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89話 国の王子

「殿下、朝ご飯をお持ちしました」

「ああ、すまない。助かるよ」


 オーディ王子が豪華なソファに腰かけ、茶を飲みながら使用人に礼を告げる。その王子の前には食卓にしては小さな机の上に所狭しと食事が置かれていた。


「殿下、この後、帝王学のお時間がありますが」

「ふむ……今日は休みで良い」

「いえ、殿下。あと少しである式典での所作振舞い等の授業がございますので」

「はあ、仕方ない。晩御飯前には来てもらうよう先生に言っておいてくれ」

「承知しました。それでは」


 オーディ王子付きの使用人がそう言うと部屋の外へと出ていく。


「……他人の部屋で何普通に生活してるんですか?」

「うん? だって暇なんだろ? 良いじゃないか。というか飯食おうぜ。腹が減って仕方がない」

「まあ、暇ですけど」


 ぶつくさと文句を言いたくなるのを堪えながらオーディ王子に急かされてソファに座る。目の前にある料理は第一王子のために拵えられた豪華な物ばかりだ。

 恐らくオリベルに出される予定であった物よりも遥かに豪華な食卓であろう。


 一つ、二つとご飯を口に運ぶたびにオリベルはすっかり不満を忘れて食に夢中になっていた。


「何ですかこれ。すごく美味しいですね!」

「だろう? 町で雇ってきた自慢の料理人が作ってくれたんだ」


 それからしばらくの間、食事を楽しんだ後、オリベルはまんまと乗せられていた事に気が付き、再度話を切り出す。


「それで今日はどういった用件ですか?」

「用件も何もただ遊びに来ただけだ。暇だからいつでも来てくださいって言ってただろう?」

「まあそうですけど」


 それでも普通、他人の部屋で生活し始める事があるか、と聞きたくなるオリベル。しかし、オーディ王子が来ることによって少し気が楽になったのは確かであるため、それを飲み込む。


「そう言えばお前の事でリュウゼンが滅茶苦茶軍務大臣と揉めてたな。隊長に無断で隊員を連れていくとは何事だ、ってな」

「そうでしたか。心配をかけてしまったみたいですね」


 それならば一言リュウゼンに声を掛けてからこれば良かったと後悔するオリベル。しかしあの状況で待ち伏せをされていればそれが出来なかったのもまた事実ではあるが。


「俺の親父が苦労してたよ。どっちの機嫌も損ねるわけにはいかないからな」


 リュウゼンの意見は確かに正しいのだ。本来であれば騎士団は国王直属の組織であって軍部とはまた違う。そのため、軍務大臣が騎士団員に対して強制力はない。

 隊長に確認を取ってそこから初めて働きかけることが出来るというものである。しかし、今回に限っては先に国王が許可を取ってしまっていた。


 そのためどちらの意見も正しく、板挟みとなった国王はさぞ苦労したことだろうとオリベルは想像する。


「ま、俺からすりゃステラが居なくなって暇だったからちょうど良いんだけどな」

「僕からすれば全然良くないんですけどね」


 言葉ではそう言うも実はオリベルは逆に良かったのかもしれないと思っている。その理由はもちろんのことオーディ王子の死期があるからである。

 もしもここで軟禁状態になる事が無ければ彼の死期を悟ることはできなかっただろう。オリベルはこの短期間で最初は少し嫉妬していたもののいつしかオーディ王子の豪胆で優しい人柄に惹かれていたのである。


「そういや、お前って一応神を撃退したんだろ? 下手すりゃ『神殺し』に入れるんじゃないか?」

「僕じゃまだ無理ですよ。あの時の力を安定して出せるかと言えば微妙なところですし」


 そもそもまだまだ完全に適合していない状態で神殺しの面々と連携して戦えるのかが怪しい。戦力的には申し分ないかもしれないが、内に潜む脅威を考えると前線での任務は恐らくオリベル単体での投入となるだろう。

 ある種の特攻である。オリベルが前線で果てれば誰も適合できない不死神を始末できるし、オリベルが成功したらしたらで利益が大きい。


 どちらに転んでもウォーロット王国ないしは人類にとっての益になる。


「ふーん、そんなもんか」


 食後の茶を口に運びながら、オーディ王子は言う。オーディ王子はオリベルの処遇についてあまり詳しくない。

 どちらかと言えば軍部が主導となってこの処遇を決めたため、把握しているのは軍部の上層部及び国王だけである。


「……そういえば殿下は何歳なんですか?」

「唐突だな。今年で18だよ。18の誕生日に正式に王太子として任命されるんだ。あと十日くらいだな」


 今年で18歳、そしてもうすぐ王太子として任命されるという事を聞き、どうにもきな臭さを感じ取るオリベル。

 オーディ王子の死期は明らかにこれに関連していると考えざるを得ないほどにはタイミングが重なっていた。


「ま、何にせよ話し相手が出来て良かったぜ。王太子だのなんだの言われてるが基本暇だったからな」


 そう言ってにかっと笑うオーディ王子の顔には呪いとも呼べる数字がまだ刻まれているのであった。

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