。
「今日は街を案内しますね。入用のものは全部買っちゃいましょう。経費です」
誇らしげに財布から出した通帳を見せ、これがあれば何でも手に入るんですよ、と語っている。
「それじゃなくてこれですかね」
悪いとは思いつつ訂正する。黒いクレジットカードがあったので、それを示してやる。
「それかもしれません!」
街の主の話すことは万事がこの調子だった。商店の名前、通り道、バス停の位置。その度に通りがかりの住民に訂正を受けては悪びれずにいる。情報はうのみにせず客観的な評価を確認する。それを心に書き留めた。
意外にも、この街には住人がいた。まばらで栄えているとは言えない人気ではあった。しかし地域によっては商店街があったり、商業施設やビルが運営されていた。どれも建てられたばかりに見える。
「まずはあなたの家を決めましょう。どこがいいですか?」
「どこでもいい」
「うーん、できればこの子のために公園とかスーパーとか近い方がいいですね。こことかどうですか?」
主は男へ聞いているが、自分の中では既に決まっている場所を指さした。
「じゃあそれで」
男は頓着なく決めた。
ベッド、布団、家電一式、LEDライト、トイレ用品。商業ビルで一揃え購入する。現物を購入すると店員が奥へ持っていく。即日配送が決まる。夕方までには届く。
新築のマンションにはコンシェルジュがいた。主が声をかけて空室の鍵を所望するとすぐに出てくる。購入したものが既に到着していたため、マンションの管理スタッフによって部屋に運び込まれた。男はそれを眺めていた。主の指示で流れるように配置が決まっていく。
「では明日から頼みますね。朝に事務所に来てください。服装は自由ですよ、斉木 唯一さん」
男は自分が名乗っていないことを思い出したが、どうでも良かった。
「あんたは何て呼べばいい」
主は澤井、と名乗った。