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90話 未来

「後何日だ?」

「18日でございます」

「なるほど。ならば決行日はその前日だ。良いな?」

「御意」


 暗くした部屋の中で何者かが言葉を交わす。誰がどう見ても不穏な気配がするその密談が終わると、その内の豪奢な服を着た者が立ち上がる。


「我らの次代の王は第二王子だ。決してあの不真面目な奴に任せるわけにはいかない。我らが繁栄の為にも」


 そう言うとその者は幾人かの部下を引き連れ、その場を後にする。

 そして残った者は同時にほくそ笑む。


「……安い仕事だ」



 ♢



「なあ、オリベル。闇請負って知ってるか?」


 オリベルが大鎌の手入れをしていると、ソファに寝転がっていたオーディからそんな質問が飛んでくる。


「なんですか急に。闇請負? 知らないですね」

「殺人やら強盗やらの依頼をこなす、非正規の活動者たちの事だ。まあ犯罪者の集団だな。んで最近、こいつらが国内で暴れててな。厄介なんだ。まあ騎士団の管轄じゃないけどな」


 基本的に騎士団は魔獣関連の仕事をこなすため、犯罪関連の仕事は軍部の役割なのである。

 唐突にオーディ王子がそんな話を騎士団員であるオリベルに話す意図が分かない。


 オリベルが疑問に首を傾げていると、オーディ王子から次の言葉が投げ掛けられる。


「俺は近々それに該当する奴等に暗殺される」

「はいっ!?」


 あまりに衝撃的な告白である。そして、オリベルには死期が近いという如何にもそれらしい思い当たる要素がある。


「ハハハッ! 驚いたか?」

「いやそれゃ急にそんなこと言われたら驚きますよ」


 軽く笑い飛ばすオーディ王子にオリベルはそう答える。

 冗談なのか真剣なのか分からない。しかし、そんな事をわざわざ口に出すと言う事は何かしらの証拠は掴んでいるという事だ。


 驚くべきはその様な状況に居るというのにあまりにも自然体で日々を過ごせているという事にある。

 普通の人間ならば気が気ではなくなり、一瞬すら気が落ち着く事はないだろう。


 しかしオリベルの目の前にいる人物は今もゆったりとクッキーをボリボリと齧りながら過ごしている。

 それもオリベル以外の護衛を外して。


「多分ステラが帰ってくる前に殺されるんだ。だから伝言をお願いしたいんだよ」

「いやいやちょっと待ってください。話が早過ぎて頭が追いついてないんですけど」


 どんどん話を進めていくオーディ王子にオリベルは慌ててストップをかける。

 それもそうだ。一国の王族、それも次期国王が暗殺されるかもしれないという話を聞いて話に追いつける者は滅多にいない。


「なんだ、お前でも焦るか? この話題は」

「僕の事を何だと思ってるんですか」


 とはいえ、以前までのオリベルならば話を淡々と聞いていたであろう事は確かにそうなのだが。


「というかそれが分かっているのなら未然に防げるんじゃないですか?」

「それが出来たらしてるさ。俺だって死にたくはねえからな」


 そう言うと、体を起こしてオリベルの方を見るオーディ王子。そしてスッと目を閉じ、魔力を練り始める。


「……何だお前」

「はい?」


 突然魔力を練り始めたかと思えば、急にそんなことをいうオーディ王子。それに困惑しながら待っていると、オーディ王子がようやく目を開ける。


「俺の魔法の属性は未来予知だ。まあ見る未来を選べるわけじゃねえんだが、見たい対象の未来は見えるんだ」

「未来予知……なるほどそういう事ですか」


 つまり、自分の未来を見た時に殺される未来を見たという事である。未来を変えることはできないと知っているからこその先程の発言であったのだ。


「だがやっぱり変だな、お前」

「何がですか?」

「一切見えないんだ。お前の未来が」


 通常であれば未来が無い者など存在しない。未来が見えないというのは単に死んでしまうから未来が無いわけではない。

 少なくとも死ぬ際の未来は見えるため、そんなことはあり得ないのだ。


 考えても考えてもオーディ王子の中で結論は導き出されない。未来が見えない者など出会ったことが無いからであった。


「やはりお前は面白い奴だな」


 未来が見えないと言われて困惑しているオリベルにフフッと笑いかけると再度ソファに寝転がる。


「ここを出たいか?」

「それは出たいですね。部隊の皆と会えませんしそれに……」


 オリベルの根底にある目的、それはステラを死期という運命から救い出すこと、そして死期が不自然に早い者をその呪縛から救う事、この二点にある。

 これらを果たすためには閉じ込められているというこの状況は最大の障壁となっていると言っても過言ではない。


「それに?」

「僕が救いたい人を救いに行けませんので。ただ一生出られると思うなとはディアーノ軍務大臣から言われておりますので」

「まあ正規ルートなら無理だな」


 そう言うとオーディ王子がソファから立ち上がり、扉の方へと向かっていく。


「お前はここに閉じ込めておくにはもったいない奴だ。いや、この国に、か」

「はい?」


 オーディ王子の言っている意味が分からず戸惑うオリベル。ここに、というのは分かるが、わざわざ「この国に」と言い直したのが理解できなかったのだろう。

 オーディ王子はそれに答えることなく、続ける。


「もし俺が生きてたらお前をここから解き放ってやるよ。まあその場合、お前はお尋ね者になるかもしれないけどな。それじゃ」

「え、お尋ね者?」


 オリベルの質問に答えることなくオーディ王子はそのまま部屋から去っていってしまう。最後に不穏な言葉だけ残されたオリベルはますます疑問が増えるのであった。

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