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8話 オルカの実力

「やはりあなたが勝ちましたか」


 試合から戻ってくるとオルカがオリベルに対して分かり切っていたと言わんばかりにそう言う。それがオリベルには少し引っかかった。


「分かってた風に言って」

「分かってましたよ。その佇まいに視線の動かし方、どれを取っても私と同じくらいの境地に居ます。まあそれ以外の能力が私よりも劣っておりますので私には勝てないでしょうが」


 褒められているかと思えば後半で自分よりも下だと言ってくるオルカに対してオリベルは喜べばいいのか怒ればいいのか分からなくなる。

 実力があると褒められるのは嬉しい。そして実力がオルカよりも下だという事はオリベルも自覚している。


「君は何ていうか速そうだよね」

「よく言われますね。ですが私はそれだけではありませんので」

「うん、そんな気がするよ」


 何となくだけど、とオリベルは続ける。断定はしない。断定すればあなたに何が分かるのでしょうかと言われるのがオチであるとオリベルも分かっているのだ。


「そう言えば名前を聞いていなかったですね。あなた、名前は?」

「オリベルだ。君はオルカだろう?」

「まあ知っていますよね。かの有名なあの第一部隊隊長の妹なのですから」

「え? そうなの?」

「あら? 知らなかったのですか。あまり名乗りませんが姓はセキと同じディアーノです。王都ではかなり有名だと思っていたのですが」

「僕は田舎出身だからそういうのは疎いんだよ」

「だから強い割に見たことのない顔だったのですね」


 オリベルがオルカの名前を知っていたのもこの会場に来た時に、周りの受験生が噂していたからであって名前以外の情報はなかった。


 第一部隊隊長の妹ならば強いのも納得だ、とオリベルは思う。しかし、その納得が間違いであったことをオルカの出番になって思い知ることとなるのであった。


「そろそろ私の出番ですね。そちらで見ていてください。私の力をとくとご覧に入れましょう」



 ♢



「……強すぎる」


 オルカの試合が終わった時、オリベルは自然とそう呟いていた。

 開始しておよそ一秒。爆発的な魔力がオルカから発せられたかと思えば、一瞬にして試合が終了していた。当然勝ったのはオルカである。


 オリベルの認識が一回りも二回りも間違えていたことに目の前でまざまざと見せつけられたことによってようやく理解した。

 あれは人間の尺度で測ってはいけない、人の皮を被った化け物だと。


 速いだけではなく殲滅力もある、それを試合という形でオリベルに見せつけてきたのだ。


「どうでしょう?」

「うん、強かったよ。まさかあんなに強力な魔法を打てるなんて思わなかった」

「そうですか。ありがとうございます」


 帰ってきたオルカはオリベルの返答を聞き、満足げに頷くとまたオリベルの隣の席へと腰かける。

 オルカにとっては入団試験に合格するのは当然の事だった。

 それゆえにペース配分を考えることなく、ただオリベルに見せつけるためだけに派手な、いわばパフォーマンスを行ったのである。


「オルカから見てこの中で誰が強い?」

「私です」

「いや、そこはオルカ以外で頼むよ」

「私以外ですか? そうですね」


 そう言うと一瞬思案顔になった後に名前を告げる。


「まずはギゼルさんですかね。彼の大剣捌きには目を見張るものがあります。それに何といっても身体強化魔法が他の方に比べて強力です」

「やっぱりあの人は入ってくるんだな」


 受験会場で聞いていた人と同じ名前がオルカの口からも出てくる。それよりもオリベルはオルカがそこまで相手の事を詳しく知っていることに驚いていた。

 普通、ただの受験生の情報でどんな能力が他よりも秀でているかなど調べるだろうか、と。


「次はダグラスさんですね。彼の武骨ながらにして状況を切り抜ける能力には光るところがあります」

「なるほどね」


 どこか野性的な青年である赤い長髪の男性、ダグラス。彼もまたオリベルが耳にした名前の中にあった人物である。有名なだけあって流石に実力も一級品なのだ。


「あとはカイザーですね」

「カイザー? 聞いたことのない名前だな」

「あなたは聞いたことが無いかもしれませんが彼も実力者として有名です。なんせ私と同じセリューテ養成学校の卒業生ですからね」


 セリューテ養成学校とはウォーロット王国において最高峰の騎士育成学校である。その名前を聞いたオリベルも知らない名前ながらにしてなるほどねと頷く。


「でもオルカが首席なんだろ? オルカの方が強いじゃないか」

「いえ、そうとも限りません。養成学校では実技だけでなく日頃の生活態度も加味されて成績が付けられます。彼は不真面目でしたので次席でしたが実技だけですと私と同等だと思います」

「オルカと同等か。そんなに強いんだ、あの人」


 今も前の座席に足を乗せている様などを見ると、口は悪いが行儀は良いオルカとは正反対だ。


「顕著なのはそれくらいですかね」

「なるほど、ありがとう」


 その三人が自分と当たるのかを確認しようとオリベルは心に決めたそんな時、第一部隊隊長であるセキが立ち上がってこう告げる。


「諸君、本日はよく来てくれた。想定以上に受験者が集まったため今日は第一試合がすべて終わり次第終了したいと思う。第二試合からは明日行うため、すでに第一試合を終えた者は解散してまた明日ここに集まってくれ」


 そんなセキの号令によってオリベルの一日目の入団試験は終わりを告げるのであった。

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