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92話 裏切り

「そういやオリベル。お前、夜な夜な部屋から抜け出してるだろ」

「……そ、そんなことないですよ?」

「嘘つけ。何か怪しいなと思って一昨日出てった後にもう一回部屋の中に入ったらもぬけの殻だったんだよ」


 オーディ王子は楽しそうにそして意地悪気にそう詰めてくる。本当に糾弾するつもりがあるのなら今頃オリベルは投獄されていたことだろう。

 その気がないにしろ、オリベルはオーディ王子の考えていることをいまいち測り兼ねていた。


「まあ別にそんなに心配するな。最初に言った通り俺が生きていたら、ていうか俺が王太子になれたら暇な時間が出来るし、その間に逃がしてやるって言ってんだからよ」

「あはは、脅さないで下さいよ」


 オリベルはこの数日間、軟禁されている部屋から脱出できるルートを探るために色々と確認していたのだ。

 それで大体、オリベルが抜け出す時間帯の兵士たちの位置などを把握していたのだ。


「反応が面白かったからついな。すまんすまん」


 オリベルの不安を笑い飛ばすとオーディ王子はドカッとソファに座る。


「そういや聞いたか? そろそろステラが帰ってくるらしいぜ? 何でも前線での功績が上がったらしくてな」

「へえ、そうなんですか」

「一度お前を含めた三人で話してみたかったんだよ。だがまあステラが帰ってくる前に俺は居なくなっちまうんだがな」

「不吉なこと言わないでくださいよ」


 言葉ではそう言いつつもオリベルはオーディ王子の死期が刻一刻と近づいていることをその瞳で確認していた。

 既に死へのカウントダウンは行われている。あと2時間20分。


 それまでにオリベルにできることと言えば最大限にまで魔力感知の領域を広げるのみである。

 最近ちょうど確認してきた兵士たちの配置を頭に入れながら、それ以外の場所に向けて魔力を薄く広げていく。

 いつもならばオーディ王子はあと3時間程度はオリベルの部屋に居座る。

 たまに爆弾発言を投下するオーディ王子は念のため護衛を置いてきて、見張りの兵士にも離れるように言うため、現段階でオリベルしか護衛は居ないことになる。


 そのことを理解しているオリベルはより一層気を引き締めてその時を待つ。


 そのつもりだったのだが。


「ふむ、今日は早めに切り上げるとするか」

「え?」


 あと死期まで数十分というところでオーディ王子が話を切り上げて出ていこうとするのである。


「何かあるのですか?」

「まあ、無いと言っちゃあれなんだが、軍務副大臣に呼ばれててな。俺も奴に話があるからちょうど良いと思って引き受けてんだ」


 副大臣に呼ばれているとあらばオリベルが止める筋合いもない。しかし、このままオリベルの下から離れてしまえばオーディ王子は確実に暗殺されることとなるだろう。


「心配すんなって。ちゃんと護衛の騎士は連れていくからよ。ウチの護衛は強いんだぜ? なにせ俺が直々に騎士団員の中から選び抜いた最強の部隊だからな」


 心配そうな表情を見せるオリベルの肩をバシバシと叩き、自信満々にそう告げるオーディ王子。オリベルはそんな彼に向かって今思っている内容を話すかどうかを見定めていた。

 その内容とはもちろん、オーディ王子の死期が近づいているという事である。既にカウントダウンは20分を切っている。


 オリベルから離れ、護衛の騎士の下にたどり着くまでの間に暗殺されるという事だろうということは容易に推測できる。


 したがって、このことを伝えて行かないほうが良いと説得すべきなのではないかと考えたのである。しかし、副大臣との話し合いを一騎士団員が止めるわけにもいかない。

 どうすべきかと逡巡している間にもオーディ王子は部屋の扉に手をかけていた。


「それじゃ、また明日来るから」


 そう言ってオーディ王子が部屋の外へと出ていく。その顔には残り十分程度のカウントダウンが刻まれている。

 オリベルはこの部屋から抜け出す事は許されていない。


「殿下!」

「なんだ?」

「い、いやー、もうちょっと残っても良いんじゃないですか?」

「まあ俺もそうしたい所なんだが、時間に遅れちまったら奴の機嫌を損ねちまう。良い条件での話し合いなんだ」


 そう言ってオーディ王子はオリベルの申し出を断るとそのまま出て行ってしまうオーディ王子。

 その後ろ姿を見て、オリベルは行動に移す事を決断するのであった。



 ♢



「誰だ?」


 オリベルの部屋から出て、副大臣の元へと向かうために中庭を出た辺りで何者かの視線を感じたオーディ王子はそう言って周囲を威圧する。

 最初はその問いかけに答える者は居なかったのだが、無言で周囲を警戒し続けるオーディ王子に痺れを切らしたのか数人の怪しげな男達が姿を現す。


「気付かれましたか。あと少しだったのですがねぇ」

「そりゃあ、そんなに殺意を向けられたら分かるだろ。それでなんだ? お前らが俺を殺しに来た奴等か?」

「いえいえ、殺しに来ただなんてそんな。私どもは殿下を影から守るよう陛下から仰せつかった護衛ですとも」


 そう言ってオーディ王子の方へと歩み寄ってくる。


「……道理で人が少ないと思ったんだ。そういう事か」


 何かを察したオーディ王子はすぐさま腰に差している剣に手を掛けると、その近寄ってきた男に対して振るう。

 実のところ兵士が少ない場所を粗方探し終えていた暗殺者がここへと誘い込んだのである。


「情けねえな。分かってたってのにまんまと嵌められたぜ」

「おっとっと、物騒ですねえ」

「もう隠す必要はねえだろ? なあ、アーロン軍務副大臣」


 周囲に敵意を剥き出しにしながら自身が話し合いをする予定であった相手の名前を告げる。

 怪しいとは思っていたのだろう。話し合いの内容がオリベルの解放について前向きに検討する、というあまりにも都合の良いものであったから。


 ただ、同時に副大臣ともあろう者がその様な犯罪に手を染めるとは盲点であったのだ。


「副大臣? 何をおっしゃっているのか?」

「別に隠す必要は無い。まあ今となってはどうでも良い事だけどなあ!」


 そう声を荒らげるとオーディ王子は手前の男に斬り掛かる。

 しかし、その斬撃は空を切る。


 明らかにただ者では無い身のこなしでオーディ王子の攻撃を軽々と回避したのである。


「殿下のご乱心なら仕方がありませんよね」


 少し剣を嗜んでいるとはいえ、所詮は素人である。

 その道のプロである暗殺者から見れば隙だらけだ。


 針を通す様な少しの隙を突いて男がナイフをオーディ王子の首筋目掛けて振り翳す。


 まさにナイフが首を切り落とさんとした次の瞬間、突如としてそのナイフが弾き飛ばされ、空に舞う。


「やっぱりここか」


 そんな声と共に暗殺者とオーディ王子の間に白髪の少年が立っているのであった。

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