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81話 魔獣部隊

「いつまで落ち込んでいるつもりだ?」


 セキがそう言って三人の方を振り返り、そう言う。しかしすぐさまに元気を取り戻せというのは難しい。

 なぜならあんなにハッキリと実力差を見せつけられたのだから。


「自分達が私と同じ場所に居るとでも思っていたか? だとしたらリュウゼンの所の新入りに置いていかれるわけだ」

「お、置いていかれてなんて……」

「置いていかれてなんてない? 今の醜態なら神に対峙するのは愚か、すぐさま消されるだろうな。神と戦闘できたあの二人とは大違いだ」


 セキは最初から三人が自身の助けなしで任務を達成できるとは思っていなかった。

 それではなぜ、助けなしで達成できたら前戦での任務への参加を許すと言ったのか。


 それは三人の実力の過信っぷりを試すためであったのだ。


 セキはこの任務の難易度がかなり高い事を第八部隊の調査結果を聞いた時から理解していた。

 しかし、三人からはそれを危ぶむ発言どころか下に見る発言しか出てこなかったのだ。


「お前達は自分の実力を過信している。自信も限度を超えれば成長を妨げる。せいぜい自分の程度を見つめ直すんだな」


 そう言うとセキは俯き気に話を聞いているギゼルへと視線を向ける。

 実は今回の任務でセキはギゼルだけは評価していた。

 二人が諦めようとしない中、ギゼルだけは一人逃げようとセキに提案していたからだ。


 それは自分の実力が届いていないと即座に判断を下せた、という事にある。

 諦めが早い、というわけではなく、引き際が分かっている、とセキは評価したのである。


 しかしそれを当人に伝える事はしない。今ある自分の問題点だけに身を向けさせるべきであると判断したからだ。


「ニャハハッ、見〜つけた」


 そんな折、突如として四人を絶対零度の様に凍てつく悪寒が襲う。

 それと同時にあまりに多くの魔力量が一瞬にして発生した事により、息苦しさをも覚える。


「なんだ貴様は?」


 呼吸ができないほどの濃密な魔力。それに圧倒されていると悟られないようにポーカーフェイスを貫きながら、目の前のピエロに言葉を投げる。


「なんかさっきも聞いたような言葉だな〜。君たち人間にバリエーションってものはないのかい? まあいいけど」


 そう言うと黒い顔のピエロはニヤリと笑みを浮かべるとこう告げる。


「ボクは遊戯の神、クラウス。君達がボクの兵隊達を減らしてるって気づいてねー。やめてくんない?」

「無理だな」


 兵隊、その対象が魔獣達のことだと瞬時に悟ったセキは同時に目の前のピエロご人類の敵であることを理解し、腰に差す剣を引き抜く。


「お前達、逃げろ」

「で、ですが」

「いいから逃げろ! こいつは神だ! 足手纏いがいる場では俺でも勝てるか分からない!」


 反論の一切を許さないセキの口調に一瞬圧倒されるも、三人はすぐに行動に移そうとする。


「まあ手遅れなんだけどね」


 いつの間にか周囲に張り巡らされた黒い球。そのどれからも魔力は感じ取れない。

 だが、恐ろしいのはこれからであった。


「じゃあね」


 クラウスが一つパチンと軽やかに指を鳴らすと、その一つ一つから突発的に強大な魔力が破裂する。

 炎、氷、斬撃、衝撃波、カマイタチと多種多様な属性の攻撃が四人を襲う。その衝撃で地面が削られ、粉塵が巻き上げられる中で、クラウスは満足げな笑みを浮かべる。


 しかし、煙が上がった瞬間に広がる光景を見て少し顔をしかめることとなる。


「ニャハハッ、しぶといね~君」


 見るとそこには三人を守るようにして全ての攻撃を一身に負い、全身が傷だらけとなったセキの姿があった。


「せ、セキ隊長!」

「……こいつから逃げるのはもう不可能だな。周りを見てみろ」


 セキにそう言われて三人が周囲を見渡すと、いつからそこにいたのか、気が付けば数えきれないほどの魔獣達によって周囲を囲われていたのである。

 そのどれもから危険度A以上、下手をすれば危険度S程度の強力な魔力の波動が感じ取られる。


 それはまさに異常事態であった。本来であれば危険度Sの魔獣など、国に一体出現するかしないかくらいの存在である。

 それが数十も存在するこの空間、明らかにクラウスの仕業であることが分かる。


「こんな所で力を蓄えていたのか」

「ニャハハッ、流石にバレちったか。まあでも君達はここで死ぬし、教えてあげても良いかな」


 そう言うと空中を軽やかなステップで駆け、楽しそうに踊りを披露しながら告げていく。


「ボクたち、クリエラ様派の神は人間の世界の内部に潜りこんで中から崩していこうとしてるのさ。ボクの目的はここに集めた強い魔獣達を使って人間の国に攻め込むってとっても魅力的な戦略なんだよ」


 嬉しそうにそう告げるクラウスの話をセキは色々と疑問符を浮かべながら取り敢えず一言一句を聞き逃さぬように耳を傾けていた。

 まずクリエラ様という存在がいるのをセキは知らない。しかし、クラウスはただの自己満足で今から行われる絶望的な状況を伝えるだけのため、わざわざ説明することはしない。


「ここ以外にも色んなところでボク達は活動してるのさ。どう? 絶望しない? ねえ」


 前線で神の支配地域を奪還しようと奮闘している中で実は人間の居住区域内部への侵入を許しているという事実にセキは歯がゆさを覚える。

 それは現在のウォーロットの騎士団の活動が空回りしていることを指しているも同然であったからだ。


「君達ってバカだよね~。外じゃなくてまずは中を固めないと。だからこうして内側から崩壊していくのにさ」


 愉快に勝ち誇るかのように告げるクラウス。それは挑発でも何でもない、ただの嘲笑であった。


「てめえ! 言わせておけば!」

「やめろ、ダグラス。お前じゃ勝てない」


 怒りのあまり飛び掛かろうとしたダグラスをセキが手で制止する。


「今から指示を出す。よく聞け。ダグラス、ギゼルの二人は周囲の魔獣の掃討、カイザーは私と共にあいつを倒す。良いな!」

「はい!」


 今までは慢心があったからこそだらけていたが、非常事態ともなればそれは流石の第一部隊である。下された指示を瞬時に受け取り、返事をする。


「セキ隊長。僕もあっちに向かわなくて良いんですか?」


 唯一、セキとの共闘を言い渡されたカイザーはそう疑問を口にする。なにせ、先程あの危険度より下程度の魔獣たちを相手に三人ともが倒されたのだ。

 二人で相手が出来るとは思えなかった。


「だからこっちを私とお前二人で手早く片付けるんだ」


 セキの考えでもあの魔獣を二人だけでは相手しきれないとは分かっていた。それはカイザーを向こうに加えても同じこと。


「お前の風属性魔法は私の雷属性魔法と相性が良い。だからこうするしかないんだ」


 そうして第一部隊とクラウス率いる魔獣部隊との正面衝突が始まるのであった。

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