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小さな椅子  作者: 珉砥
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  3学期から産休に入った古橋に代わって産休補助で田畑という若い女性教諭が赴任して来た。内面は優しそうで、仕事はテキパキとこなす感じの好感を持てそうな女性なのだが、外見がなかなか特徴的だった。

  例えるならカエル。悪くいうと化け物という、大変失礼に当たる表現をしたくなる容姿をしていた。田畑が目を閉じると正にトノサマガエルが目を閉じたように見える謎の容姿だった。スタイルは普通というか痩せ気味なので問題は顔の造形に集中していた。

  同年代ということでか、田畑は棚端に気さくに話しかけてきて、棚端もそれなりに対応していたが、顔を見ると複雑な気持ちになるので、なるべく視線を合わせないように気をつけるしかなかった。

  見た目とは異なり話しているとそれなりで、この小学校の中では最も話しやすい人かなと棚端は思った。しかし、この珍しい容姿でこのように明るく生きていくのは大変なことではないかと他人事ながら心配に思うほどインパクトのある顔だった。これまでに外見に関して揶揄されていないはずがないからだ。

  藤谷は、全く接触のない6年生の女子が田畑を目撃して、「あの先生怖い」と容姿だけでそう判断したと漏らしていた。

  しかし2年生の児童の中では、直接的にも間接的にも田畑の顔についての話題は出ていないのか、あの口うるさい赤坂が田畑がいない場面でもそれに関しては何も触れなかった。

  その田畑と棚端は比較的話が合ったので、1度外出をする機会ができた。棚端は公務員の立場が嫌だったが、教える事が嫌な訳でも無く、唯一社会的に利用できる特性が子どもに好かれることなので、教員を辞めたあとはとりあえず学習塾の講師になろうと考えていた。そのことは田畑には伝えていた。むろん交際している藤谷も知るところだ。藤谷は小学校に残るように勧めていたが。

  棚端は塾の講師になったら車で移動することもあるだろうと思い至った。電車も通っていないこの場所にいると移動という発想に思い至らないが、地元に戻ったら自由に移動するためには車が必要な気がしてきていた。そんな話を田畑にしたところ、自宅の車を運転してみないかと誘ってきたのだった。

  思い返せば大学4年の終わりに取得した免許はペーパーでしかなく、一度も運転したことがなかった。その旨を伝えたところ、田畑は古い車だからぶつけても問題ないと快く受け入れてくれた。顔を見なければいい人だな、などと失礼なことを思いながらも、棚端はありがたく乗らせてもらった。

  棚端は車に対する知識はほぼ持ち合わせていなかったので、乗らせてもらったツードアセダンが良いのか悪いのかの判断は出来なかったが、1年ぶりに車を運転できたことに感動に近い感情が湧いた。というのも、大学の時によく助手席に乗せてもらっていた車好きの男が、去年東京で就職して運転をしなくなったら半年で感が鈍って運転が下手になったのを目の当たりにしていたからだ。

  田畑に礼を言って去ろうとすると、

  「棚端さんの好きなバンドのライブが今度あるんですけど行きませんか?」

  と誘われた。せっかくのお誘いだし、車も借りた事だしとも思ったが、

  「そうなんだ。でも行かない」

  とむべもなく断った。そして田畑とはそれきりとなった。

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