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91話 水面下

 それからオーディ王子は毎日のようにオリベルの下を訪れた。流石に王太子として任命される際の作法についての勉強には行っていたようだが、それ以外の時間は基本的にオリベルの下で過ごしていた。

 オリベルにはそれほどにオーディ王子から好かれている理由が分からなかった。いつ聞いても、ステラから聞いていたから、暇だから来たとしか言わないため、最近ではそれ以上でも以下でもないのだろうと気付き始めたのだが。


「それにしても暗殺されるかもしれないって分かってるのによく護衛も付けないで来れますね」

「護衛か……付けても仕方がないからな。もうあの予知を見てから何年も変わらないままだ。流石に諦めてるぜ」


 菓子を頬張りながらオーディ王子は言う。オーディ王子は幼少期の頃に殺される予知を見たと言う。その時にはすでに自身の属性魔法を知っていたというから驚きである。

 最初はその予知を見て常に恐怖にさらされていたオーディ王子。しかし、それも途中で考えるのは無駄だと断ずるようになったという。


「一応、毒殺警戒で専属の料理人を雇ったり、寝込みを襲われるの警戒で護衛になる俺直属の騎士も雇ってはいるけどまあ意味ねえだろうな。今まで俺の未来予知が外れたことはないし」

「そうなんですか」


 毒殺などの手段はオーディ王子には効かない。そんなことは相手も分かっているだろう。護衛が常に居るとはいえ護衛も人間である。

 一瞬の隙を突いて対象を殺すことなど暗殺集団にとっては造作もないことであろう。


「王太子が死んだとあれば大事になる。それは奴等も嫌がるだろうし、恐らく俺が王太子になる前に殺しにくるだろうな。ってまあ良いじゃねえかこの話は。俺が始めた話ではあるけどよ」


 と言っていつものようにオーディ王子が話を終わらせる。オーディ王子としては単なる話の種として出しただけであったため、それほど深く話すつもりはなかったらしい。

 しかし、オリベルはオーディ王子の事を助けるつもりであったため、話を聞きたがっていた。その結果、いつもこのように終わらせられているのである。


「まあ王太子任命まであと三日だ。それまでは楽しい話でもしてようぜ」

「分かりました」


 それからステラの話から始まり、王都での事など順番に話しを咲かせていく二人。


「へえ! 最近話題になってるあの店か!」

「はい。『キャッツ』は何と言っても日替わりのメニューがおすすめです。なぜかあれだけいつも破格の値段なんですよね」

「そうなのか! いつか行ってみてえな……って俺じゃ無理か。ハハハハッ!」

「笑えないですねその冗談」

「ハハハッ! すまねえ! すまねえ!」


 そんなことを話し合いながら時が過ぎていく。オーディ王子が自分の部屋へと変えるのはいつも大体晩御飯直前くらいである。

 そしてこの日もちょうどそのくらいに話を切り上げて、ソファから立ち上がる。


「今日も長居しちまって悪かったな」

「いえいえ、僕も暇ですのでいつでも来ていただけたら」


 そう言って見送るオリベルの目にはオーディ王子の死期がはっきりと映っている。あと二日。それがオーディ王子に残された時間であった。


「それじゃ」


 ばたりと扉が閉まる。それを確認したオリベルはゆっくりと扉を開き、廊下を覗く。


「早いな。もう居ない」


 先程出ていったばかりだというのにオーディ王子の姿はない。そしてそれと同時に、いつもオリベルの部屋を見張っている兵士の姿が見当たらない。

 それはオーディ王子が聞かれるのは嫌だからと人払いをしているからであるのだが、そうとは知らないオリベルはこれを好機だとそっと扉を閉めて、部屋に戻る。


「少しだけなら問題ないかな」


 見張っている兵士が居ないことを確認したオリベルは窓から外へと体を乗り出す。常人では飛び降りれない程の高さはあるだろう。

 しかし、オリベルほどの魔力障壁があればそれも可能とするのである。


「ま、いっか」


 そう呟くとオリベルは日が落ちかけている外へと飛び出すのであった。



 ♢



 王城近くのとある倉庫内にて屈強な見た目の男性が数名、そしてその真ん中に座するリーダー格の男が情報係として放っていたスパイから話を伺っていた。


「標的の隙はあるか?」

「現状、普段の標的は常に護衛が見張っており、付け入る隙はありません」

「睡眠時は?」

「無理ですね。標的の寝室のすぐ隣が護衛騎士の寝床となっております」


 オーディ王子はこの日のためにと、専属の騎士を雇い自身の居室の隣へと住まわせていた。よほどのことが無い限り、暗殺が成功することはないだろう。


「標的の食事も他の者とは違う料理人が作っているし、毒殺も出来ない、か」


 睡眠時も食事時も狙えない。さらに第一王子の最も大事な時期であるが故に守りの堅い王城から外へ出ることもない。

 そんな中で暗殺できるタイミングなど本当にごく僅かである。


 皆が頭を悩ませている中で、一人の男が機を見計らっていたかのように口を開く。


「あの、最近王城に一人の少年騎士が監視されているというお話はご存じでしょうか?」

「ん? ああ、知っているがそれがどうかしたか?」

「なんでも標的はその少年の下に毎日足繁く通っているようでして、その時なぜかいつも護衛が付いていないのです」

「だが騎士が居るではないか」

「それはそうですが、普段ならば護衛の騎士が十名程度いるところを一人だけになるのですよ? 騎士一人を捌く程度我らでは造作もないことでは?」

「……なるほど」


 そう言われてリーダー格の男が黙り込み、思考を始める。そして何を思ったかゆっくりと立ち上がると、先程戻って来たばかりの偵察者たちへと指示を出す。


「オリベルとやらの居室へのルート、それと標的がその部屋に何時から何時までいるのかを確認しろ。もうあと三日ほどしかない。その方法で行くぞ!」


 そうして闇に紛れた集団は水面下で壮大な計画を立てていくのであった。

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