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79話 実力

「暑すぎる」


 頭から滴る汗を手で拭いながら洞窟内部を歩いていく。所々溶岩が噴き出しては固まりを繰り返しているまさに獄炎の世界。洞窟の中だというのに最早灯りなど必要のないくらい明るい。


 あれから地盤崩落で行きついた場所がここであった。尋常ではないほどの熱と所々から噴き出す毒ガスがオリベルの身体を蝕まんと迫りくるこの危険地帯で何故オリベルが耐えられているのか。

 それはオリベルが強固な魔力障壁を張ることが出来るからである。常人であればこんなところに落ちた時点で死んでいたことだろう。


 とはいえ魔力障壁を貫通するほどの暑さがオリベルを襲う。耐えられないほどではないが、一刻も早くこの場から離れたい気分ではあるのだろう。

 気休めに手をパタパタと顔の前ではためかせながら歩いていく。


「ん?」


 と、その時、何かを感じ取ったのかオリベルの足がその場でピタリと止まる。そして次の瞬間には、オリベルの目の前に巨大な角が頭から生えた蛙の魔獣が飛び出してくる。


「こんなところにも魔獣が居るんだな」


 取り敢えず生態系を形成することが確認できたことに安堵するとともに、目の前に現れた蛙の魔獣の背後から続々と魔力を感じ取る。


「……嘘だろ」


 現れた魔獣の数はざっと数十にものぼる。そしてそのどれもが危険度A以上の魔力を内包していた。

 強さもさることながらその魔獣の種類の多さにもオリベルは驚いていた。共生している魔獣であれば話は別だが、基本的に同じ種族の魔獣が群れることはほとんどない。


 だというのに目の前の魔獣の群れは恐らく六種類程度の魔獣達で構成されている。そのどれもがしっかりとオリベルを睨みつけているのだ。


「取り敢えず倒すか」


 最初に現れた角蛙が襲い掛かってくる。伸縮性に優れたその腕を叩きつけてくる。その破壊力は岩をも砕くであろう。


 オリベルは一つ呼吸をすると、全身に真っ白な魔力を纏っていく。更にその集中力を保ったまま、不死神の力と同化する。


 ()()の同化に成功したオリベルは角蛙が反応できない速度で間合いに潜り込むと思い切り黒い大鎌を振るう。


 そして次の瞬間には無残にも真っ二つに斬り伏せられた角蛙の亡骸が転がっているのであった。


「まずは一匹目」


 角蛙がやられて間髪を入れずに狼の魔獣が数体でオリベルに飛び掛かってくる。しかし、対峙する相手の一挙手一投足を(つぶさ)に感じ取れるオリベルにとってそれを捌くのは容易である。


 瞬時に魔獣の死角であろう位置へと移動すると、大鎌が振り下ろされ、数体の魔獣の首が一気に刈り取られる。

 オリベルが生まれ持つ静の魔力、そして不死神をの同化で得られた驚異的な膂力ですべてを薙ぎ払っていき、気が付けば溶岩で包まれたその大部屋の中は死屍累々となっていた。


「解除っと」


 終わったことを確認するとオリベルは不死神との同化を解除する。あの暴走があった時からなぜか不死神の魔力との適合が進み、両腕の同化が出来るようになったオリベル。

 片腕を同化した時と両腕を同化した時とでは力の格がまるで違う。ほとんど二倍ほどに膨れ上がる。


 だが、現段階ではまだ完全に両腕の同化に馴染んだわけではないらしく、長時間の同化を継続させると意識を持っていかれてしまいそうになる。

 そのため、オリベルは戦闘が終わるとこうして同化を解除するのであった。


「この先にもいっぱい居るな」


 魔獣達が続々と姿を現してきた謎の横穴。その先に更なる魔力を感じ取ったオリベルはそちらへと足を向けるのであった。



 ♢



「あっちーなあ、おい!」


 オリベルが地下深くにて魔獣を駆逐した時を同じくして、第一部隊の面々もようやく溶岩に囲まれた地帯へとたどり着き、オリベルと同じようにその異常なまでの暑さに対して文句を垂れる。


 しかし、ここからがオリベルとは違うところである。


「静かにしてろ。今、対処する」


 そう言うとギゼルは全体を覆うほどの大きな水の膜を作り出す。それが周囲、そして内部の熱を吸収していき、空気調節を行っていく。


「おっ、便利な能力あんじゃねえか。これで魔力障壁もかけずに済むな! ガハハハッ!」

「……因みに鉱山ガスもあるから魔力障壁は外したら死ぬぞ」

「マジかよ。あっぶねえな。そういうのは先に言え」


 あまりにも理不尽なクレームを受けながらもギゼルは澄ました顔でそれを受け流す。


「なんかビシバシ魔力感じるねぇ。ようやく本拠地って感じかい?」

「この奥に火竜が居るのかもな」

「その前にあいつらを倒さないとだけどな」


 そう言ってセキがくいっと指を向ける方向にはこちらも同じく危険度A以上の魔獣達がうようよと居た。その種類は多岐に渡り、どの魔獣もどこか目が血走っている。


「おうおう、こりゃあ骨の折れそうな相手じゃあねえか! いっちょ、俺様が……」


 そう言い終わる前にダグラスの姿がその場から消える。


 それはまさに一瞬の出来事であった。


 誰の目にもとまらぬ速さで駆け抜けてきた二足歩行の兎の魔獣『格闘兎』がダグラスの巨体をいとも簡単に吹き飛ばしたのだ。

 その速さと膂力に一同が気を抜かれている内に二人目、三人目と次々に殴り飛ばされていく。


 そうして次にその格闘兎が目を付けたのは仲間がやられているというのに冷静な態度を崩さないセキである。


「早いが、ここまでだな」


 そう言ってセキが全身に雷を纏おうとしたその時、背後から何者かが近づいてくる気配を感じ取る。


「まだまだあ!」


 それは先程吹き飛ばされたばかりのダグラスであった。魔力障壁を貫通し、多少の怪我は負っているものの動けないほどではないらしく、勇猛果敢に格闘兎へと飛び掛かっていく。


 あと一歩でその刃が届き得るその瞬間、ダグラスの横腹に強烈な一打が突き刺さる。


 この場に居る魔獣は格闘兎だけではない。魔獣同士で出来た隙を補っているのだ。


 吹き飛ばされたダグラスはというと、どこからか現れた水のクッションによってその体を受け止められている。


「ここにきて一気に魔獣のレベルが上がったな」


 口から流れる血を拭いながらギゼルが辺りを観察する。一体一体から危険度A以上の力が感じ取れる。オリベルやオルカがそれを軽くいなしているのが異常なだけで本来であれば高危険度の魔獣となる。


 ギゼルも元Aランク冒険者であったとしてもこれ程の危険度の魔獣がここまで一堂に会すことはなかったのだ。


「セキ隊長、危険すぎます。ここはいったん離れましょう!」

「ほう、逃げるのか。だがお前の言っていたオリベルやオルカならこの程度、乗り越えられると思うがな」


 痛いところを突かれ、少し逡巡するが、命に代えられる物はない。咄嗟の機転でその場から逃げ出そうとしたその瞬間、部屋中をはち切れんばかりのまばゆい光が走る。


「閃光迅雷」


 全てを焼き尽くさんと降り注ぐ雷が魔獣達を薙ぎ払っていく。それは最早戦闘ではなく、蹂躙。ギゼル達が苦戦していた魔獣達の姿は跡形もなく消え去っていく。


「お前たちの実力はここまでだ。まだまだ前線で任務をするには程遠い」


 その惨状の中でただ一人ゆらりと歩いていくセキ・ディアーノ。そこで三人は初めて本当のウォーロットの騎士の姿を目の当たりにするのであった。


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