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84話 危機一髪

「ニャハハハッ! 君達死にそうじゃない? 大丈夫そう?」


 宙に浮かびながら笑い転げるピエロ、クラウスの前には肩で息をしながら睥睨するセキと倒れ伏しているカイザーの姿がある。


「……えっぐ……バケモンじゃん」


 周囲ではまだまだクラウスが引き連れてきた魔獣達が獲物に狙いを定めるように睨みつけている。まだギゼルとダグラスが奮闘してはいるものの様子から見るに時間の問題であろう。

 ギゼルの持つ大剣は最早ぼろぼろとなり、地面の上に捨て置かれている。


「大丈夫だ。私が居るからな」


 セキがそう言って上に向けて片手を上げる。すると、周囲からバチッ、バチッと触るだけで感電しそうな音を立てながら雷がセキの下へと集めっていき、やがてそれは一つの巨大な雷の玉を形成する。


崩雷玉(ほうらいぎょく)


 迫りゆく大いなる雷の宝玉。怪しげな衝撃音を生み出しながら、クラウスと魔獣達を飲み込むようにして迫りゆく。


「ニャハハッ、結構頑張るじゃあないか! 面白い、君面白いよ!」


 そう言うとクラウスは回避する素振りも見せずにスーッと雷の宝玉を受け止めるように右腕を上へと突き出す。


 そうしてクラウスの腕に触れた瞬間、雷でできた玉はその完璧なる形状を崩し、広範囲に渡って雷による衝撃を繰り広げる。

 眩く光り輝きながら体を焼き尽くしていくそれに耐えられる者など居ない。


 光の速度で駆け抜けていくその攻撃の回避に遅れ、雷の衝撃が直撃した魔獣は皆、片っ端から真っ黒に焦げあがっていく。


「流石にやったでしょ」

「……」


 カイザーが喜びを含んだように呟くも、攻撃を打ち出した当の本人であるセキは無言のまま返事もしない。


 最早直撃した者の中に生き残りは居ない、誰もがそう思った、いや思い込みたかったその時、その衝撃の真ん中からニャハハッという軽快な笑い声が聞こえてくる。


「あ~あ、ボクの手駒たち、結構減っちゃったか~。止めた方が良かったかな? まあいっか」


 何事も無かったかのようにその攻撃のど真ん中で宙に浮いているクラウス。その右腕にはバチバチッと衝撃を放っている小さな雷の玉が浮かべられていた。


「あ、あれを食らってまだ……」

「だろうな。相手は神だ。この攻撃で死なないとは分かっていた」


 しかし、計算違いであるのもまた確かな事であった。セキは神を討伐する特殊な部隊、『神殺し』に最も近い存在である。

 先程の攻撃で少しは傷付けられると考えていたのがまさかの無傷。それどころか子供の遊戯であるかの如くあしらわれたのだ。


 ここに居る者だけでは手に負えない、そんなことを確信させる瞬間であった。


「カイザー。二人を連れて逃げろ」

「……隊長はどうするんですか?」

「どうするか、いやどうなるかは分からん。取り敢えず行け。この任務は失敗だ」


 そう言うとセキが手に持つオレンジ色の剣を大きく振るうと、出口の方に向かって一直線に巨大な雷の斬撃が飛んでいき、魔獣達を切り刻んでいく。


「それじゃ」


 カイザーはそれだけ言うと、セキによって切り開かれた退路に向かって走っていく。


「ニャハハッ、そうはさせないよん♪」

「黙れ、貴様の相手はこの私だ」


 逃げるカイザーの背に黒い球を飛ばそうとしたクラウスに対してセキが斬りかかる。雷を纏ったその斬撃は触れるだけでも感電し、焦げる筈であるが、クラウスには一切効いた様子はない。


「お前はもう飽きたんだよ」


 先程までの軽い口調とは打って変わった冷徹で残酷な言葉がピエロの口から紡がれる。次の瞬間、セキの体を黒い球から作り出された一本の黒い剣が貫いていた。


「カッ、ハ」


 たかが人の身の魔力障壁など神の前では無力である。


「まだ息があるねぇ。これ以上暴れられても困るから仕留めちゃうか」


 黒い剣に体を貫かれたセキを宙に投げ飛ばし、その周囲を無数の黒い球が囲い込む。


「楽しかったよ。じゃあね」


 ニャハハッという笑い声と共にすさまじい勢いで周囲に浮いている黒い球が全て身動きの取れなくなったセキの体へと迫っていく。

 まさにクラウスの攻撃がセキの息の根を止めんとして迫りゆくその瞬間、何かがスウッと前を通り、気が付けばセキの下へと迫っていた黒い球が真っ二つに切り刻まれ、道半ばですべて破裂していた。


「ニャハハッ、こりゃあ意外だ。まさかあれから逃げ切れるなんてねぇ」


 クラウスの見据える先には黒く不気味に光った大鎌を構える、白髪で金の眼を持った少年の姿があった。


「……な、なんだこの竜!?」


 そんな声が遠くの方から聞こえてくる。そこではカイザー達三人の前で魔獣達を蹂躙する火竜の姿があった。


「……こりゃあ笑えないねぇ。一体どうしてあいつの催眠が……ってあぁそうか。君が原因だね」


 そう言ってオリベルの方へと向き直るクラウス。火竜が人間に対して怒りを持っていた理由、そしてその理由となる人間の存在を魔力という形で感じ取っていたクラウスはオリベルの姿を見て納得する。


「……おい、不死神。奴は危険だ。今の内に逃げておけ」

「そう言えばそうですね。すみません、そこのお三方」


 セキに言われて素直に応じるかのようにそうギゼル、ダグラス、カイザーの三人に話しかけるオリベル。しかし、次に出てきた言葉はまるでセキの指示に従っていない内容であった。


「セキ隊長を連れて逃げてくれ。ここは僕とその火竜で片を付けるから」


 そうして魔力を放出したオリベルの姿にギゼルは歴然たる実力の差にただ歯を食いしばって指示に従うことしか出来ないのであった。

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