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99話 英雄VS不死神

 幼馴染が互いの顔を見つめる。一方は英雄として戦闘の才に溢れた者。他方は凡庸な才能ながらも努力を積み重ねて運命に抗ってきた者。

 しかして二者の共通項としてそれぞれ内には超常なる力が潜んでいる。


 白い騎士団の制服に包まれた三人の騎士達に見守られながらその戦いはどちらからともなく始められる。


 両者が同時に地面を蹴り、姿を消す。そして次に姿を現した時には先程まで二人の間にあった距離のちょうど半分の所で黄金の剣と黒い大鎌が刃を重ねていた。

 その瞬間、凄まじい破壊音と共に二人の持つ武器が交わった衝撃の余波が周囲へと伝わっていく。大地は削れ、風が吹き荒れる。


「あっぶなかった。突然始まるんだもん」

「既にあのお方の視界には我々の姿など映っていなかったからな。仕方あるまい」


 既に巻き添えを食らわない場所へと避難を済ませていたソフィリアとゼラスがそうぼやく。神殺しとしての二人ですら危険を感じるほどの衝突。

 その様相はまさにかつての英雄と不死神の戦いを彷彿とさせるものがあった。


「ワハハハッ! 青春じゃあねえか!」


 そんな緊張感が走るその空間で一人、地面へと座り酒盛りを始める人物が居た。神殺しの一員、ネルア・ゼファルスである。

 明らかに場違いな彼の様子にゼラスはため息を零す。


「あいつはいつも通りだな」

「ま、青春ってのも分かる気がするけどねん♪」


 そう言うとソフィリアはくるりと方向転換をして二人から離れるようにして歩いていく。


「どこへ行く、ソフィリア。まだ任務は終わっていないぞ」

「うんー? だって何だかこの任務あんまり乗り気じゃないって言うかー、邪魔したくないって言うか?」

「だから何だ。任務は任務だ。放棄すればお前でもどうなるかは分からんぞ」

「いやいや唯でさえ人手不足だってのに私みたいなチョー優秀な人材を無碍に扱うところなんて無いでしょ」

「だが神を圧倒したというオリベルですらあの扱いだ」

「な~に? 私の方が成果少ないとでも思ってるの?」


 ソフィリアは足を止めてくるりとゼラスの方へと向き不満げにそう零す。


「そうではないが」

「でしょ? それじゃね♪」


 そうしてピンク髪のうら若き女性団員は戦場に別れを告げる。


「そうではないが奴の方が潜在的には上。だからこそお前よりも締め付けが強いのだ」


 ソフィリアはすでにその場には居ない。その声が彼女に届くことはないだろう。独り言ともとれるその言葉は何よりもオリベルの事を評価する物であった。


「へっ、とはいえまだまだあの嬢ちゃんにゃあ届かんだろ」

「なんだ聞いていたのか」

「聞いてなくとも耳に入ってくるさ。俺ぁ地獄耳なんだ」


 酒を呷りながら楽し気に英雄と神との戦いを眺めるネルア。


「俺達はこの任務降りるつもりだが、おめえはどうすんだ?」

「決まっている」


 そう言うとゼラスはくいっと眼鏡を上げて告げる。


「私は任務を続行する。それが王国の意志なのだから」



 ♢



 激しい攻撃のぶつかり合い。拮抗しているかに思えたその戦いのさなかでしかしオリベルはその彼我の差に言葉を失っていた。

 英雄とはこれ程までに強いのかとまざまざと見せつけられている気分でいたのだ。


 今もなおオリベルが戦いを継続していられるのも半分根性、半分情けのようなものであった。


 実のところステラ自身まだこの戦いに身を投じきれずにいた。そのせいで少し手心が加わる格好となっていたのだが、それでさえオリベルは歯を食いしばって何とかついていけるレベルであったのだ。

 最初からステラが本気を出していれば一瞬にして消し炭にされることだろう。一合一合、剣と大鎌を交えるたびにそんな思いを募らせていたのだ。


 ステラから放たれた無数の光線が大地へと降り注いでいく。

 その一つ一つが大地を削り取る程の一撃である。危険度A程度の魔獣であれば軽く屠れるであろうその攻撃を大鎌の黒い斬撃を以てして打ち消していく。


 だがその一つ一つにかなりのエネルギーが奪われているのを感じる。両腕を纏っていた不死神の鎧も保てなくなり始めたのか、徐々にその装甲が剥がれ落ちていく。


 無数に降り注ぐ光線の中でもステラの剣による猛攻は続く。


 防戦一方となったオリベルがそれからもずっとうまく攻撃を捌き切れることはない。ステラの剣を受けた際に生じたほんのわずかな怯み。

 それをきっかけに一筋の光線がオリベルの体を貫く。


「ぐっ……」


 歯を食いしばって痛みに耐えるオリベル。だがその隙は人類最強の前ではあまりにも無防備であった。


 体勢を崩したオリベルの腹をステラが剣の柄で突く。

 その衝撃で倒れこんだオリベルの首筋に金色に輝く神剣アレスがトンッとその剣先を突き付けるのであった。


「勝負ありだね」


 そう言って勝ち誇るような笑みを浮かべる少女の姿はどこか懐かしい記憶をオリベルに想起させる。かつて無邪気に遊びあった二人。

 その気持ちを思い出させてくれたのである。


「相変わらず強いな、ステラは。全然勝てないや」

「当然でしょ。私は英雄だもん」


 昔は冗談であったその言葉は今となっては真実であることにどこかおかしさを覚え、笑みが零れる。


「何笑ってるのよ」


 口ではそう言いながらもステラの顔にも笑みが浮かんでいた。


 互いに顔を見合う二人。段々とおかしさが膨れ上がっていったのかいつしか二人はその場に座り込み、涙が出るほどに笑い声をあげていた。


「あははははっ、あー、いつぶりだろ。こんなに腹の底から笑ったのって」

「ハア、ハア、私もだよ」


 笑いつかれたその場で倒れこむ二人。敵味方の関係をとうに忘れているようにその時間を満喫した二人の下に一人の男が現れる。


「ステラ様。お時間です」

「……ゼラス」


 その言葉で現実へと戻された二人。オリベルの方はもう既に覚悟が決まっているような表情を浮かべている。


「第二部隊、オリベル。陛下の命により貴様を連行する」


 オリベルはステラとの戦いで既に消費しきっている。最早抵抗などできようもない。ステラはそんな彼がゼラスに易々と捕まるのを眺められている余裕などなかった。


「ステラ様。まだ何かあるのですか?」

「……」


 ゼラスの問いかけを無視し、無言のままただオリベルとゼラスの間に立ち塞がる。これが彼女にできるせめてもの抵抗であった。


「ステラ様。お気持ちは分かりますが――」


 ゼラスがそう言ってステラの横を通り過ぎようとした次の瞬間、突如としてゼラスの魔力感知に強大な魔力が引っ掛かる。

 瞬時に危険だと判断したゼラスはその場から飛びのく。


「エクスプロード!」


 刹那、先程までゼラスが居た場所に巨大な爆発が生じる。その爆発は地面を削り、凄まじい程の地煙を上げ、全員の視界を奪い去る。


「……やられたか」


 そして煙が晴れたころ、地面に倒れ伏していたはずのオリベルの姿が跡形もなく消えているのであった。

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