表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/146

97話 騒動

「適合者が逃げた? 第一部隊と第二部隊が戦闘中だと?」


 祝宴の気配が漂う大部屋にて報告されたウェルネスが顔をしかめる。

 元々、見張りが手薄にならざるを得ないこのパーティで抜け出す可能性があるとして警戒はしていたのだ。


 そこでその役割を申し出てきたのが息子であるセキ・ディアーノであった。


「場所は?」

「神殺しの訓練場です」

「そうか」


 それだけ聞くとウェルネスはスウッと立ち上がり、国王の下へと向かう。

 本来のセキであればオリベルの軟禁されている部屋の扉、窓とありとあらゆる場所を見張り、出ていこうとする寸前に止められていたはずである。


 それこそ戦闘にすらならないまま部屋の中から逃げ出せないようにだってできたはずである。それに加えて神殺しの訓練場という明らかに戦闘にうってつけの場所。

 それが意味するところはつまり、セキは最初から戦う気満々で乗り出していったという訳である。


 その息子の思いを知ってか知らないでか、ウェルネスは国王の下へ行くと、お伝えしたいことがございますと言い、会場から引き離していた。


「それでどうしたウェルネス」

「緊急事態です。不死神の適合者が逃げました」

「なにッ!? オリベルがか!?」

「はい」


 神の武器との適合者が逃げ出す、それもウォーロット王国に対して悪感情を持ったままである。

 神と適合できるような優秀な人材を逃したと同時に敵になり得ると言ったその状況は国王にとって芳しくない状況であった。


「やはりあの生活を強いるべきではなかったか」

「それは結果論です。本来であればこんなにやすやすと逃げられる筈がありませんので」

「だがあの監視生活が無ければ逃げようとすることはなかっただろう」

「お言葉ですが監視しておかなければ神の力による暴走による被害者が出ていたかもしれません」


 双方が言葉を交わすもその二つの意見が分かりあえることはない。それよりも目の前で起こっていることの解決に乗り出すのが賢明である。


「まあ良い。取り敢えず今はオリベルを連れ戻すのが先だ。神の力を、それも最高峰の神の力と適合できるオリベルを失うのは人類にとっての痛手となる」

「それもそうですね。では『神殺し』を出していただけますか? 今夜、帰ってくるのでしょう?」

「……やむを得ん」


 そう言うと国王はパーティはそっちのけで護衛の騎士を引き連れ、どこかへと姿を消すのであった。



 ♢



 王城が王太子誕生に浮ついていた頃、オリベルはというと王都の闇の中を走っていた。王都は広い。そのうえ、王都内に兵士が居ないわけではないため、人目を忍んで移動する必要があり、時間がかかっていたのである。

 戦えば容易に勝てるであろう、しかしオリベルとしても争いたくて抜け出しているわけではないのだ。


 とはいえ王都から逃げ出すのに苦労するのはやはり周囲を覆っている壁である。外には魔獣が居るために作られた壁は常人では登り切れないほどに高い。

 これを目立たないように乗り越えるのにはやはり人目が少ない場所を選ばなければならない。


「あそこなら」


 そうしてオリベルが行きついた場所は王都の中でも中心街からは程遠い、まさに人通りのない場所であった。後は飛び越えるのみである。


 目の前にそびえる巨大な壁。それを飛び越えるためにオリベルは自身の内にある魔力を練り上げ始める。白く均質な魔力がオリベルの身体を包み込む。

 いくら壁が高いと言えど、騎士団内部の中でも最強の身体強化魔法と最強の神の力を持つオリベルにとってそれを乗り越えるのは実に容易な事であった。


 地面にひびが入る程に強く地面から飛び上がるオリベル。オリベルの視界には目まぐるしいスピードで過ぎ去っていく灰色の景色、それが終わった先には外の広大な景色が開けていた。


「……何とか脱出成功だな」


 心の中で騎士団を抜ける前にオルカと少し話しておきたかったなと後悔しながらも今更戻るとまた軟禁生活が始まる、下手をすればより一層厳しい監視が為されるであろう。

 少し後ろ髪が引かれる思いをしながらもたどり着いた外の世界でゆっくりと歩みを進める。


「ここまで来たら後は楽勝だな」


 歩みが徐々に早歩きに、そして駆け足になっていく。行先は決まっていない。ただ、少なくともウォーロット王国以外の国を目指すつもりではある。


「ってこっちは故郷の方だったな」


 少し走ったところで自然と足が故郷の方へと向かっていたのに気が付き、そのまま足を止める。

 オリベルの中で母への別れの挨拶は先の帰郷で済ませたつもりであった。


 今戻っても迷惑をかけるだけである。


 故郷への方向とは全く違った方向へと足を向ける。そんな時、突如、巨大な力を感じてそちらを振りむく。


 力強く、それでいてすべてを包み込むほどの安心感を与えてくれるようなそんな力。どこか懐かしさすら感じるその力の中心に居たのは、オリベルが騎士団に入るきっかけを与えてくれた少女の姿があった。


 金色の長い艶やかな髪、そして綺麗な青い瞳。年相応に成長した女性の体は真っ白な騎士団の制服に包まれている。


「オリベル」


 そこには神殺しの一員にして人類最強としての『英雄』の運命を背負った、何よりオリベルの幼馴染であるステラの姿があるのであった。

ご覧いただきありがとうございます!


もしよろしければブックマーク登録の方と後書きの下にあります☆☆☆☆☆から好きな評価で応援していただけると嬉しいです!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ