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突然すぎる婚約破棄は復讐するしかないでしょう

 あいにくの雨だから、絶対に来ないと思っていた。それなのに女性が使う傘をかぶってまで私の屋敷にやってきた。せっかく今日は穏やかに一日を過ごせるかと思っていたのに。

 いつもの通りメイドが走ってくるドタバタという足音が聞こえてくる。


「リアム様がいらっしゃいました。旦那様が対応しておりますが」

「お父様が?」


 お父様にご迷惑をかけるわけにはいかない。せめて私が追い返さなければ。憂鬱な気分で一階まで降りていき、玄関までやってきた。父の大きな背広と、一人の青年が口論している。


「あ!フィオナ!ちょっと話を聞いてくれ!」

「お父様大丈夫です。お戻りください」

「しかしだな」

「大丈夫ですから」


 まさかお父様にご迷惑をかけるわけにはいかないわ。目線を移すと、目の前には雨で濡れたところどころほつれ糸が見えるジャケットを着た一人の青年。容姿はそれなりに良いはずなのに。雨で濡れてすべてが台無しでね。


「アンナの体の容態が悪いんだ」

「どれだけ私が見ず知らずの女のためにお金を出したと思っているんですか。ウチだってお金があるわけではないんです」


 ウチだってそこまでお金があるわけではない伯爵家だというのに。男爵家であるリアムは私と婚約しているというのに、町娘と恋仲。その町娘は心臓が弱く頻繁に病院にいかなければいけないらしいが、町娘はお金がなく、リアムにだって金がない。そして私のところへやってくる。

 これで何度目だろうか。


「お金を借りたいならまず、前に貸したお金を一ゴールドでも返してください」

「僕たちは婚約者だろ!未来の夫婦なのに、返す必要はあるのか?」

「婚約者だろうが、なんだろうが、お金の貸し借りなんですよ。返してから来てください」


 きっと私と結婚難んてする気はないはずなのに、婚約者という立場を利用して、私から搾り取れるだけお金を取ろうとしているのだわ。


「さっさと帰って。お金は渡しませんからね」

「でも、それじゃあ彼女はどうなるんだ!」


 玄関の扉を閉めようとしているのに、リアムは扉の間に体を滑り込ませて、話を終わらせまいと必死。往生際が悪いとしか言いようがない。


「自分でお金を稼げばいいじゃない」

「できるわけないだろそんなこと、僕は次期、男爵家だぞ。農民のように働けって言ってるの?君だって娼婦のようには働けないだろ」


 なぜこんなにプライドが高いのかしら、愛する町娘のためなら、自分でお金を稼ぐぐらいできないのかしら。


「とにかくお金が必要なんだ。彼女が死んでしまったら僕はどうすればいいんだ」

「貴方には私がいるでしょ。婚約者の私ではいけないというなら、婚約破棄してその町娘と結婚すればよろしいわ!」

「そんなことできない。父上が許すわけがない」

「父親に歯向かうこともできないのに、町娘と恋愛だなんて。そんなことならさっさと縁を切って私との結婚を認めなさいよ」


 するとなぜかリアムは私をなだめるように笑った。まるで見当違いな考えを巡らせているということが私にはすぐに分かった。


「君が僕のことを好きなのは十分に分かった。僕の幸せのためにお金を貸してくれないかい」


 見当違いも甚だしい。全身に鳥肌が立ち、リアムが挟まっている子の玄関扉で、この男を潰してしまおうかしら。


「貴族の風上のも置けない!貴方に愛されている町娘は可哀そうよ!」

「嫉妬しんだろう。結婚したら君のことを愛すから、お願いだから、お金を貸してくれ」


 どんどんと雨が強くなってきている。もしかしたらこのままこの屋敷に泊まるなんてことにはならないでしょうけれども、さっさとこの男を帰らせないと。


「さっさと帰って!お金は渡せない」

「彼女が死んだら僕は君と婚約破棄するけどいいのか?」

「良いわよ。さっさとなさったらいい」

「君は僕のことが好きなんだろ!十六にもなって今更婚約者なんて見つかるはずないだろ!」


 その執着心が高くなっていくとともに、雨音も大きくなっていくのが癇に障る。本当に早く帰ってよ。


「かえって!」

「お金をくれたら帰るよ!」


 心のどこかでこの焦燥から早く抜け出したく、お金を渡してしまえば良いと言っている自分もいる。


「もうお金を返す以外で来ないで!この男を追い出しなさい!」


 玄関に常駐していた騎士たちに命令して、玄関の扉から離れた。騎士たちはすぐにリアムの体を掴み、外へ連れ出した。

 リアムは無様にも「俺は貴族だぞ!」「この無礼者!」とさっきまでの懇願が嘘のように喚き散らかしている。


 なんて無様なのかしら、無礼なのはあなたよ。なんで私はこの人と婚約したのかしら。いや、親同士の話し合いで決まったのよ。


 もうこれ以上何も起こらないと良いけれども。起こってしまったら、私はもうノイローゼになって床に伏せてしまうかもしれない。



 そんな悪い予感は的中し、いつも穏やかなお父様が走って私の部屋にやってきたときは何事かと思った。ただでっさえ骨格が良いので、足音が激しく、部屋に入ってきたとき肩をドアの枠に勢い良くぶつけた。


「だ、大丈夫ですか。お父様」

「マーガレット!せっかくあんなに奉仕してやっていたのに、あいつ裏切りやがった!」


 野太い声で父はそういった。


「それは、どういうことで」

「結婚相手がいないというから、マーガレットと婚約させてやり、金がないというから金銭面で支援をしてやっていたのに。それを仇で返したのだ!」

「だから、何をされたのですか?」


 あの性悪男、権力も財力もないというのに、悪知恵だけは働くみたいね。


「お前の婚約を破棄しおった!その上リアムは町娘と結婚すると!こんなに美しいマーガレットのどこが不服だというのだ!器量も良ければ博識で、ドイルット家の力となる存在であったはずなのに、なんという仕打ちだ!それが町娘だと?しかもその上、私が脱税をしているなど嘘を警察に向け吐いた!なんという侮辱!」


 いつも穏やかな父がここまで怒ることなんてそうそうない。優しくどんな人にも平等で、助けを必要とする人には手を差し伸べる。


「今からマーガレットの婚約者を探せというのか。もう行き遅れしか残っておらんわ」


 本当にその通り、残っているのは行き遅れだけ。貴族なんて繋がりで婚約者を探す、それも結婚相手を決めるのは私ではなく父。


「大丈夫よお父様。私なら行き遅れでも構いません」

「駄目に決まっている。ああ、どうすればいいのだ。ドイルット家に任せていた工場もどうなっていることやら」

「とにかくまず警察に吐かれた嘘の脱税を対処してくださいませ」


 穏やかになった父が出ていき、私の怒りが沸々と湧いてくる。

 そうよ。あんな男に金を貸したのがいけなかったのだわ。

 最初、心臓が悪いだなんて可哀そうと思ってしまった私も私ね。それにしても婚約破棄を言い渡すだけではなく、町娘との結婚も手紙に書いてくるなんて、なんという侮辱的な行為。その上恩を仇で返す下賤な行為。


「あ、あのお嬢様。大丈夫ですか?」

「舞踏会に行く気にもならない。行ったって、独身男なんて行き遅れた中年男性ばかり、愛人になるしかないのかしら」


 あの男のことを考えたくもない。恨みで今すぐにでも仕打ちをしてやりたくなる。でもそんなこと考えている場合ではない。


「お嬢様、ローガン様のところへ行ってみてはどうですか?」

「ローガン様のところへ?」


 ローガン・フェルメール公爵。公爵家の長男として生まれ、幼少期は父と前フェルメール公爵が仲が良く一緒に遊んでもらったこともあったのだけれども、その前フェルメール公爵が他の国に移住してからはほとんど会っていないわね。


「でも、なんで突然。最近はほとんど会っていないし」

「あの方二十六にもなって結婚なさっておりませんし、近づいてみたらどうですか」

「婚約できる男性を探す程度なら、話しを聞かせてくれるかもしれないわね」


 五年ほど前までとても仲良くしてもらっていたし、気分転換ということでも良いのかもしれない。それにもしいい人が見つかったのならリアムを見返すことが出来る。


 絶対良い男と結婚してやる




 

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