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82話 火竜

 第一部隊とクラウスが衝突する最中、オリベルは重傷を負った状態で倒れ伏していた。そのすぐ近くには巨大な赤い体を持ち、鋭い牙を携えた強大な火竜の姿がある。

 以前の個体よりも大きく、魔力量も比較にならないほどに強大なものになっているその火竜の危険度は最早SSくらいのレベルになっているのだろう。


 身動きが取れないほどに全身、傷だらけとなっているオリベルにとってはまさに絶体絶命の危機であった。


「避けない、と」


 燃え盛る魔力の暴力を感じ取ったオリベルは大鎌を支えにゆっくりと立ち上がる。しかし、立ち上がったは良いものの、そこから動ける気配はない。

 先程のクラウスの魔法は斬撃や衝撃波が混ざり合っていた。それですでに全身の骨がズタボロになっているのだ。


 大きな口から打ち出されるすべてを燃やし尽くさんとする焔の息吹。それは周囲から湧き出している溶岩よりも熱量がある。

 それに触れてしまえば魔力障壁を纏っていれど、骨すら残らないだろう。


 眼前に迫るその焔を虚ろな眼で見つめながら、しかしどうすることも出来ない。


 そんな状況をどこか諦め気味に俯瞰しているような、そんな感覚に陥っていた時、突然何かがオリベルの全身を駆け巡る。


 それはオリベルにも何かわからない。


 しかし、どういう訳か気が付けば次の瞬間にはオリベルの体は今まで動けなかったのが嘘かの様に焔の息吹を軽々と回避していたのである。


「あれ?」


 いつの間にか焔の息吹を回避できていたことに驚くとともに、自身の身体を纏う黒い魔力に気が付く。と同時に先程までズタボロだった体がいつの間にやら軽くなっているのが分かる。


「これは……」


 圧倒的な速度の回復力。そんな超回復がただの人間の身に突然起こるはずがない。

 すぐに何の仕業かを悟ったオリベルは反射的に自身の手に持つ黒い大鎌を見る。


『てめえの体は俺の身体も同然だからな。勘違いすんじゃねえぞ? 助けたんじゃなくてあくまで俺様のためにやったことだ』


 そんな声が頭の中に響き渡ったような気がした。


「少し封印が解けかかってきているのか?」


 つい最近も勝手に封印が解放され、不死神が暴れだした。そして今も明らかに不死神の力のお陰で助かっている。

 封印が解けかかっているのか、それともオリベルが力を増すことで力を引き出せつつあるのか。


 それは言葉の通り、神のみぞ知ることである。今、オリベルの頭の中には目の前の巨大な赤い龍を倒すことしかなかった。


「はあっ!」


 オリベルが魔力を練り上げた瞬間、世界が止まった。いや、止まったかのように錯覚した。いつもよりも濃密な純白の魔力が世界を包み込んでいるのだ。


「……力が増した?」


 まるで自分の力ではないような感覚。しかし、その力が身に余っているという感覚もない。オリベルは気が付かない間に幾度となる不死神の力の汚染を受けて適合率を高めていたのである。

 それがゆえの大出力。本人が気が付かないうちに着実にその力の適合は進んでいた。


「行くぞ!」


 真っ白で一切の乱れもない均質な魔力を帯びながら、同じく濃密な魔力を放つ火竜の下へと迫る。


 一瞬の迎合。


 振りかざされた焔に包まれた竜爪をすんでのところで躱すと、そのまま怪しく光る艶やかな黒い大鎌を振りかざす。

 瞬間、火竜の腹元に一本の赤い筋が走り、火竜がその痛みに苦悶の唸り声を上げる。


「よし、効いた」


 これほどの大出力の魔力を使っていながら薄皮一枚斬れただけだというのにオリベルは悲観することなく、寧ろその事実を喜ぶが如くにそう声を漏らす。

 危険度SSの魔獣とはそれほどの存在なのだ。常人ではまずその魔力障壁を突破することすらできないだろう。


 いったん攻撃が成功するとそれから深追いすることなく、身を翻して火竜からの距離を取る。


「取り敢えず僕の攻撃が通ることは分かった。後は……」


 その瞬間、大地が揺れた。


 怒り狂った火竜が地面へと強烈な息吹を放ったのである。


 それは地面へと到達すると爆発的な威力を伴ってオリベルのいる地面一帯をすべて獄炎へと変える。


「熱っ……」


 かろうじて気が付き、上空へと飛び上がったものの、獄炎はオリベルの両足を蝕んでいた。しかし、その焔もまるで無かったかのようにオリベルの足は徐々に回復していく。

 それはまるで不死神の持つ『再生』の力のようであった。


「これが不死神の力か」


 魔獣の中には体が欠損しようと、元通りになる個体も居ることには居る。ただ、どうして不死神の再生力が異常であると言われているのか。

 それは圧倒的な速さの回復力にあった。


 現状、オリベルの魔力量では一度の戦闘に大きな再生が三度、というのが限界ではあったが、それこそ不死神の無尽蔵とまで言われた魔力量を前にすればほぼ無限である。

 だからこそ、不死神の動きを止めるには封印という手立てしかなかったのである。


「てかこいつもこいつで出鱈目な強さしてるな」


 すっかり火の海と化した地面を見下ろしながら、オリベルは魔力を巡らせる。


 オルカに教わった魔力感知も併せて全ての動きを感知できるそれは宙に舞うオリベルに追撃を加えんとする火竜の攻撃を捉えていた。


「はあっ!」


 オリベルの持つ大鎌から放たれる極太の黒い斬撃、そして焔を纏う巨大な火竜の前脚。その二つが宙で交差した瞬間、途方もない程の衝撃波が辺りを飲み込むのであった。

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